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狂殺のメニーナ  作者: あけみん☆
第1章 動いていた針
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第1章9話 終わりの予感

 痛い……

 痛い……

 痛い……


 誰かが私の姿を見ると今の生活に八つ当たりするように殴っては立ち去って行く。


 私の心は恨みの一色で黒く光っていた。

 殺意をエネルギーとして。


 体内時計では縛られてからおそらく1週間は経過している。

 数えた中では7回くらい時間が続いた。


 --以前、私の手足は椅子に縛られていて動くことが出来なかった。

   お姉ちゃん……いや、弥生のしたことであることは間違いなかったが何でこんなことをしたのかは見当もつかなかった。


 こうして今日、8回目の朝日の温かさを皮膚が伝えてくれた。


 ==今日、すべてが動き出す。


***********


 「かさねじゃん!あんたのせいで1週間も停学処分になっちゃったんだけど!」


 8回目の朝、最初に飛び込んできた声は雪菜だった。


 うわ、もう最悪じゃん……と、心の中で呟く。


 「てか、遼河から聞いたんだけどすげー格好してんだな、お前」


 何もしゃべらなかった私の口は久しぶりに口を開いた。

 自分でも何でなのだろうと思う。

 殺意ではなく、恨みでもない。


 だが、何かの感情が私の心を刺激させた。


 「それもこれもあんたのせいでしょ?本当に最悪……」


 弥生に対する恨みの方が大きいのか、

雪菜に対してはほとんど愚痴程度の強さになってしまった。


 「てか、殴られまくってるって聞いたけどその割には傷一つねえな」

 「あんたに心臓壊されても復活するくらいだからね……回復能力でもあんじゃない?」


 淡々と喋っているが実際そこはまだ疑問として心に住み着いていた。


 心臓から始まり男子が殴ったら痣になって1週間くらい傷み続けると思ったら、

10分もしないうちに逃げるように痛覚が消えていったのだ。


 「回復能力ねー……」


 雪菜が意味深な感じで吐息を吐く。


 私の目は目隠しされていて彼女の表情を見ることは出来なかったがおそらく、

笑っているのだろう。

 見下した状態で。


 「まあ、いいや。あんたにはもう用事もないから。ご武運を」

 「はいはい」


 雪菜は私を殴らなかった。




 体内に時間を頼っているとだんだんコツを掴んでくるものだ。


 1時間ごとのチャイムのおかげで正確な時間を把握できるようになってきたからだ。



 雪菜との会話が終わってから2回目のチャイム、

 つまり2時間が経過した。


 もう、時計の針は11時を指すころだろう。

 いつまでこんなことが続くんだか……と、思うと寂しさがこみあげてくる。

 そんな感情はつばを飲み込んで奥へ押しやった。


 (あれがサーバントの子なの?お兄ちゃん)


 ふと、私の耳に誰かの声が届く。


 (そうだね。それにしても何であんなことになってるんだろう?)

 (お、お兄ちゃん!今のうちに殺しちゃおうよ!)


 その声は対象が私であるかのように進んでくる。

 いったいどこから話しかけているのだろうか?


 「誰……?」


 私は二つの声に向かって喋りかける。

 姿は見えないのに私に存在が感づかれたかと言いたいような間が通り過ぎて行った。


 (お兄ちゃん!聞こえてるみたいだよ!?速く殺しちゃお?)


 少女の声が聞こえる。


 話し方は幼いものの中学生くらいに聞こえる。

 耳が退化してそう聞こえるだけかもしれないが。


 (駄目だよ。正々堂々と戦わないと。それじゃないと正式に勝ちだとは認められない)

 (そうだった……)


 もう一人は少年の声だ。


 なんか声の雰囲気が似ている気がする。

 会話的に兄妹なのだろうか?


 (ううん、とりあえず、このサーバントを完全に戦える状況を作ってあげようか)

 (突撃させちゃう?)

 (そうしよう)


 兄の方が完全にかしこい気がする。


 てか、私はさっきから会話においてかれて(着いてきてもないが)

何が何だかよく分からない。


 「あの……どなた?」

 (待っててね、サーバント5号。私たちが殺してあげる!)


 そういうと、二人の気配が消えた。


 何か嫌な予感がする……そう、心は訴えていた。


****************

 もうすぐ、昼休みが始まる。



 =学校 屋上=



 弥生はまだ授業にも関わらず屋上で遠くを見ていた。

 侵入者を警戒して。


 「会長、そろそろ交代いたしますが……」


 副会長が会長のそばに寄ってきて喋りかける。


 太陽が二人を優しく包み込むが弥生たちはその温かさには甘えていられる雰囲気ではなかった。


 「いるわね……」


 弥生は副会長の言葉を返さないで自分の言葉を当てる。


 副会長も弥生が見てる視線の先を見ると10人ほどの人間が5,600メートル先に立っていた。


 「そうですね……対処しますか?」

 「いつも通りだから……って対応していいのかしらね」


 弥生の目は何者かの気配を感じ取っていた。

 それは、遠くにいる人間ではない。

 ただ、弥生が不安に思っているのが


 「ただ者じゃなさそうなのよね……」


 存在は確認できないが確かに存在している。


 根拠は殺しを欲する臭いともいうのだろうか?

 それが、弥生は感じ取っていた。


 「……分かりました。今日は私もここで見張らせていただきます」


 副会長もその匂いを感じ取り遠くへ目を向け始めた。


 「襲ってくる日は近いわね……もしかしたら今日かもしれない」


 ふと、弥生がこぼした声に緊張が走る。

 副会長もその予感は危惧していたのかもしれない。


 「ええ、そうかもしれませんね。

  ……かさねさんの方はいいんですか?」

 「そろそろ、やめろって事かしら?」

 「端的にいうと……」

 「まあ、あの子なら大丈夫よ。今放したら暴走するわ」


 弥生はそうため息をしてかさねの縛られている方位を見る。

 だが、建物が邪魔をして姿を見ることは出来なかった。


 「そうですね……」


 その雰囲気に副会長も乗っかってため息を一つ。


 そのあとは沈黙と緊張が屋上を支配していた。




 =学校 教室=



 「嫌な予感がする……」


 雪菜の発した言葉は霧散して消えるはずだったが遼河の耳にとまった。


 あと20分もしたら昼休みだが、

雪菜はその場を立ち去りたい気分で胸が膨れていた。


 「……いるな。反魔法軍」


 隣に座っている遼河が雪菜に向かって喋り始めた。

 しかし、その声は他の誰にも聞こえないくらい小さい。


 「どうする?弥生先生に連絡取るか?」


 雪菜は遼河に向かい緊張の表情を向けるが至って遼河は冷静だった。


 「いや、もし反魔法軍が動いてんなら弥生先生から連絡くるだろ」

 「じゃあ、この胸騒ぎは私だけって言いたいのかよ」


 雪菜は若干イライラ気味だ。


 その原因はただならぬ存在が付近にいる事だろう。

 雪菜はそういう空気にはかなり敏感な方だった。


 「いや、君の事は信頼してるさ。

そうじゃなくて、動いてほしいときは連絡があるだろうって事」


 そう言いつつも、遼河は事前に受け取った連絡無線を握っていた。

 遼河も不安なのだろう。


 「確実に半径1キロにいるぞ。サーバントが」


 勿論、サーバントはかさねではなく他の存在だ。


 「かさねは大丈夫なのか?

あんなにぐるぐる巻きだったら逃げようにも逃げられないぞ」


 雪菜は真っ先にかさねの事を心配し始める。

 だが、それは友達としてではない。


 「万が一やばいときは学級委員長がどうにかしてくれんだろ。

心配いらないさ」


 雪菜がそれを聞くが一瞬彼女の脳裏に暗殺という言葉が駆け抜ける。

 だが、遼河はそれを悟ったように


 「暗殺は出来ないよ。

サーバントは正面向き合って戦う正々堂々の勝負」

 「分かってんだよ、そんなこと」


 だが、雪菜は納得しなかった。

 勿論、かさねがすぐに殺されるとは彼女は思っていない。


 実際、かさねの心臓が壊れてからの一戦は明らかにかさねの方が有利だったという事は雪菜だけが知っていた。


 雪菜は魔法を全力で酷使し罠も大量にはった全力攻撃に対して、

かさねには笑う余裕があったのだから。



 「……本当の闘いはこれからの戦いなんだぞ。かさね……」


 雪菜はそんな呟きを心に収めておいた。



 彼女はかさねに感情流入をしすぎたのだった。


 =学校 校門(かさね拘束場)=


 「あと20分で昼休み……?」


 私の頭に浮かんだ予想をぼんやりと口にする。


 何か嫌な予感がする危険な胸騒ぎとは対照的に静かな時間が過ぎていた。


 「おうおう。正解。

目が使えないと時間の流れに敏感になるのかねぇ」


 私の言葉に呼応するように学級委員長の言葉が返ってくる。

 授業中、

おそらく毎日のように私を監視しているあいつは近くにいるだけでも目障りだ。


 「あっそ」


 会話が成り立たないようにそっけなく言葉を返す。



 しかし、今日ははっきり言って学校全ての緊張感が違うようにも見える。


 1時間ほど前に聞いた声の存在ははっきりと危険な存在であることを、

主張しているようにも見えた。


 「……それにしても、嫌な予感しかしないねぇ」


 学級委員長も同じことを考えていたのかままならない言葉を口にしている。


 「……来るんじゃないの?反魔法軍」

 「そうかもねぇ。正体も分からない敵にこんなに速く接近されることになると怖いものだ」


 生徒会の人間が何を言う?と言いたくなる。


 学校のトップ精鋭が集まってる生徒会は強さのレベルが違うと思う。

 そんな奴らが怖いと言っていいものなのだろうか?


 「そんなこと言うならここから解放してよ?」

 「無理。君がこうした状況にある分被害は最小限に収まるはずだよぉ?」

 「……やっぱあなたの言いたいことは訳が分からない」


 口が会話をしたがっているのが分かる。


 お腹の中にいる黒い感情を紛らわすためという理由が大きかった。


 「そういえばあなたの名前ってなんていうの……?」


 言葉をあいつに向けないで呟く。


 学級委員長がかすかに笑ったのを聞いて胸が熱くなった。

 恥ずかしい。


 「んな!何でも……!!……なくはないけど……」


 私の感情がどうしてそう動いたのかは分からないけど否定する気分にはなれなかった。


 「僕の事を名前を覚えていないなんて心外だなぁ。

……赤城悠太あかぎゆうた

 「……ふうん」


 その後赤城と私は言葉を交わすことはなかった。



 10分後、昼休みに入る5分くらい前に生徒会委員の使っている無線機に弥生の声が走る。


 『緊急!反魔法軍接近!武器を持って対処しなさい!!』


 「弥生!!」


 私が叫んだと同時に体が熱くなるのを感じる。


 「っく!こんな速くに接近したのか!?」


 赤城が叫んだ瞬間魔法の発射音が聞こえる。


 足音がいくつも積み重なって一つの音楽にもなっているみたいだった。


 魔法がいくつもぶつかり合い音だけが私の耳に届く。


 「大丈夫?今殺してあげるからね?」


 さっき聞いた少女の声が聞こえた。

 手に暖かい人の感触が伝わる。


 「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


 赤城の声が空を切り裂き爆散した。


 あいつもあんな声が出来るのかと心が言う。



 「おっと、君の相手は僕だよ?」


 さっき聞いた少年の声が聞こえた。


 目隠しされてても分かる。

 学校は一瞬で火の海に飲み込まれていることに。


 生徒の叫び声が、

 消えてゆく命の音が、

 泣き叫ぶ少年少女の声が、

 崩れ落ちる校舎の悲痛が、

 すべての音が、

 私の耳は拾っていた。


 冷静な心はそれをすべて無視し続けている。

 そのおかげで私はオーケストラを聞くように聞き舐めていた。


 皮膚に伝わる懐かしい感覚のする体温と共に。





 今日、エクレア高校は反魔法軍の奇襲に合い倒壊した。

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