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「さぁっ、皆。あとひと踏ん張りよっ。お願いね!」
両親、リリー、屋敷で働く使用人たち。そしてローグと自分。全員が一丸となって、大量の魔石と格闘していた。
疲れの見えはじめてきた皆を、フィンが明るく鼓舞する。
「はい!」
「おうさっ」
「フィンお嬢様のためだ。任せてくんな!」
「なんたって、お嬢様の大事なはじめてのお友だちのためでもあるんですからね!」
「皆、最後まで頑張るぞー! 皆」
「おーっ!」
皆の頼もしく力強い声に、フィンの心も熱く沸き立つ。
婚礼は予定通り、聖堂で執り行われる。もちろんのちのち婚姻が無効になるように、すでに手は打ってある。よってアリソンの経歴に傷がつくことはないし、伯爵位がガードナー家のものになることもない。
問題は、婚礼が終わったあとだ。実行犯は御者でおそらく間違いない。その者たちに疑われずに近づき、アリソンが乗る予定の馬車に魔石を使った細工をし、そしてアリソンを救出する。そのための準備を、急ぎ仕上げなければならない。
例の森で大量の魔石を掘り出し、この屋敷に運び込むのはなかなかに大変な作業だった。マルセルやギュランド商会に雇われたゴロツキたちの目をかいくぐり、フィンの指示に従って皆が魔石を掘り出す。それを一斉に馬車で運び出す一連の作業は神経も使うし時間もかかる。が、これという問題もなく済んだのは、ローグの考えた芝居のおかげだったりする。
魔石掘り当日、例の森にランバート家のとある使用人の声が響き渡った。
『おおい! 誰か、助けてくれー』
『何の騒ぎだ! お前たち、何者だっ』
その声にわらわらと集まってきたのは、ギュランド商会に雇われた護衛たちとマルセルだった。茶葉の栽培の様子を視察しにきたらしい。熱心なことだ。
警戒心をむき出しにして近づいてきたマルセルたちに、使用人たちはローグの考えた筋書き通り慌てた様子で訴えた。
『それが……、うっかり売りに行く予定の豚と鶏を逃がしてしまいやして。旦那方、森に迷い込む前にどうか捕まえるのを手伝ってやくれませんかい?』
辺りには、数えきれないほどの鶏と豚がぶひぶひ、クックックックッとにぎやかに鳴きながら、走り回っていた。
『何だとぉ? お前ら、厄介なことを……!』
『おい! さっさとこいつらを追い出せっ。絶対に中に入れるなよ!』
大事な茶葉を荒されでもしたらたまったものではないとでも思ったのか、マルセルの号令にゴロツキたちが慌てて鶏たちを追いかけはじめた。
彼らの私有地ギリギリをにぎやかに逃げ回る鶏たち、そしてなぜか執拗に男たちを追いかけ回す豚。それを一刻も早く捕まえ追い出そうと焦る男たち。
皆、ランバート家で飼っている子たちだ。普段から屋敷の者たちにかわいがられているだけあって、一声戻っておいでと言えば言うことを聞く賢い子たちだったりする。のだが、飼い主の命令通りこの日は存分に暴れ回ってくれた。その間にフィンは森中の魔石の声に耳を澄ませ、ローグや使用人たちとともに魔石を掘りまくった。
おかげでマルセルたちに見つかることなく、無事に大量の魔石を用意することができた。
その後屋敷へと運んだ魔石を力の種類や色別に仕分け、必要に応じて粉状に粉砕する。次にそれを組み合わせて、用途ごとの仕掛けを作り上げているというわけだった。
仕分けと粉砕に要した時間は、三日と半日。ようやくそれも終わりを迎えようとしていた。
「いよいよ、ね。ローグ」
「あぁ。そうだな」
ローグと顔を見合わせ、こくりとうなずいた。
うまくアリソンを救出し奴らを一網打尽にできるかどうかは、おそらくこの仕掛けの完成度にかかっている。フィンが考えた仕掛けは、こうだ。
仕掛け、その一。
婚礼後にアリソンが乗る予定の馬車に、袋に入れた火と雷の力を帯びた魔粉、それと青色の光を放つ魔紛を掛け合わせたものを仕掛け、追跡装置として利用する。袋に入った魔紛が、車輪から伝わる振動で少しずつ地面に落ちる。それが反応を起こし、轍に光の筋を光らせるのだ。これがあれば相手に見つからないよう距離を置いて追跡したとしても、馬車を見失わないで済む。
仕掛け、その二。
コントロールを失い惰性で暴走する荷台を風の魔力を帯びた魔粉で浮遊させ、さらに土の魔力で地面を柔らかくし、衝撃を和らげる。
こうすることで、崖へと落下する前に荷台を止められるかもしれない。もしも予想よりスピードが緩まなかったら、その時はリリーやローグたちと力を合わせて力押しでなんとか荷台を止め、アリソンを中から救い出すしかない。
仕掛け、その三。
当日国から遣わされた王兵は、ガードナー家とギュランド商会への突入班、アリソンの乗る馬車を追跡する班、実行犯たちを捕らえる班とにわかれて動くことになる。それら各所に配置した王兵たちとの連絡手段として、魔石を使った花火を利用する。魔石の色によって意味を事前に決めておき、必要に応じた色の花火を空に打ち上げるのだ。
そうすれば、遠くにいてもそれぞれの状況を教え合うことができる。
フィンは着々と進む仕掛け作りに、思わず小鼻を膨らませた。
「心配かい? フィン」
ローグの問いかけに、一瞬の間を置いて首を横に振った。
不安がないと言ったら嘘になる。アリソンには絶対に大丈夫、必ず助けると約束したけれど、物事には絶対はない。
でも――。
「私は、超強運なんだもの。必ず成功させるわ。アリソンのためにも、私のためにも。そしてここまで一緒に頑張ってくれたローグや、皆のためにも」
そう力強く宣言すれば、ローグがにっこりと笑みを浮かべた。
「君はそうでなくちゃ。君が心から真っ直ぐに信じたら、きっとうまくいく。僕はそう信じているよ、フィン」
「うん!」
自信に満ちた笑顔を満面に浮かべ、フィンはうなずいた。
悪者たちとの追いかけっこは、必ず終わらせる。心をどんよりと曇らせるこんな追いかけっこなんて終わらせて、皆で新しい一歩を踏み出すのだ。生まれ変わった気持ちで、重たいものは何もかも脱ぎ捨てて、まっさらな気分で。
屋敷中に集められた魔石たちが、雄々しくリリンッ、と声を上げた。




