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47 建国祭の準備と怪魚狩り

「さて、ヨルカ。準備はいいかい?」


「はい、おばあ様!」


「この宴会は、ただの宴会ではない。サタン様だけではなく、インドラ様の御膳でもある。失敗したら、私たちはここにいられなくなるよ」


ヨルカはイルカの顔を見た。


厳しくも優しく、いつも堂々としている祖母の顔が、今までにないほど厳しい。

その表情を見て、ヨルカもまた覚悟を決める。


イルカは、この宴が一世一代の大勝負になる気がしていた。

それは実戦ではない。

だが、厨房での戦いだ。


失敗は許されない。


「インドラ様は、トカゲ料理をご所望だ。……とはいえ、トカゲの調理法なんて全然知らない。どうしたものか……」


「おばあ様。トカゲとは違いますが、同じ爬虫類である蛇やワニなら調理したことがあるではないですか」


「肉質は似ている気もするけど……。果たして同じように作っていいものなのか……」


いつもなら、自信をもって料理を作るイルカ。

しかし今回ばかりは、使ったことのない食材であり、しかも食べる相手が相手だ。

さすがのイルカも決めきれない。


「おばあ様! 迷っていても時間は待ってくれません! 蛇もワニも鶏みたいな味なのです! きっとトカゲだって同じですよ!」


ヨルカは、イルカにはっぱをかけた。


「!?」


イルカは、孫娘の成長に目を見張る。


村にいた頃は、ただのそそっかしくて繊細な娘だと思っていた。

最初にゴルド族が襲来した時も、前線では戦わず、襲撃のあとにこっそり泣いているのを見たことがある。


そんな少女が、サタンとの短い旅のあいだに肝が据わり、少しの知恵も備えた女性へと成長していた。


イルカは険しい表情を和らげ、ヨルカに微笑む。


「……そうだね。とりあえず、いろいろ試しに作ってみよう!」


それからイルカとヨルカは、猛烈な勢いで数々の料理を作り始めた。



さて、建国祭を開くことになり、皆がマタゾウの指示のもとでせわしなく動き回っている。


「暇だ」


その一方で、俺にはやることがない。


インドラ様の守護者ではあるものの、幻影魔法のおかげか、しばらく出番はなさそうだ。


「サタン殿、暇そうですな」


黒い影が、そっと傍に寄ってくる。

黒猫のタマキンだ。


「正直、俺がここでやれることはない」


「サタン殿は特殊食材調達係ですもんね」


「そうなんだ。俺の仕事は、この拠点の外にしかないんだよ」


「それなら、準備のあいだにギガエレキナマズを狩ってきてはどうかニャ?」


「そいつの住む湖は近いのか?」


「ええ! ここから二時間ほどの場所にありますニャ」


「ん~、それなら今から行ってくるか。釣れるかわからないけど」


「釣り? ……まあ、ある意味では釣りかもしれニャい」


「釣り竿で釣るんじゃないのか?」


「はは、ご冗談を。五メートルもある巨体ですよ?」


「じゃあ、どうやって捕まえるんだ? ……もしかして、水中で戦うのか?」


「正解ニャ!」


「俺、泳げないんだけど……」


いや、正確には泳いだ経験がない。

腰くらいの深さの川で魚を捕まえたことはあるが、完全に水の中に潜ったことはないのだ。


「泳げなくても、水上に奴をおびき寄せればいいニャ」


「船があるのか?」


「そんなものはないニャ。だから、サタン殿の自慢の翼で水上すれすれをふわふわ浮いていれば、餌だと勘違いしたナマズが食いついてくるニャ」


「……つまり、自分が餌役になれと?」


「その方法もある、という提案ニャ。まあ、どんな方法でもいいから、とりあえず見てくるニャ」


幻影魔法は芸術的ともいえるほど緻密なのに、それ以外になるとタマ族はずいぶんおおざっぱだな。


「まあ、いいや。でも、もし捕まえたら運ぶのは手伝ってくれるよな?」


「それは任せておけニャ。そうだな、もし取れたらこの笛を吹くニャ」


タマキンは、銀色の小さな笛を俺に渡した。


「こんな小さな笛で聞こえるのか?」


「タマ族にしか聞こえない音色の出る笛ニャ。でも、その笛の音は十五キロ圏内なら聞こえる」


「へえ」


俺は笛をくわえて吹いてみた。

確かに自分には音が聞こえない。


「うるさいニャ!! こんな近くで吹くんじゃニャい!!!」


タマキンはシャーッと怒りの声を上げた。


「すまん。ちゃんと機能するか、一応確認しただけだ」


「もう早く行けニャ! そしてちゃんと宴までに帰ってくるニャ!!」


「ごめんて……」


めちゃくちゃ怒っている。


俺はその場から逃げるように、ギガエレキナマズのいる湖へ向かった。


「サタン様! どちらへ?」


「お、ゾイルか。今からちょっくら、近くの湖に電気ナマズを取りに行ってくる」


「サタン様、ギガエレキナマズを舐めてはいけません。中位魔獣に分類されるほどの怪魚なのですから」


「うーん、そうだよな……」


ゾイルの忠告はもっともだ。

だが、雷耐性を得た今の俺は、正直あまり負ける気がしない。


「少し前の俺なら、絶対に中位クラスの魔獣とはやり合わなかったんだがな……。今の俺なら、中位魔獣くらいなら何とかできそうな気がするんだよ。まして今は、インドラ様のおかげで雷耐性も手に入れたから、なおさらな……」


「いえ、しかし……私も行きます!」


ゾイルは同行を申し出た。


「いや、今回の相手は空を飛べるほうが捕まえやすそうだし、俺一人で行くよ」


「……そうですか。ご武運を」


ゾイルは心配そうだったが、納得してくれたようだ。


「それじゃ、行ってくる。インビジュアル」


俺の体は魔法で透明になり、大きくなった六枚の漆黒の翼で空高く舞い上がる。


「うわあ! 高けぇ!!」


そういえば、俺、飛ぶの初めてだ!


翼の操作はルシファーに任せているので、特に問題なく飛べている。

だが、高所に慣れていないせいで恐怖心が一気に湧き上がってくる。


(ちょ! ルシファーさん! 高い! 高い!)


(何を言っている。まだ五十メートルほどではないか)


(いや、俺、飛ぶの初めてだから!)


(慣れろ。以上だ)


にべもない。


その後、さらにルシファーは時速百キロを超える速度で飛行し、俺が白目をむいていたことは秘密である。


(着いたぞ)


歩けば二時間かかる距離を、わずか数分で到着してしまった。


俺の体は湖のほとりに着地し、インビジュアルの呪文も解除される。


とはいえ、俺は気分が悪く、すぐには戦えそうにない。


(速度は抑えて飛んだというのに……。訓練が必要だな)


「なあなあ、少しずつ慣らすっていう発想はないのか?」


思わず声に出して非難する。


(これでもゆっくり飛んだのだ。あまり遅いと地上に落ちる。空気抵抗が浮力になるのだ)


「え、今後はもっと速く飛ぶのか?」


(今の三倍は速く飛べるぞ)


「音速並みだな」


(それより速い移動方法もある。普通に飛んで音速を超えるとソニックブームが起きて空気抵抗もきつくなるからな。もっと速く移動したい時は、別の方法が必要になる)


勘弁してほしい。

少なくとも、時速三百キロには慣れろということらしい。


(ところで、さっき言っていたギガエレキナマズは、そこに浮いているやつか?)


ルシファーが示した先を見ると、巨大な怪魚が湖面に浮かんでいた。


全長六メートルはある巨体だ。

体重も二、三トンはあるだろう。


頭部からの出血が死因なのか、周囲の水は赤く染まっている。


「だれが殺したんだ?」


あたりを見渡すと、空に一点の光が見えた。


「なんだあれ?」


どこか、見覚えのある光景だ。


(サタン、目を切り替えろ)


俺はルシファーに言われるまま、第三の目へと視界を切り替えた。


すると、星のようだった光が徐々に輪郭を持ちはじめる。

光り輝く人型の姿が、宙に浮かんでいた。


(……やはりか)


「あれは……お前と同じ堕天使か?」


(あの姿は智天使だな。だが、魔界の瘴気にやられぬよう、身の周りに特殊な結界が張られている。つまり、正規の天界の任務で魔界に来ているのだろう。堕天使ではない)


「なんか、こっちに近づいてきてないか?」


(サタン。我はまだ、天界の者に正体を知られるわけにはいかない。悪いが、一人で対応してくれ)


「うえ!? 天界の奴なら対応してくれるんじゃないのかよ。なんかコツとかないのか?」


(人畜無害な魔人を演じることだな)


「……今の俺の姿で無理じゃね?」

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