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それからいくつもの季節が流れたある日、フィンとローグの屋敷に元気なふたり分の産声が響き渡った。
「おめでとうございますっ! 元気な女の子と男の子の双子でございますよ」
「やったっ! ついに生まれたんだなっ」
夜半過ぎからそわそわと落ち着きなく待ちかねていたローグが、安堵とこれ以上ない喜びをにじませ高く拳を突き上げた。
「このリリー、こんな幸せはありませんとも! まるで孫ができた気分です」
主のはじめての出産という一大事を無事に終えたリリーが、喜びと感動で頬を上気させむせび泣く。そして部屋の中では。
「フィン! 体は大丈夫? よく頑張ってくれたね。本当にありがとう。最高に幸せな気分だよ」
ローグがそっと妻の体を労わるように額に口づけた。その相変わらずの優しい感触に、フィンの顔も安堵に包まれる。
「お母さんになるのって、こんなに大変なのね。でも生まれたらそんなの全部吹き飛んじゃった。だってほら、見て。この子たちったらこんなにかわいいのよ」
フィンの腕に抱かれているのは、生まれたてほやほやの赤子たち。ほにゃほにゃと頼りない声を上げながら、両手をぎゅっと握りしめている。そっとローグがそこに手を伸ばせば、思いがけず強い力で男の子の赤子がその指を握り込んだ。
「すごい力だよ。赤ん坊ってこんなに力が強いんだね。まだこんなに小さくて壊れそうにか弱いのに」
ローグがおっかなびっくりな顔で、赤子の顔をのぞき込む。
フィンもそっともうひとりの赤子の頬に手を触れた。その手が待ってましたとばかりの勢いで、フィンの指を握りしめた。
「ふふっ。本当、すごい力ね。この子たちはこれから、この手でどんなものをつかんでいくのかな。素敵なものばかりだといいな」
「うん。そうだね」
新しくはじまる、にぎやかな家族四人の日々。きっと楽しいばかりではないし、大変なことも数えきれないほど起きるだろう。けれどきっとその日々は魔石たちのように美しくきらめいて、人生を彩ってくれるに違いない。
ふたりは赤子をもう一度のぞき込み、そして夫婦顔を見合わせ笑った。
小さなふたりの家族の誕生に、屋敷はさらににぎやかに騒がしくなる。
慣れない子育てや次々と起こる様々な騒動の中で、何度もフィンとローグはすれ違いぶつかり合った。それでもいつも屋敷には、明るい光が満ちていた。たとえ何度追いかけっこが発生しても、その度に立ち止まり向かい合う。そうして心は強く深まっていくのだ。
それから数年がたったある日、すっかり自力で元気よく走り回れるまでに成長した双子が大きな声を上げた。
「お父様、お母様! あっちの方からいっぱい声が聞こえるよ。私たちを呼んでるのっ」
止めるのも聞かず元気よく先に庭に飛び出したのは、三歳になったばかりの双子の片割れ、娘のライラだ。日に透けるような薄茶色の癖毛がローグとそっくりな、愛らしい子だ。
「ライラ! もうっ、遊ぶのはちゃんと口と手を拭ってからって言ったのに」
ライラは実に活発な子だった。少しでも目を離すとどこかへ飛んで行ってしまう。元気いっぱいなのはいいが、親としては気が休まる暇がない。
小言を口にしながらようやく追いついたフィンのあとから、息子のジュリアンも澄ました顔でやってきた。その口も手もすっかりきれいに拭われ、とても三歳とは思えない落ち着きっぷりだ。
「お母様、僕にも聞えるよ。早くきてってずっと言ってる。お母様にも聞えてるよね?」
その言葉に、フィンはぱちくりと目を瞬いた。
視線の先にあるのは、王都のずうっと先にある美しく連なる山々の稜線だ。開けた視界の先には人の姿はなく、声など聞こえてくるはずもない。なのに双子たちはそろって山の方を指差していた。
「あなたたち、もしかして?」
昨夜、フィンはその声に気が付いていた。自分を呼んでいる魔石たちの声。随分と遠くから聞こえてくるまるでささやきにも似たその声に、フィンはなんとも胸騒ぎがしていたのだ。何かこれからとんでもないことが起きそうな、そんな胸騒ぎ。
まさか、という思いで双子たちを見下ろした。
「あなたたち、もしかしてこの声が何て言ってるかわかるの?」
ジュリアンとライラが、同時にこくりとうなずいた。
「うん」
「わかるよ」
事もなげに答えたふたりに、フィンの口があんぐりと開いた。
「何て……言ってるの?」
おそるおそるたずねたフィンに、ライラが答えた。
「急いできてって。私とジュリアンと、お母様とお父様に助けてほしいことがあるんですって!」
続いてジュリアンも、まるで大人のような仕草で黒縁の眼鏡のつるを持ち上げ付け加えた。
「何か大変なことが起きたみたいだね。だから早く行ってあげないと」
その瞬間、フィンの胸元で輝く魔石がリン、と反応した。
「あぁ……。これは、大変だわ」
呆然とつぶやき、遠くの山々を見やった。そして振り返り、大慌てでリリーを呼んだ。
「リリー! 大変よっ。この子たち、魔石の声が聞こえるみたい!」
どうやら魔石オタクの血は、子どもたちにも受け継がれたらしい。それどころか、自分よりもその力は強いるらしい。あんな遠くから聞こえる小さなささやき声を、何を言いたいのかちゃんと聞き分けられるのだから。
きょとんとした顔で目を瞬いた双子たちを抱きかかえ、フィンはリリーのもとへと走る。
「これは急いでローグに知らせなくちゃ! リリー! リリー、急いでローグに知らせをやってちょうだい。緊急事態よ!」
時を同じくして国に、ある急ぎの知らせが届いた。その知らせにより、フィンたちの取り巻く状況はにわかに慌ただしくなる。
それからしばらくしてフィンは、ローグと双子たちとともに王都を旅立った。国王陛下直々の命によって。
その先でどんなことが起きたのかは、また別のお話――。




