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78 砂漠のぬし

「ああ、骨が折れる」

ゾイルはうんざりしたように吐き捨てる。

砂地での近接戦は体力の消費が激しい。

砂漠の主を待ち構える。

その時地面が、重く揺れた。

「うわ」

「新手か?」

「勘弁して……」

砂漠の主がいる場所より反対側からゆっくりと、一定の間隔で、鈍い衝撃が近づいてくる。

ズン……ズン……ズン……

砂丘の向こうから、巨体が現れた。

石と砂岩で組み上げられた人型。

「油断するな」

サタンの声で、一同は身を構える。

岩の人型は5メートルはある。

見た目通り、相当な質量だ。

表面には魔法陣が刻まれ、関節部には青白い光が流れている。

その後ろ、風を纏った男が立っていた。

褐色の肌。砂色のローブ。

片目を細め、杖を掲げる。

「触れるな、旅人たち。そいつは我が領域の禁忌だ」

ジン。砂漠の魔法使い。

独自の魔法体系を持つ。

ゴーレムが一歩踏み出す。

ズン、と大地が鳴る。

ゴーレムが拳を振り下ろす。

轟音。

サソリの甲殻が砕け、黒い破片が飛び散る。

しかし次の瞬間、尾がしなる。

先ほどの質量に任せた強烈な一撃も、サソリ甲殻の表層を砕いただけだった。

毒針がゴーレムの腕を貫いた。

青白い魔法陣が、じわりと黒ずむ。

片腕がゴーレムの体から崩落した。

ジンが舌打ちした。

「……厄介だ」

サソリは鋏でゴーレムの足を狙う。

装甲は厚いが、動く無くなってしまえばゴーレムなどただの岩の塊。

ゴーレムがもう一撃を叩き込む。

サソリが砂に潜り、ゴーレムの一撃は砂をたたいた。

大ぶりの攻撃はサソリには届かない。

砂が崩れる。

ゴーレムの脚が沈む。

地中でゴーレムの足場の一部を崩したのだ。

見計らったかのようにサソリは姿を現し、その尾が、再び高く持ち上がる。

その毒針が、ゴーレムの魔法陣を狙って振り下ろされる。

ゴーレムの魔法陣は破壊され、頭部から崩れ落ちる。

「まずい、もう一度……」

ジンは再びゴーレムの生成魔法を唱えるも……

サソリの毒針がジン目掛け振り下ろされる。

「しまった」

サタンの瞳が、七色に光る。

「光輪の縛鎖こうりんのばくさ

無数の光条が鎖となり、弾けるように黒蠍へ走る。

黒蠍は尾針を振り下ろす。

しかしその直前、光の鎖が鋏に絡みつき、続いて脚へ、腹部へ、尾へと巻き付き――

空中で縫い止めた。

ガンッ、と重い音がして、巨体が砂地に叩きつけられる。

砂が噴き上がり、黒蠍は暴れ狂った。

だが、動くたびに光が深く食い込み、甲殻の隙間から白い蒸気が上がる。

それは焼いていた。魔力を焼く光。

神力の強力な拘束。

「す、すごい……」

勇者が呟く。

サタンは答えない。

ただ拘束を維持するため、腕を掲げ続けていた。

「この主、なかなかな力だ。殺さないのなら逃げるぞ。タマ!ゾイルの切った鋏はもって行け」

「にゃ」

タマは黒い鋏を掲げ持ち上げる。

黒猫の黒のシルエットが増える。

「旅の方!!こちらへ!移動します!来い!百脚ゴーレム」

ザザザザザ……

砂丘が震えた。

最初は地鳴り。

続いて、砂が波打つ。

ドン……ッ

地下から何かが押し上げてくる。

砂が噴き上がり、斜面が崩れ、勇者たちは慌てて後退した。

砂の中から現れたのは、巨大な“顎”だった。

杭の脚が砂に打ち込まれ、巨体が持ち上がる。

それはムカデ型のゴーレムだった。

ウン、と低い音が鳴る。

するとムカデの頭部がゆっくりとサタンの方へ向いた。

ゾイルが口を開けたまま言う。

「……おい、これ、乗るのか」

ジンは振り返らない。

「歩きたいなら止めはせん……あいつに追われながら……な」

一行はムカデの背に飛び乗る。

「もう抑えられん。術を解くぞ」

サタンが拘束魔法を解くのと同時に、ゴーレムは砂漠を走り出す。

砂が崩れ、脚が動き出す。

一歩。

巨大な脚が砂に沈み、次の瞬間、強く踏み固める。

続いて全ての脚が波のように動き、胴体が前へ滑る。

ドドドドドドド……

それと同時に巨大なサソリが追いかけてくる。

「速い!このままじゃあのサソリに追いつかれる」

「ゴーレム!砂丘へ」

地面を震わせながら、魔蟲ゴーレムは砂丘を登り始めた。

柔らかい斜面にも沈まない。

むしろ、砂を噛み締めるように加速していく。

一方サソリは、斜面を登るスピードは遅く、距離が空いていく。

「……離れていく。針のせいで重心の高いサソリは斜面を登るのは苦手なんだわ」

勇者は安堵する。

「ゴーレム。安全走行モードだ」

その時、ムカデの中腹の装甲板が左右に開き、平らな石の足場がせり出した。

まるで最初から乗ることを前提に作られていたかのように。

エリスが乾いた笑いを漏らす。

「……最初から用意してたでしょ、あなた」

ジンは短く言った。

「昔の遺物だ。使わぬのは惜しい」

彼が顎で示すと、ゴーレムは進路を変え、まっすぐ砂漠の奥へ向く。

山のふもとへ向かって、

巨大な多脚の影が、砂の海を泳ぐように進み始めた。


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