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魔石オタクの超強運令嬢、心変わりしたはずの元婚約者と終わらない追いかけっこをはじめます!  作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO
3章

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 事態は、見事に停滞していた。マルセルたちのアリソン殺害計画も、ギュランド商会とガードナー家の悪事についても、これという進展はない。これという証拠も止める手立ても見つからないまま、時間ばかりが無為に過ぎていた。


 婚礼までの残り日数は、わずか十日間。このままでは、婚礼を取りやめさせることもできないまま、アリソンは殺されてしまう。自分の身だって果たしてこの先も安泰かどうか、疑わしい。

 そして、停滞しているのは事件だけではなかった。


 魔石を磨く手を止め、フィンは大きな息を吐き出した。


(ローグ、今日もこなかったな。朝早くお父様には会いにきたみたいだけど、すぐに帰ってしまったらしいし。それってやっぱり、私と顔を合わせたくないから?)


 数え切れないほどのため息が、部屋に重苦しく満ちていく。

 見かねたリリーが、たまらず声を上げた。


「気晴らしに、こっそり魔石掘りにでも行きます? 変装すれば、きっと奴らにも気づかれないでしょうし」


 元気づけようとしてくれているのだろうが、相変わらずリリーの励まし方は斜め上だ。

 町へ行くのだって軽率に出かけないように、ときつく言われているのに、魔石掘りになんて出かけたら、それこそ呆れられて見放されてしまう。


「なんかこう……釈然としないなぁ。事態も、気持ちも」


 アリソンからの宿題の答えは、いまだ出ていない。ローグに会えなくて寂しいのも、避けられて落ち込んでいるのも間違いなく本当だ。でもそれと同時に、何かもっとこう強くて荒々しい気持ちがわき上がってくる。


(恋がどんなものなのかもわからないままだし、このもやもやが何なのかもよくわからないし。いっそのことこの気持ちはこれって、名前が書いてあったらいいのにな。そうしたらどう行動すればいいのかわかるし、迷ったり悩んだりしなくていいのに)


 言葉は通じないけれど、魔石の方がずっとわかりやすい。嬉しいのか悲しいのか、怒っているのかは色や光り方で大体わかるし。

 甘さなんてひと欠片もない今の心の中は、恋をしていると言えるんだろうか。むしろドロドロとした闇深い気持ちでいっぱいだ。恋とか愛というのは、もっとあたたかくてやわらかなものだと思っていたのに。

 ローグの気持ちどころか、自分の気持ちもわからない。もっと言えば、アリソンの気持ちだって。何もかも、行き詰っていた。


 手の中の魔石が、リン、と声を上げた。


「なぁに。心配してくれてるの? ありがとう。でも大丈夫。きっとそのうちわかるから。そうしたらちゃんとローグと話をしないとね」


 リリーがそう言えば、と手を打った。


「そう言えばさっき、旦那様がおっしゃってましたよ。もしかしたら、アリソン様の婚礼の日に王兵が動いてくれるかもしれないって。もしアリソン様を襲う現場を抑えられれば、マルセルだけじゃなくガードナー家の当主もそれとつながっているギュランド商会だって一網打尽にできるかもしれないからって」

「それ、本当っ?」


 だとしたら、とんでもない朗報だ。王兵がアリソンを守ってくれるのなら、それほど心強いことはない。


「とは言っても、フィンお嬢様が聞いた話だけじゃ国も大っぴらには動けないみたいですけど。顧客の証言があるって言っても、ほんの少しですしね。詐欺やら何やらで捕まえるには、証拠が足りないみたいです」


 残念そうにリリーが嘆息した。


「そう。そうよねぇ、やっぱり」


 国が動くには、大義名分が必要だ。何の証拠もなく国民を捕まえたとあっては、民の信頼が揺らぐ。そのためにもどうしたって確たる証拠か、現場を抑える必要があった。

 フィンはお手上げだ、とばかりにベッドの上に身を投げ出し、天井を見上げた。


 焦りと不安ばかりが募っていく。まるでぐるぐるぐるぐる同じ場所を走り続けているみたいだ。終わらない追いかけっこみたいに、最後には何を追いかけているのかさえわからなくて、途方に暮れるみたいに。


 そんなある日、アリソンから急ぎの知らせが届いた。

 アリソンにしては珍しく、乱れた筆跡で書かれた短い手紙だった。そこにはなんと――。


「大変! 大変なのっ。アリソンの婚礼が……、婚礼の日が四日後に早まっちゃった!」


 フィンの叫び声が、屋敷に響き渡った。


「お父様! どうしよう。このままじゃアリソンが」


 届いたばかりの手紙を握りしめ、父のもとへと向かった。


「あれ、ローグ。きてたの?」


 朝にもきていたはずのローグが、またしても父を訪れていた。何か急ぎの用でもあったのだろうか。

 ちょうど帰り支度をしている様子を見るに、自分には会わずに帰るつもりだったのは明らかだった。

 気まずいのか、ローグはこちらを振り向きもしない。ほろ苦い気持ちを押し殺し、父に手紙を差し出した。


「これがたった今、アリソンから届いたの。マルセルが急にやってきて、婚礼を早めるって言ってきたんですって。これじゃ王兵が動いてくれても、間に合わないかもしれない」


 部屋に落ちた重苦しい沈黙に、ぐっと両手を握りしめた。


「こうなったら最終手段しかないわ! 王兵は堂々とは動けないって言うし、なんならいっそお式に乗り込んでアリソンを連れ去るなんてどう?」


 その提案に賛同したのは、リリーだけだった。そんなことをすれば、自分だけでなくランバート家一族が、永遠に聖堂に立ち入れなくなってしまうというのが反対する理由だった。


「それはまぁ、そうかもしれないけどさ……」


 この国で王都のほとんどの貴族が婚礼を挙げるとなったら、アリソンが使うのと同じ聖堂を利用することになる。もうひとつ大きな聖堂もあるはあるが、そこは王侯貴族やごく一部の上位貴族にしか利用を認められない特別な大聖堂なのだ。


(でももしローグと結婚できないとなったら、誰とも結婚なんてできないもの。する気だってないし。そうなったら、聖堂どころじゃないと思うんだけどな)


 口にはできない思いをぐっと飲み込んだ。


「だが確かに、もう悠長に国の判断を待っているわけにもいかないな。アリソンの身に何かあってからでは遅い」


 父にとってももはやアリソンは、娘が大切に思う人生はじめての友人なのだ。娘の身を守れたとしても、アリソンがこの世からいなくなってしまっては何の意味もない。そう思ってくれているのだろう。

 その親心がなんとも染みる。と同時に、周囲に愛されている自分がうらやましいと言ったアリソンの寂しそうな横顔がよみがえり、胸が痛んだ。

 その時だった。その考えが浮かんだのは。


「魔石は……使えないかな」


 驚きのためか、ローグがようやくこちらを見た。


「魔石を使う? どういう意味だい。フィン」


 ぱちりと合った視線に鼓動が跳ね上がる。それをどうにか誤魔化し、口を開いた。


「あの森には、まだまだたくさんの魔石が眠ってるの。魔力入りの茶葉を育てられるくらいだもん。きっと他の場所の魔石より力は強いはずよね。なら、その魔力を貸してもらないかなって」

「たとえばどんなふうにだい?」

「えーと、たとえば……」


 魔石というのはもともと風や土、水や火といった自然界から生まれる魔力を帯びている。ひとつひとつはただのきれいな小さな石だし、力だってごく微力だ。けれど大量の石を一時に集めれば、話は別だ。


 たとえば雷の魔力を帯びた魔石を土の魔石と反応させれば、光を放つことができる。小さな魔石同士の反応ではほんのりと光る程度でも、石を粉末化することで反応が促進されて、遠目でも視認できる程度の光を一定時間持続させることができるのだ。

 同じような原理で、風の魔力で荷台を一瞬浮遊させて地面からの衝撃を和らげることだって、できるのではないだろうか。さらには、馬車の車輪に魔石同士を混ぜた粉末の入った袋を結び付けておいて、走るたびに少しずつ粉が落ちる仕組みを作れば追跡装置を作ることだって。


 次々に思い浮かんだ案を口にしてみれば、皆の表情が変わった。


「そうか。それを事前に仕掛けておけば、王兵たちに頼らずとも奴らの行動を阻止したり、妨害することもできるということか。当然その力を借りて、アリソンを助け出すことも可能だ。だが、それには、お前があの森に立ち入らねばならないという問題があるが」


 父の顔が暗く曇った。


「私なら平気。リリーだっているし、奴らの気を逸らすための手を何か考えるわ。アリソンを救うためだもん。そのくらいの危険は覚悟の上よ」


 迷いはなかった。


「私が命に代えましても、フィンお嬢様の身は守ります! フィンお嬢様のためならこのリリー、たとえ火の中水の中!」


 リリーの勇ましい言葉にぐっときた。思わず手を握り合い、涙ぐんだ。

 どうやら父も覚悟を決めたらしい。


「こうなったら、多少の無理は致し方ないか。ならば、屋敷の皆総出で魔石を掘り出しに行こう。大勢で動けば、それだけお前の身を隠せるからな。だがくれぐれも無茶だけは……」


 父の続く言葉を、ローグの切羽詰まった声がさえぎった。


「僕は反対です! そんなこと、フィンには絶対にさせられない」


 あまりの剣幕に、リリーとふたりぴょんとその場で跳び上がった。こんなに感情を露わにするローグを見るのははじめてだ。


「で、でも今はそんなこと言っている場合じゃ」


 けれどローグは考えを翻さなかった。


「魔石が必要だというなら、目についた石を僕がありったけ拾ってくる。それでいいだろう! だから君はだめだっ、フィン。君は屋敷にこもっていてくれ!」

「そんな! ここまでやってきて、私ひとり安全な場所で閉じこもってろって言うの? そんなことできるわけないっ」

「だめだ! 絶対にだめだ。君をそんな目には遭わせられない!」


 見たこともない切羽詰まった様子に、父も驚き固まっていた。けれどそんな空気にも気づかないのか、ローグは一歩も引かない。

 無言でにらみ合ったまま時が過ぎた。けれどいつまでもこうしているわけにもいかない。もはや時間の猶予はないのだ。


 結局ローグの了承は得られないまま、ランバート家一族とリリーをはじめとする使用人たち一同、そして渋顔のローグとで、二日後に森に魔石掘りに行くことに決まった。


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