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「それより驚いたのは、あなたの方よ。フィン。何せ国からお墨付きをもらったんだもの。きっと周囲からの見方も暮らしぶりも変わってよ。残念ね。これまでみたいに引きこもれなくなって」
「ぐっ!」
口に放り込んだクッキーが、喉に詰まった。リリーが慌ててカップにお茶のお代わりを注ぎ入れながら、自慢げに胸を張った。
「そうですとも! フィンお嬢様だって大したものです! 何せ陛下から直々に、この国の魔石研究の専門家としてのお墨付きをいただいたんですからっ。魔力研究者の仲間入りなんて、すごいことです!」
「いやぁ、専門家って言ったって」
今回の魔石を使った仕掛けの数々が、国で大いに話題になった。今時魔力を感じ取れる人間自体が希少だし、まして魔石の声を聞けるなんて前代未聞だ、と興味を引いてしまったらしい。結果、国から魔石に関する特権をいくつか与えてもらえることになったのだ。
「そりゃ確かに魔石掘りするにしたって国から人手も経費ももらえるし、王立魔力研究院への出入りだって認めてもらえたのは嬉しいよ。いつだって希少な魔石を見に行けるし、屋敷に置き切れないコレクションだって保管しておいてもらえるって言うし。でも」
正直、喜びよりは不安の方が大きい。だって自分にできることと言ったら、本当に魔石の声を聞くことだけなのだ。どんな力を持っているかとか、どんな感情なのかくらいはわかる。けれどあくまでなんとなく、だ。
「あんまり期待されても困るっていうか、できたらひっそり魔石を眺めて楽しんでいたいっていうか」
けれどまぁ、今回のことで国からのランバート家の評価はぐんと上がった。父は陛下直々に新たに領地をもらえたし、ローグも今までよりずっといい仕事を斡旋してもらえたし、王都に屋敷まで賜った。
それだけじゃない。何と言っても驚きは――。
パアァァァァンッ!
ひゅうぅぅっ。
ポンポンポンポンッ!
空に次々と打ち上がる色とりどりの花に、大聖堂のまわりに集っていた観衆から明るい歓声が上がった。
「きれいねぇ! あっちは赤、こっちは黄色。大きいのも小さいのもいっぱい」
「まるで大輪の花みたいだね! お母さん」
「あっちのは小さな花が集まって咲いてるみたいで、まるで花束みたい」
「お祝い事ってのは、やっぱりこうど派手でにぎやかでなくちゃな!」
大小さまざまな魔石花火に彩られた空を見上げる人々の顔は、一様にキラキラと輝いている。まるで魔石たちみたいだ。
土の中でひっそりと眠っていた魔石たちは、これまで誰にも見向きもされなかった。何の役にも立たず屑石なんて呼ばれて。
けれど今はもう違う。世界を大きく変えるような力はないけれど、日々の暮らしにちょっとした楽しさや弾むような喜びを与えてくれる、あったらちょっと嬉しいものに生まれ変われるのだともう皆知っている。
だって今この空一面に咲いたたくさんの花は、その魔石から生み出されたものなんだから。
そう皆に知らしめたのは、外ならぬアリソンだ。
アリソンの魔石を使った商売は、見事成功した。アリソンが生み出したのは、魔石を使った狼煙をさらに改良した魔石花火をはじめ、光や音、色を駆使した演出道具たち。雷や火、風などといった力を持った魔石をさまざまに組み合わせ、多種多様な反応を生み出した。それを大小さまざまな打ち上げ花火や演出にぴったりなさまざまな演出に使えるよう、商品を次々と生み出したのだ。
もちろんフィンも手伝いはした。どの魔石にどんな力があるか、どう組み合わせればいいか。魔石同士の相性なんかを確かめながら、アリソンとともに商品開発に携わった。けれど発案や商品化は、すべてアリソンが手掛けた。
これが国中で大いに受けた。出産や誕生日、国の定めた祝祭やその土地ならではの催し物。そうしたイベントを華やかに彩るのにぴったりだ、と大評判になったのだ。
そしてお祝い事と言えば、もちろん――。
王都でもひときわ目立つ荘厳な建物、大聖堂の祭壇の前で向き合うフィンとローグ。どこか照れ臭そうに、けれどようやくこの日を迎えられたことに誇らしさと抑えきれない喜びに溢れた顔でふたりは見つめ合う。
「ここに、ふたりを神に認められた夫婦と認めます」
神官の粛々とした声が、大聖堂に響き渡った。同時にわき上がる盛大な拍手と祝福の声。緊張から解かれたふたりの顔に、くしゃりと満面の笑みが広がった。
今日は、フィンとローグふたりの婚礼の日だった。しかも場所は、王族やごく一部の限られた上位貴族しか立ち入ることを認められないはずの大聖堂で。
この度の活躍により、フィンとローグは国から大聖堂で婚礼を挙げる許可を与えられた。例の一件のせいで一度は婚約解消までしたと聞いた国王陛下が、ならばと特別に許可をくれたのだ。
貴族界の中でも下位に属するだけでなく、立ち位置としてもどうにもパッとしなかったランバート家がまさかあの大聖堂で、とランバート家は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
そして今日、ふたりはついに夫婦としての新たな一歩を歩み出した。
「さぁ、行こうか。フィン」
「うんっ! 行きましょう。ローグ」
ちょっと気取った仕草で差し出されたローグの腕を、フィンは頬を上気させ取った。
婚礼を終えこれから向かうのは、ローグが陛下から褒美にと賜った新しいお屋敷だ。それほど大きな屋敷ではないけれど、ふたりが新しいスタートを切り人生を歩んでいくには申し分ない。
石造りの立派な大聖堂の前で待機してた馬車にふたりが乗り込んだと同時に、さらに空に大輪の花が咲いた。
「見て! うんと特大の打ち上げ花火よ。きれいねぇ!」
「本当だね。だけどこんなに商品を使っちゃって、店の品がなくならないかな」
「ふふっ! 大丈夫よ。アリソンだもの。この婚礼でうんと宣伝すればもっと商品が売れるはずって、いっぱい在庫を用意したって言ってたし」
「さすがはアリソン。抜かりはないね」
その通り、とばかりにフィンは大きくうなずき、頭上に広がる美しい光景に見惚れた。
「おめでとうございます! フィンお嬢様」
リリーが涙でぐしゃぐしゃな顔をハンカチで拭いながら、手を振った。
「ありがとう。リリー! じゃあ私たち先に行くけど、あとであなたもきてちょうだいね」
「もちろんですとも!」
「アリソン!」
そのうしろにいたアリソンに、フィンが声をかけた。
「今日は本当にありがとう! おかげで最高に素敵な一日になったわ。本当、あなたって最高ね! アリソン」
振り向いたアリソンの額には、汗がにじむ。この婚礼を華やかに彩るために連日準備に追われ、今日も朝から休みなく商品の問い合わせや職人たちと打ち上げの準備に精を出してくれているのだ。
「おめでとう! フィン、ローグ。お礼を言うのは私の方よ。今日はあなたたちのおかげで、私の商売のこれ以上ない宣伝になったわ。本当にありがとう! ふふっ」
アリソンが、心からの自信をにじませ笑った。
「どういたしまして! お役に立てて何よりよ。何たって大事な親友の成功のためだもの!」
アリソンの生み出した魔石花火は、今日の婚礼をこれ以上ないほどに美しく盛り立ててくれた。おかげで参列者以外の町の人たちも大勢集まってくれて、まるでお祭り騒ぎだ。いいわゆる普通の貴族の結婚式としては、何とも風変わりではある。
だからこそ、なんとも自分たちらしい門出になったと思うのだ。
あたたかな祝福の声と、とめどなく空に打ち上がる花火。その中を、ふたりを乗せた馬車がゆっくりと動き出した。その轍の上に沿ってさらさらとこぼれ出した魔紛が、美しい絵を描くように光を放つ。
「あらまぁ! なんてきれいなんだろうね。まるで光の道みたいだよ」
「私もあんな結婚式がしたいわ!」
「本当だな! こりゃあいい」
ふたりを乗せた馬車は、軽やかに次なる人生へと走っていく。
その姿を笑みを浮かべ見送り、アリソンはひとりつぶやいた。
「今はとてもそんな気にはなれないけれど、いつか私も素敵な方がいたら……。ね」
自らが生み出した魔石花火を見上げ、アリソンは誇らしげにけれどほんの少しほろ苦い笑みを浮かべた。




