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魔石オタクの超強運令嬢、心変わりしたはずの元婚約者と終わらない追いかけっこをはじめます!  作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO
2章

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5

「ただいまー! 潜入作戦、見事成功したわよっ」


 コルトン侯爵家のあとに向かったのは、どちらも社交界ではそこそこ力はあるものの、家格としてはそう高くないいわゆる中流貴族のお屋敷だった。

 結果、どちらの屋敷でも有力な情報を手に入れることができた。


「まずこの茶葉についてだけど、これに含まれているのはおかしな薬でも毒でもなかったわ。魔力が混入しているの」

「魔力だって? しかし、魔力なんてどうやって茶葉に?」


 父が困惑するのも当然だ。すでに魔力が廃れたこの世界で、大した力もない魔力を使ってわざわざ何かしようとする者はそうはいない。魔力を感知できる人間も、使える人間もそう多くはいなくなっているし。魔石の声が聞こえるのだって、もはや相当に珍しいことなのだ。


「それなんだけど、多分あの森のせいよ。あの森には、他の場所よりもずっとたくさんの魔力が土の中に眠ってるんだと思うの。だからギュランド商会は、わざわざあの森で手ずから茶葉を栽培しているのよ」


 ようやくひとつ謎が解けた。なぜギュランド商会があんな王都からも離れたこれといった特徴のない森の中に、私有地まで買って茶葉を栽培しているのか。しかもあんな厳重に見張りまで置いて。


「し、しかしそんなことが可能なのか? それに、魔力が強い土地で茶葉を栽培したところで、一体どんな作用が発現するというんだ」


 フィンはうーん、とうなった。


 あの森に魔力が多く眠っているのは間違いない。あの茶葉から確かに魔力を感じたし、それは魔石たちから感じるものと同じ性質だった。道理であの森にあんなにたくさんの魔石が眠っているわけだ。


「はっきりとはわからないんだけど、魔力って人の思念にも影響を与えるものなの。健康な人なら気づかない程度の力でも、心や体がひどく弱っていたりするとバランスを崩したり、一時的な依存症状を発生させたりすることはあると思うわ」


 もっともこれはその人とその魔力の相性にもよる。何も感じない人もいれば、強く作用する人もいるといったように、この茶葉そのものが健康に害を与えるとは言い切れない。


「ならギュランド商会とガードナー家は、何らかのきっかけでそのことに気が付いて、利用しようとしたというわけか」

「多分ね、一時的にでも様子がおかしくなれば、当然家族はなんとかしてやりたいと必死になるだろうし、それがあまりよくないことならどうにか隠そうともするだろうし。その気持ちを利用して、マルセルたちは後出しで高価な薬だの壺なんかを売りつけてたんだわ」


 コルトン侯爵家以外の屋敷で、ようやくマルセルたちの金儲けのからくりが判明した。魔力の付与された茶葉を足掛かりにして、困り果てた客に症状がよくなるとか病が治るなんて適当なことを言って、高額な薬やお香、神の力が宿る希少な石だの災いを跳ねのける壺とかを売りつけようとしていたらしい。


『まったく何が体にいいお茶、よ。あんなに温厚だった息子がみるみる粗暴な性格になって、驚きましたよ。そりゃあ前々から悩み事は抱えていましたけどね。それでもあんなに暴れるような子じゃなかったんですから』


 二軒目に行った屋敷では、息子にお茶を飲ませ続けた結果、危うく家庭内暴力による刺傷沙汰が起きるところまでいった。けれど高価な壺を買わされたところで何かおかしいと気づき、お茶を飲むのを止めさせたのだ。その途端、まるで何もなかったかのように元の穏やかさに戻った。


『悔しくてたまりませんよ! あんな壺まで買わされて、危うく息子の一生が滅茶苦茶になるところだったんですからね』


 悔しそうに夫人が地団太を踏んでいた。


 そして次に訪れた屋敷では。

 お茶を飲んでいたのは当主の妻だったのだが、夫に隠れて買った高価な宝石が偽物だったと判明し、そのことで長い間思い悩んでいたらしい。もしも夫にそのことがばれたら離縁されかねない。その心痛を少しでも和らげようとお茶を飲みはじめたのだが、わき上がる謎の衝動を抑えきれなくなり、ついには夫につかみかかるという異常行動に出たのだ。


『本当にお恥ずかしい限りですわ。夫が許してくれたからよかったようなものの、もしそんなことをしたと社交界で広まったら、それこそ首をくくるはめになるところでしたもの』


 この夫人が買わされたのは、お香だった。なんでも異国の珍しい薬草からできていて、心を静め災いを払ってくれる効能があるとかなんとか。夫にばれる恐怖から正気を失っていた夫人は、言われるままにそれを買った。けれど事態が好転することはなく、結局夫に何もかもを打ち明ける羽目になった。


『本当に危ないところでしたわ。夫が私の様子がおかしいことに気づいてくれて、親身になって話を聞いてくれたからよかったものの、あのまま突き進んでもっと色々買わされていたら、それこそ家が破綻していましたもの』


 安堵の表情を浮かべる夫人の顔が、印象に残った。


「とまぁ、こんな感じできっと他のお屋敷でも似たり寄ったりのことが起きているんだと思うの。皆家の恥だからって口をつぐんでいるだけで、被害者はもっといるはずよ。本当に腹が立つったらないわ!」


 どの屋敷でも、アリソンの紹介した人物ならばと屋敷の主人たちが事情を素直に話してくれたのが幸いだった。でなければ、真相にはたどり着けなかっただろう。

 さすがの温厚な父も、この汚いやり口には我慢ならなかったらしい。


「すぐにこの結果を友人に伝えるとしよう。このままではさらなる犠牲者が出ないとも限らないし、ギュランド商会を叩くには格好の材料だ。この先もっと高位の貴族も被害に遭うかもしれないとなれば、国もすぐに動いてくれるはずだ。よくやってくれた。フィン」


 勇ましい父の言葉に、フィンの顔が赤らんだ。


「うん!」


 正体を隠して潜入するのは不安だったし色々と大変ではあったけれど、役に立てて何よりだ。こうでもしなければ、きっと事態を動かす糸口だってそうは見つけられなかっただろうし。リリーにもさすがはフィンお嬢様、なんてほめられてにこにこしていると。


「……ローグ?」


 ローグがこちらを見ていた。けれどその顔に浮かんでいたのは、思っていた反応とはまるで違っていた。

 固く口元を引き結び、ひどく難しい顔をしていた。苦しそうな、けれどどこか泣きそうな顔。

 その横顔ににじむ陰に、思わず名前を呼んだ。けれどそれには答えず、ローグは顔を背けた。


(怒ってる、のかな。私が勝手なことをしたから)


 胸の奥がぎゅっと縮こまる気がした。


 ローグは、自分が下働きに扮して潜入することを最後の最後まで反対していた。マルセルたちにばれたらどうするんだ、社交界でも家人をだまして屋敷に入り込んだとなれば、ランバート家全員を巻き込んだ大事になるといって。

 でも押し切ったのだ。結果さえ出せばきっとわかってくれる、そう思ったから。


(強引に行動する前に、ちゃんと話し合うべきだったのかな。でも最近ローグ、私を遠ざけてる感じだったし)


 もやもやとした思いを抱えながら、ひとまず国に今回の話を上げ返答を待つことにした。

 帰り際ローグは振り向き、ぽつりとつぶやいた。


「君は……すごいね。フィン」

「え?」

「君でなければ、問題の元凶が魔力を帯びた茶葉だなんて、誰も気づけなかったよ。君にしかできないことだ」


 物言いに、何か引っかかった。


「僕には無理だ。君のようにはいかないよ。……じゃあね。アリソンにもよろしく伝えておいてくれ」


 そう言ってローグは力なく肩を落とし、去っていった。



 その夜ベッドの中で天井を見上げ悶々としていた時、はたと気が付いた。

 追いかけっこの最中、ギュランドから自分を助ける時に肩をつかまれた以外、ローグは自分に一度も触れていない。なんなら近づこうとさえしない。不自然なくらい距離を置いて、自分を避けている。

 以前はよく頭をなでてくれた。優しく慈しむように、穏やかに微笑んで。そんな表情も長く見ていない。


「ローグ……」


 窓から差し込む月明りが、いつもより冷たくよそよそしく感じられた。まるでローグの背中みたいだ。

 追いかけっこは終わったはずだった。けれどなぜだろう。近づいたはずの背中が、どんどん遠ざかっていく。


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