第1章10話 先へ
=学校 屋上=
(反魔法軍突撃5分前)
「それにしても不安とは対照に静かな日ね……」
弥生は副会長に向けて心情を吐露する。
空は青い海のように輝いていた。
「しかし、気配はしますね……」
副会長もそれに同意する。
今、2人は5,600メートル先にいる6人の不審な人間を観察していた。
最近、何もしないが学校周辺をうろついている人間は多くなっている。
そのたび生徒会員が追い出していたが先日、
書記の人間と不審な人間が戦闘に入りぎりぎり逃げてきた、
という出来事があった。
それから、生徒のみならず教師も参加するようになったが人は増す一方だった。
「そして、この時間は教員の数が最も少ない……」
弥生は今の状況に不安がにじみ出ていた。
「確かにそうですが……この学校の状況なんて簡単には分からないと思いますが」
そうは言ってるものの副会長も弥生の言いたいことは理解していた。
つまり確認みたいなものという事になる。
「まあ、あいつらがいつから監視しているかによるわね」
「それか内部に反魔法軍がいる可能性」
声が呼応するように返答が帰ってくる。
だが、2人にとってそれは共通の認識であって仲間意識は全く持ってないのだ。
「……あいつらを追い出しといてくれるかしら?」
弥生がふと口にした言葉に副会長は頷く。
「分かりました、対処しておきましょう」
そういって彼は加速をしてあっという間にこの空間から立ち去った。
「かさね……これが終わったら一緒にゆっくりしましょうね……」
弥生はそう呟きながら空を見上げた。
それから、少し時間が過ぎ弥生は起き上がる。
「そろそろ着いたかしら……」
弥生はそう呟くとさっきの方向を向く。
予想通りその先には副会長と怪しい人間が6人ほどで言い争っていた。
「ふう。こんなこと繰り返して本当に世界は変わるのかしら……」
感情が言葉に変換され空気に溶けて消えた。
「それにしても遅いわね……」
弥生は外していた視線をもう一回副会長に向ける。
すると、さっきの雰囲気とは全く違う空気が広がっていた。
「え……?なんで?」
目を凝らすと魔法の光でその場所は乱舞していた。
「なッ!とりあえず人を!」
弥生はそう叫び無線機を取ろうとした瞬間、さっきまで感じていた気配が強くなるのを感じた。
彼女は不審に思い周囲を見渡すと20人くらいの人間がすごい勢いで学校へ向かっていた。
時速60キロメートルくらいだろうか?
「加速魔法!?」
彼女は一瞬にして何が起きたのか悟った。
反魔法軍が動き出したのだ。
弥生は内心思っていて口に出せなかったことが現実になっていた。
不審な人物は反魔法軍でここを監視していたのだ。
つまり、ここにサーバントがいることがばれてしまっていた。
「ッ!無線機……」
弥生は無線機を手に置き叫んだ。
『緊急!反魔法軍接近!武器を持って対処しなさい!!』
しかし、間に合わない。
すでに加速魔法所持者は何人も校内に侵入していた。
教員は慌てて出て魔法の攻防が始まる。
「ここは、本隊じゃない……」
弥生は呟く。
20人もの加速魔法適正者が存在していて他の補佐が一人もいないのだ。
本来、チーム戦の魔法戦闘は加速が先制攻撃をし、他の魔法適正者がアタックをかけるのが一般的なやり方になる。
つまり、本軍が他に存在していて今この瞬間、
学校に向かっている可能性があるのだ。
「サーバントを探さないと……」
弥生はそう言い屋上を抜ける。
彼女はかさねと鉢合わせにならないようにと願う。
「あったら殺されるわよね……」
そう呟き魔法の火花の渦へ姿を消していった。
**************
もう何分が過ぎたのだろうか?
時間は無情に過ぎていき、命の消える音が世界に色を付けていた。
「っく!これならどーかなッ!」
「うお!危ない……」
赤城と少年がすごい勢いで魔法を使い、攻防を繰り返している。
「もう……本当に邪魔しかしないんだね、あの子」
少女は私の体を少し触っただけであの2人の戦闘を見ているようだった。
私はそんな行動に何だかじれったくなってきた。
とりあえず、会話をしてみよう。
「あなたは誰なの?せめて目隠しだけでも外してくれない?」
少女は私の言葉を聞くと一泊おいて答えた。
「あ、そうだね、ごめんごめん。
目隠し外すよ」
ナイフの切っ先の音が突き刺さる。
すると、今まで黒でおおわれていた視界に色がつく。
それは光の波となり私の目を焼き焦がそうとする。
脳は処理に遅れ鈍く動いた。
「……眩しいッ!」
思わず叫んでしまう。
数十秒して視界が戻ってくると辺りを確認する。
そこはもう私の知っている風景ではなかった。
赤い火の海。
生徒の命を食い殺す死の世界だった。
赤城と少年が戦い、少女が私の隣に立っていた。
そして、その周囲には
「反魔法軍……」
一瞬で分かった。
反魔法軍のメンバーは右肩にカラスと鷹の絵が描いたエンブレムが縫い付けられている。
全員がそれを付けていてあいつらが何者かが脳はすぐに判断をした。
そして、赤城は私を守るために戦ってくれていた。
「ッ!赤城!……おい、てめぇ!速く拘束を解け!!」
私は少女に向かって精一杯の焦燥を込めて叫び散らす。
少女は一瞬、表情を固めたがすぐに、悪の笑顔を光らせた。
「女の子としてそういう喋り方よくないと思うよ?」
「いいからッ!速く!」
「だーめ!
お兄ちゃんがここで君を見てっていったから」
「……なにそれ」
少女は短い緑色の髪を熱風に乗せている。
ブラコンかよ……
「あ、私の名前はね、エトリア・ミリンって言うの。
あっちの男の子は私のお兄ちゃんでエトリア・ミラン。
下読みでいいよ。
よろしく」
そういうと業火のように燃える感情の嵐と共に動く戦闘を、
まるでそよ風のように背を向けて私の顔を覗き込んできた。
絶対の信頼という奴なのだろうか?
緑と赤のオッドアイがとても印象的な少女だ。
「……分かったから速くこの拘束解いてよ」
苛立ちを隠してゆっくりと声を出す。
ミリンはそれを見て笑みをこぼした。
「だーめ。あの屑との戦闘が終わったら!」
こういう存在は話が通じない類の人間なんだと思う。
そうも思っているうちに赤城と少年の戦闘は増す一方だった。
だが、私は少年の圧倒的な力差に気付いた。
確かに今の状況では互角として戦っているが表情は全く違う。
赤城は全開で魔法を出し、歯を食いしばって汗がすごいのに対して、
少年の方は疲れの表情一つ見せず戦闘を楽しんでいるようだった。
「そろそろ、行動に移るよ」
ミリンがそう言った瞬間赤城の右腕が宙を舞った。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
赤城が叫ぶ。
その瞬間、私の心の中で何かが動いた。
それは、最近来るようになったどす黒い何かとは違う。
焦燥?
救済?
友情?
すべての感情表現が私の脳を駆け巡るがどれも引っかからずに過ぎ去ってゆく。
だが、私のやるべきことは本能として分かっていた。
あそこへ行かなくてはならない。
「集中するんだ……」
ミリンが首を傾げるのを無視して自らに語りかける。
想像するのは
最美の血のように煌めく赤の下地。
連想するのは
禁忌のように輝く白の円。
創造するのは
創世のように堂々とした声。
意識を、魂を体から隔離する。
加速する。
100倍速に。
いや、まだ足りない。
1000倍速に。
もっと速く魂を飛ばす。
誰にも触れられない1秒を自分のものにして……
私の魂は神域に到達した。
*************
赤と白の世界はいつも通り心が中和される。
心はこの世界を愛し、愛されていた。
『君からこの世界に来るのは僕が覚えている限り、初めてかな?』
「そう言う事になるね」
言葉は自分の物ではないと思うほど綺麗に浄化されて霧散する。
『君のマナがここに流れ込んできて捕まえるのは簡単だったよ』
少年は嬉しそうに喋った。
そんな彼の声の様子に私の気分も高まる。
「なら、そろそろ姿見せてよ」
姿と言えば私の体はどうなっているのかと思いぺたぺたと触るとちゃんと肉があった。
太ってはないけどね(ドヤァ。
『分かったよ。今回は君のマナに免じて姿を具現化するよ』
そういうと、大きなコップのようなものが現れた。
大きさは2メートル半といったところか?
普通にどこにでもある透明のガラスに水が8割くらい入っている。
そこに人がいた。
爬虫類のように光る黄緑色の目を光らせ、
濃い紫の短い髪が水の中で踊る。
暗黒と不気味な光として妙にマッチしている。
てか、男の子なのだろうか?
普通に胸がある。
髪も結んでいる。
僕といった声は確かに少女のような喋り方としてもアウトではないが、
トーンは高めの男の子の声に間違いない。
やはり俺の〇〇ラブコメはまちがっている。の戸〇彩加の声に堂々さを混ぜた声に近いが、実際聞くとやっぱりすぐに男の子だと分かる。
現実はそんなもの。
ってことはやはりこの子は声の主ではないのだろうか?
『僕が声の主……神だよ』
コップの子が喋った。
同一人物であることは間違いない。
だが、一つ不思議の思う事があった。
「女の子?」
性別が声と体ではっきりしないため、割と真剣な目で聞いてみる。
神は苦笑しながら口を開いた。
『僕は男の子だよ。皆、女の子だと勘違いするんだけどね』
「胸もあるし、トーンが少女向きだからね……」
やはり、男の子かと思う。
少し様子を見るために時間を空けるが神は水から出てくることはない。
神はすべてを敵に回すような目で私を見て次の言葉を促している。
その目線は爬虫類のように鋭く、深いものだった。
「水から出てこないの?」
『僕の体を維持するためさ。
マナのおかげで僕は存在できるんだよ。
本来マナは目に見えないけど1000倍以上に濃縮すると液体になるんだよ』
「へぇ。マナって液体になるんだ……」
学校で教わっていないことを聞いて驚く。
忘れただけかもしれないが目に見えなくて身近にあるものが、
こうやって目の前に現れると好奇心が前に出てくる。
その、感情に打ち勝てず、再び口を開こうとすると、神がその前に言葉を動かした。
『そろそろ君の要件を教えてくれるかな?』
体を泳がせて私の方へ眼が動く。
身長は私よりちょっと低め
(つまり高校生の平均的慎重かな)だが、威圧はそれをはるかに超えるほどの力を持っている。
怒らしたらかなりやばい敵っぽい。
「あ、えっと、助けたい人がいるから、リアルで繋がれている私の体を開放して欲しいの」
『なるほどね……』
神が少し考え始めた。
実際私も何で神に助けてもらおうなんて考えたのかは分からない。
本能で動いているようなものだ。
唯一頭で考えているのは心臓を修復したのが神だという事くらい。
『分かったよ、君の要望を引き受けよう』
「ありがとう」
だが、そこでこの世界の感情が変化する。
いや、そのように感じた。
神はうすらと笑みを作り水の中で短く結んだツインテールを動かした。
『藍川雪菜さん、それに副会長の殺害が条件。
それで、僕は君にリアルでの拘束解放と、特殊能力の殺欲を習得させてあげる』
「殺すって……それに殺欲って?」
『それは、なた今度君が来た時にでも。
それじゃあそろそろ時間かな。
赤城君、ちゃんと助けてあげてね』
「え!?待って!私まだそ契約にオウケー言ってないんだけど!?」
そう叫んだ瞬間、私の魂が急速に後退するのを感じる。
意識の線が切れそうだ。
『……残念なけど赤城悠太君と君が結びつくことはないと思うよ』
神が最後にそう呟いた気がした。
=================
キャラクターデータ
名前:赤城悠太
外見:短髪で青い髪。
体形:身長はやや高め
学年:3年生5組
魔法属性:純粋型水魔法
魔法能力:7エナジー




