第2話 警察署に駆け込もうとして失敗した話
そんなこんなで次の日。目覚めたら美咲に馬乗りされていた。
「なぁんだ~起きちゃったんだ?もう少し起きなかったらキスとかしようと思ってたのにな~」
「そういうのは付き合ってからにしようね!?」
「じゃあ付き合ってくれるの?」
「えっ無理だけど?」
「そっか~即答かぁ」
「……何度も言うけど、それはできない。」
美咲の笑顔が、一瞬だけ消えた。
「そっか。」
あまりにもあっさりした返事に、逆に嫌な予感がした。
「でもね、蒼真。」
彼女はベッドから降りると、机の上に一枚の紙を置いた。
「今日、放課後は寄り道しないでね。」
「……なんで今日?」
「特に警察署とかには言っちゃだめだからね。」
心臓が止まりそうになった。
誰にも話していない。
昨日の夜、頭の中で考えただけのことだった。
美咲はくすりと笑う。
「今日はちゃんと、一緒に帰ろ?」
僕は震えながらうなずくことしかできなかった。
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そして運命の放課後、僕はというと……美咲に謝っていた。
「ごめん美咲!今日補修に引っかかっちゃった!だから先に帰っておいて!」
もちろん意図的に引っかかった。これで時間を稼いで警察署に行く。
(これなら行ける……。)
「へぇ~なんで引っかかったのかは置いておいて、一緒に帰ろうって言ったのに先に帰れっていうの?」
「いやあの本当すみませんお詫びに明日と明後日の2日間お出かけしましょう。」
「つまりデートってことね!?」
「いやあのそういうわけでは「デートね」……ハイ、ワカリマシタ!」
美咲は満足そうに微笑む。
「約束だからね?」
「う、うん。」
「嘘ついたら……わかってるよね?」
その一言だけ残し、美咲は教室を出て行った。
廊下を歩く足音が遠ざかる。
……とりあえず時間は稼げた。
僕は大きく息を吐いた。
「よし……。」
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補修が終わった後、先生が教室を出た隙を見て、僕は荷物を掴むと正門ではなく裏門へ向かって走った。
心臓がうるさいくらい鳴っている。
(頼む……まだ気付いてないでくれ。)
そんなことを思いながら学校を出る。
交番ではなく、少し離れた警察署へ。
こっちなら見つからないだろう。
信号を渡り、あと数百メートル。
ようやく警察署の建物が見えてきた。
「助かった……。」
そう呟いた瞬間だった。
ポケットのスマホが震える。
【美咲】
:走るの速いね♥
僕の足が止まる。
震える指で画面を見つめる。
【美咲】
:でも、どこに行こうとしてるのかな?
背筋が凍りついた。
ゆっくりと顔を上げる。
警察署の入り口。
その前で。
制服姿の美咲が立っていた。
いつもより明るく、それでいてどこか冷たい笑顔のまま、僕に向かって小さく手を振る。
「待ってたよ、蒼真。」
僕は何も言えなかった。
……嘘だ。
なんで。
なんでここにいる。
「約束、破るんだ?」
美咲はゆっくりと僕との距離を縮める。
一歩。
また一歩。
逃げようと思った。
でも、足が動かない。
「悲しいなぁ。」
そう呟いた美咲は、僕の手首を優しく握った。
その手は冷たい。
けれど、その力は振りほどけないほど強かった。
「私、ちゃんと約束したよね?」
耳元で囁くような声。
怒鳴っているわけでもない。
なのに、体が震えた。
「約束って、守るためにあるんだよ?」
僕は息をのんだ。
美咲は制服のポケットに手を入れる。
そこから見えたのは、金属の鈍い光。
一瞬だけ覗いたそれが何なのか理解した途端、全身の血の気が引いた。
美咲はすぐにポケットへ戻し、何事もなかったかのように微笑む。
「……だから、お仕置きが必要かなって思っただけ。」
その笑顔は、朝と何も変わらない。
優しくて、可愛くて。
だからこそ恐ろしかった。
「さ、帰ろう?」
僕は声を出せない。
小さく首を縦に振ることしかできなかった。
「うん、いい子。」
美咲は嬉しそうに笑い、僕の手を握ったまま歩き出す。
警察署は、もう目の前だった。
それなのに。
あと数十メートルだったはずなのに。
僕には、その距離が永遠に届かないもののように思えた。
あの日、美咲の制止を振り払って警察署に行けていたら、結果はまた違ったのだろうか。




