47-2 トカゲ料理と胸騒ぎ
「さあ、ヨルカ。やるよ」
「はい、おばあさま」
まず取りかかったのは、魔海トカゲの下処理だった。
魔海トカゲは、大陸の外に広がる魔海に棲む、一メートル近いオオトカゲである。
海藻を主食としており、その身には体表にまで海藻が生えている。
磯の香りをまとった身をしっかり洗い、熱湯で十~十五分ほど下ゆでする。
そうして臭みを抜いていく。
(まるで鶏ガラの下処理みたいだわ)
初めてトカゲを料理してみたが、意外にもそこまで特別な感覚はない。
鍋かフライパンに油を熱し、にんにくと玉ねぎを炒める。
香りが立ってきたところで、魔トマト、チリ、スパイス類――クミンやオレガノを加えた。
そこへ魔海トカゲの肉を入れ、軽く焼き目がつくまで炒める。
その後、水を加えて蓋をし、中火で三十分ほど煮込んだ。
「柔らかくなるまで煮るんだ。ここまできたら、ほんとに鶏肉と同じだね」
険しかったイルカの表情も、少しだけ和らぐ。
汁気を飛ばし、塩こしょうで味を調える。
温めたトルティーヤに乗せ、邪コリアンダーと魔ライムを添える。
「よし、これで一品できたね。魔海トカゲのタコスだ」
「おばあ様、トカゲの丸焼きもそろそろできます。こちらは簡単でしたね」
こちらは地面に穴を掘って炭火を起こし、石を加熱しておいたものだ。
焼けるまで、およそ一時間。
そのあいだに下ごしらえも済ませてある。
トカゲの腹を裂き、内臓を取り除く。
皮は残しても構わない。炭化すれば、かえって風味が増すからだ。
腹の内側に塩をまぶし、好みで香草を詰める。
焼けた石の上に葉を敷き、その上にトカゲを置く。
さらに葉と土をかぶせ、蒸し焼きにした。
一時間から一時間半ほど置いてから取り出し、今度は身に香辛料をのせる。
そして短時間だけ直火であぶり、皮にほどよく焦げ目をつけた。
皮がぱりぱりになっていれば上出来。
中はほろほろにほどけ、香ばしい燻香が立ちのぼる。
「うん、いい塩梅に焼きあがっているね。これは先にインドラ様に召し上がっていただこう。私は引き続き、ほかの料理を作るよ」
イルカは出来上がった料理をタマ族に託し、インドラのもとへ運ばせた。
「では、私はサタン様もお呼びしてきます」
ヨルカは手早く調理場を片づけると、基地の中にいるはずのサタンを探しに向かった。
「ゾイル! サタン様は?」
「おお、ヨルカか。料理は順調か? サタン様なら、ギガエレキナマズを狩りに行かれたぞ」
「ええ!? おひとりで?」
「俺もついていくと言ったんだが、空から捕るから一人で行くとおっしゃってな」
確かに、空を飛べない自分たちでは足手まといになるだろう。
それはわかる。
けれど、それでも胸騒ぎがしてならなかった。
「その湖はどこなの?」
「ここから北に二時間ほど歩いたところらしい」
「ゾイル、やはり私たちも行きましょう!」
「今からか? さすがに入れ違いになると思うぞ?」
「それでもです! 私たちは、サタン様のおそばに仕えることに意味があるのです!」
「!……そうだったな。インドラ様にお会いして、この国のことばかり考えていたが……サタン様のそばにいることこそが原点だった。大事なことを忘れていたようだ」
「四十秒で支度しな」
ヨルカは偉そうにゾイルへ命じた。
「必要ない。行くぞ」
ゾイルは常に必要な道具を身につけている。
「あ、ちょっと待って。荷物取ってくる」
結局、ヨルカの支度に二十分ほどかかり、二人は湖へ向かって出発した。




