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魔石オタクの超強運令嬢、心変わりしたはずの元婚約者と終わらない追いかけっこをはじめます!  作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO
3章

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6

 翌日、フィンはローグとともにアリソンのもとを訪ねた。


 婚礼の期日を早めると告げて以来、マルセルはアリソンの前に姿を見せていない。きっとアリソン殺害計画の準備でそれどころではないのだろう。それか、もう何もかも心配はいらないと安心しきっているか。

 だが甘い。こちらだって、いつまでも以前と同じとは限らないのだ。


「さっそくだけど、これを見て。アリソン」


 自信に満ちた笑みを浮かべながら、フィンは地図を広げた。


「ここが聖堂で、こっちがマルセルがあなたを住まわせるって言ってる別邸よ。で、ここがギュランド商会とガードナー男爵家の屋敷。そしてここが」


 聖堂からも王都からも遠く離れた西方の一点を、フィンはびしりと指差した。


「多分ここが、あいつらがあなたを突き落とす予定の崖だと思うの」


 主要な街道からも逸れた先にある別邸は、調べた結果とても人の住めるような状態ではなかった。長年手入れされず放置されているため、草もぼうぼうで門扉も錆びついている。アリソンをそこに住まわせるつもりなど端からなかったのは、明らかだ。


「さすがの奴らも、途中の町を過ぎるまでは何も仕掛けてこないはずよ。人目があるもの。仕掛けてくるとしたら、途中休憩で立ち寄った町を出てからだと思う」

「……それで?」


 アリソンが興味なさそうに、冷めた反応を見せた。

 フィンはぎゅっと口元を引き結んだ。


「婚礼当日、各所に王兵を配置してもらえることが決まったの。ギュランド商会を叩く口実を探していたから、いい機会だって」


 ローグが詳しい説明を続けた。


「聖堂から君を乗せて出る馬車と、王都にあるギュランド商会とガードナー家の屋敷。この三箇所に同時に突入する予定らしい。だが君の乗った馬車を王兵が大勢で追跡するのは、さすがに目立ちすぎる」

「だからね。私たち、魔石を使ってあなたを奴らから救出することにしたの」

「魔石? 魔石なんて使って、一体何を……」


 ようやくアリソンの平静さを崩せたことににやり、と笑みがこぼれる。


「ふふんっ。甘いわね。魔石だって使いようによっては、起死回生の秘策にだってなるんだから!」

「秘策ですって?」


 アリソンの目が、まるで子どものように輝いた気がした。

 フィンはアリソンに、力や色の異なる魔石の可能性について説明した。魔石を砕いて粉にしたものを組み合わせれば、無限の可能性があるのだと。


「だからそろそろあなたも覚悟を決めてちょうだい、アリソン」

「覚悟なんて、そんなものとっくに」

「違うよ。アリソン」

「え?」

「人生をあきらめる覚悟じゃない。投げ出す覚悟じゃないの。新しく生き直す覚悟、よ!」


 満面の笑みを浮かべ告げれば、今度こそアリソンの目がこぼれそうに真ん丸になった。


 これで婚礼の日の打ち合わせは、すべて終わった。あとは当日、マルセルたちを完膚なきまでに叩きのめすだけだ。最終的に雨降って地固まったとしても、マルセルたちのおかげで散々な目に遭ったのだ。その礼は、きっちりさせてもらわねばならない。


「じゃあね、アリソン。次に会うのは、婚礼の日ね。大丈夫。必ずあなたを助ける。あんな奴らに絶対殺させたりしない」


 アリソンがじっとこちらを見つめた。ローグとふたり、大きく静かにうなずいた。三人の眼差しが交差し、一瞬の間を置いてアリソンの口元に笑みが浮かんだ。


「まったく、あなたって本当に変な子ね。いえ、あなたたちっていうべきかしら。よく知らない私なんかのために、ここまでするなんて。正気とは思えないわ」


 アリソンらしい物言いと、実にアリソンらしい笑みだった。不敵と言ってもいい。やっと本当のアリソン自身を取り戻したらしいことに、ほっとする。


「変でもいいの。私は、私にしかなれないから。アリソンも、アリソンだわ」

「何よ。それ」

「ふふっ。何だろうね」


 アリソンがぷっと吹き出した。無邪気な笑顔に、なんだか胸がドキリとする。思わずはっと隣のローグを見やれば、目がこぼれ落ちそうに驚いた表情を浮かべていた。


「何を心配してるのよ。まったく馬鹿な子ね。このローグがあなた以外に目を向けるわけないじゃないの」

「えっ?」


 なんでアリソンのかわいさにローグが気づいて心変わりしたらどうしよう、と心配したことがばれたんだろう。アリソンの観察力のすごさに、頬を引くつかせれば。


「ふふっ。仲直り、したのでしょう? あなたたち」


 アリソンの意味深な微笑みに、思わずローグとふたり顔を見合わせうつむいた。


「なんでわかったの? まだ何も言っていないのに」


 アリソンの宿題の答えを、まだアリソンに伝えられずにいる。計画について話す方が優先だったし。けれどどうやらその必要はないみたいだ。

 すべてお見通しだとばかりに、アリソンが軽やかに笑った。


「おめでとう。よかったわね、フィン。ローグも」


 顔に熱がこもる。


「うん! ありがとう。アドバイスをくれたアリソンのおかげよ」

「私は何もしていないわ」


 驚いた顔のアリソンに、フィンは首を横に振った。


「アリソンがいてくれたから、私自分の駄目さ加減にも気づけたし、変わりたいって思えたの。アリソンが私を救ってくれたの。だから、ありがとう」

「私が、あなたを……救った? ふふっ。本当にあなたって変な子ね。まぁいいわ。おしゃべりはすべてが終わってから、ゆっくりしましょう」


 もしかしたらアリソンとも、これから新しくはじまるものがあるのかもしれない。恋とは違うけれど、もっと別の形のとてもあたたかなもの。これまでずっと憧れていた、友人という形。

 脳裏にはっと、ある考えがひらめいた。


「ね、アリソン」

「何」

「よかったら、なんだけど。何もかもすっきり終わったら、私の家でお茶会しない?」


 アリソンの目が、一瞬丸くなった。物騒な話からの落差に、虚を突かれたのだろう。


「実は私、ずっとお友だちを呼んでお茶会するの、夢だったの。もし嫌じゃなかったら、家の温室でお茶会なんてどうかなぁって」


 些細な夢だけど、魔石オタクの変わり者令嬢としては、夢のまた夢なのだ。

 きょとんとアリソンが目をゆっくり瞬いた。


「……ふん。別にかまわなくてよ。そこまで言うならお邪魔するわ」

「本当っ? ありがとう! じゃあ、うんとおいしいお菓子を山程用意して待ってる」


 声を弾ませ、アリソンを見やった。


「じゃあ、次は婚礼で」


 アリソンがすっと表情を引き締め、手を差し出した。その手をぎゅっと力強く握り返す。

 次に会うのは、婚礼当日。マルセルたちとの直接対決の日だ。


「えぇ! どーんと構えて待っていて。アリソン。きっと何もかもうまく行くわ。何たって私は、超強運令嬢なんだから」


 笑い合って、別れた。


 ◆◇◆ 

 フィンたちが帰ったあと、アリソンは自室に置かれた花嫁衣裳をじっと見つめていた。


 ほんの数時間前まで曇って見えていた白が、今や明るく輝いて見える。これはもう、家族やマルセルの意のままに操られるための衣装じゃない。自分の新しい未来を彩る、無限の可能性を映し出す旅立ちの衣装だ。

 どうとでもなれという投げやりな気持ちは、すっかりどこかへ消えていた。


「ずっとこれを捨てられずにいたのは、もしかしたらこの日のためだったのかもしれないわね」


 アリソンは手の中の小さな魔石を、ぎゅっと握りしめた。


 幼い日にフィンがくれた、ちっぽけな魔石。窓から差し込む夕日に薄桃色が透けて、美しくきらめく。

 フィンは魔石が超強運をくれるのだと言っていた。本当かどうかはわからない。ただの思い込みだろうし、いかにもフィンの考えそうなことだ。けれどフィンを見ていると、もしかしたらそんな奇跡みたいなことだってあるのかも、なんて気になる。

 皆が役に立たない屑石だという魔石で、色々なことができるのだと言っていた。それだって、フィンじゃなきゃとても思いつかなかっただろう。


「魔石を粉にして、組み合わせる……ね。おもしろいことを考えるものだわ」


 頭の中で、さまざまな可能性が躍り出す。


 いつの間にか、口元に笑みが浮かんでいた。こんな高揚した気分は久しぶりだ。

 あの子が信じる魔石の力を、信じてみたい。そんな気持ちになったのは当然なのかもしれなかった。

 もう一度、立ち上がってみよう。家のため、家族のためとかじゃなく、貴族令嬢としての矜持がどうではなく、ただ自分のために。これからの、自分のために。


「本当、変な子ね。ふふっ」


 久しぶりに腹の底にわき上がる強いものを感じ、アリソンは不敵に、けれどたおやかに微笑んだ。


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