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8 ネコマタと宝箱。にゃーニャー

 三人と一匹は、養殖屋さんに習った通りのやり方で牙付きかどうか確認します。

 留め金に混じった瞼、ワンアウト。ギラリと隙間から覗く牙、ツーアウト。わずかに上下する上蓋、スリーアウト。間違いなく牙付きです。


 牙付きの処理は傭兵さんにお任せです。クロマタたちは後ろから頑張れ―にゃーニャーと応援します。


 傭兵さんは愛用の大剣を切っ先が後ろになるよう構えて、大きく距離を取りました。宝箱花の縄張りを駆け抜けて一撃を入れる算段のようです。


 呼吸を二度三度整えて、走り出します。人間としてはなかなかのスピードです。あっという間に縄張りを駆け抜けました。


 しかし、気配を感じたのか宝箱花が飛び起きました。見せかけの鍵穴がバキンと砕けて、大きな牙がむき出しになります。


 上からはサーベルとハルバードが一振りずつ、下からは無数の短剣がのこぎりみたいに連なって襲い掛かります。


 傭兵さんは大剣を一閃します。


 牙と大剣がぶつかって火花を散らし――ませんでした。宝箱花の動きを事前に予測していた傭兵さんは、全速で駆けながらも体を巧みにひねって牙をかわしたのです。振られた大剣は、飛び上がった宝箱花の後ろに伸びるツタをバッサリ断ち切ったのです。


 ツタを切られた花は一瞬戸惑った後、怒りのマークを浮かべて再度傭兵さんに襲い掛かります。

 根からエネルギーを吸えなくなったためでしょう、撃ち合うごとに花の動きは鈍くなっていきます。


 勝負ありでした、クロマタたちはそう思いました。だから安心して壁に隠れるのをやめたのです。

 それは油断でした。花のほうは勝負を諦めてはいませんでした。


 花が口をひときわ大きく開けました。そして中から一回り小さい、けれど十分すぎるほど大きい宝箱花が飛び出したのです。


 咄嗟のことにもかかわらず傭兵さんはしっかりと守りを固めました。さすがです。しかし、二輪目の花の目的は傭兵さんではなく油断したクロマタたちでした。


 追いかけようとした傭兵さんに一輪目が飛びかかりました。仕方なく応戦します。傭兵さんは自分のうかつさを呪って舌打ちしました。


 ウルコちゃんは戦いを見るのに夢中でした。クロマタはふりふり揺れるフワフワ尻尾を眺めるのに夢中でした。養殖屋さんは宝箱花から獲れるであろう武器の想像に夢中でした。そしてシロマタさんはフライパンソードに夢中でした。つまり、みんな油断していたのです。していないのは野良マソネコたちだけで、一目散に逃げていきました。


 二輪目がクロマタに襲い掛かります。クロマタは反応が遅れました。それでも得意の魔法ネコパンチは間に合うはずでした。しかし、またしても宝箱花から新たな花が飛び出したのです。


 予想外も一つだけならどうにかなるものですが、二つとなるといけません。クロマタはびっくりして固まってしまいました。三輪目がクロマタに噛みつく寸前、「危ない‼」と、ウルコちゃんがクロマタを押し倒しました。おかげでクロマタは怪我一つありません。代わりにシロマタさんのフライパンソードの柄がポッキリ折れてしまいました。 


 帽子から出たシロマタさんの耳と尻尾がへにゃりとしおれました。肩が震えています。きっと悲しいのでしょう。ふにゃけた口元はそのままに、眼が怒りに燃えています。それはクロマタを守れなかった不甲斐ない自分とフライパンを折った花に対する怒りでした。


 風が吹き荒れました。風が吹きやむとそこには大きな大きなシロネコがいました。――いえ尻尾が二本あるから大きな大きな白いネコマタです。ふにゃけた口と怒りの眼をしたシロマタさんでした。


 シロマタさんは両の肉球で宝箱花をプチッと潰しました。


 傭兵さんは一輪目を倒して駆け付けてきました。みんなが無事なのを見て一安心です。自分のミスだと申し訳なさそうに謝ります。


 傭兵さんは何も悪くありません。油断したクロマタたちがいけないのです。クロマタたちは傭兵さんに「こちらこそごめんなさい」と言いました。


 さて、ようやく宝箱の中身を確認できます。養殖屋さんは喜色満面です。


 まず目についたのは大剣です。傭兵さんのと同じくらい大きいです。なんとキラキラが三つも付いています。かなりお高そうです。傭兵さんは、直感的に、自分に合う、と思いました。キラキラ付きは相性がなんとなくわかるものなのです。それ相応の支払いをするので譲ってほしいと申し出ました。養殖屋さんは仕事の成功を祝って相場よりお安く取引してくれたのでした。


 他にも牙となっていたサーベルやハルバード、無数の短剣に加えて槌と斧、かぎ爪までありました。全てにキラキラが付いています。大大大豊作でした。


 一つだけ、武器とは違うものがありました。宝箱です。キラキラが一つ付いています。これは養殖屋さんがたくさんの武器を中に入れてこの場所に仕込んだものでした。


 クロマタは感じました。これはいい、最高だ、です。さっそく養殖屋さんに頼み込みます。指先を丸めた両の手を胸の前でスリスリしながら、

「宝箱、買わせてください、にゃ」

 最後に小首をかしげながら言いました。どこかぎこちない、けれど全力のおねだりでした。さらにシロマタさんがにゃ~、と可愛さの援護攻撃を加えました。


 養殖屋さんはキラキラの効果を確かめると、不思議そうに尋ねます。

「本当にこれでいいんですか?」


 これがいいんですと首をうんうんすると、そういうことならと格安で譲ってくれることとなりました。


 早速まっさらな伝票に名前と住所、種類は【箱】でサイズ特大と書きまして、最後にシロマタさんが肉球にハ~ッと息を吹きかけて、肉球マークをポンッと押しました。前に使った魔法のインクが残っていたのです。忘れずに一番上の控えを切り取ります。


 これで依頼は完了。ちょっと怖いこともありましたが、ウルコちゃんとも仲良くなれて大成功でした。


 終わった後は当然みんなでご飯に行くのです。


 三人と一匹でやってきたのはビュッフェ形式のご飯屋さんです。それなりのお値段ですが、代わりにエビフライも生ハムもポテトサラダも、そしてメロンだっておなか一杯食べられます。仕事上がりでおなかペコペコのクロマタたちなら元を取るなんて簡単です。


「ウルコちゃん、ケモミミ派遣ではたらく?」

 クロマタはエビフライの生ハム巻きをゴックンした後言いました。


 ウルコちゃんはちょっと考えた後、

「まあ、働いても…………いいけど」

 と唐揚げをゴックンしてから言いました。


 今日の幸せは、おなか一杯食べて友達ができただけでは終わりません。


 お家に帰ってお風呂と歯磨きを済ませても、本日最後の作業があります。眠くても我慢です。


 ベッドからシーツに枕、お布団とお気に入りのぬいぐるみをどかしますと、粗大ごみ処理券をペタリと張ります。するとベッドは輪郭が淡くなって粗大ごみセンターへと消えてゆきました。


 こんどはベッドのあった場所に転移伝票のお客様控えとサイズ特大用の転移料金を置きまして、後ろにピョンッと下がります。ちなみに着払いにおつりは出ませんので注意が必要です。


 すると虚空から、

「リョウキンタリマセンリョウキンタリマセン」

 と、音声が響きました。どうやら銅貨一枚足りなかったようです。銅貨を伝票に向かって投げると、

「テンイカイシテンイカイシ…………オキヲツケクダサイオキヲツケクダサイ…………セキニンハイッサイオイマセンセキンハイッサイオ――」


 呪文が途切れた瞬間、その場所に淡い輪郭が浮かび上がりました。徐々に色も形もはっきりしていきます。


 転移が完了したそれはクロマタが養殖屋さんから買い取った宝箱でした。これには安眠効果のキラキラが付いていたので、新しいベッドに決めたのでした。


 クロマタは嬉しそうに蓋を開けてシーツと枕とお布団、それにお気に入りの人形をセットします。


 終わるとクロマタは宝箱の中で丸くなります。宝箱はクロマタが丸くなって寝るのにぴったりでした。


 疲れていたのでしょう。すぐに寝息をたて始めました。


 シロマタさんは、仕方ないなあ、のにゃーニャーをして自分用のクッションをお口でクロマタの顔の横に運んで丸くまりました。


 電気が消えました。暗闇の中に、クロマタたちの寝言のにゃーニャーが響きました。

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