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46 紫の髪 伝説の竜騎手、誕生

「ふむ。しかしこの血……サタン、もしやそなた……」


インドラ様が何か言いかけた、その時だった。

王座の間に、タマ族たちがどっと流れ込んできた。


「何事ニャ!? 先ほど膨大な雷を感知したが! 敵か!?」


皆、口々にニャーニャー叫びながら、周囲を見渡している。

そして次の瞬間、王座の前にいる紫紺色の竜へ、一斉に視線が注がれた。


「ああ、インドラ様!! なんと麗しいお姿ニャー!!」


「インドラ様が進化なされた!!」


「なんという圧倒的な風格……」


「無敵ニャ」


騒ぎが騒ぎを呼び、王座の間はあっという間にタマ族で埋め尽くされた。

見渡す限りのもふもふ――猫たちがひしめき合い、インドラ様を拝み倒している。


猫の鳴き声で、王座の間は完全に満たされた。


「インドラ様が何を言いかけたのか、聞きそびれたな……。いったん出るか」


俺はそうつぶやき、王座の間をあとにした。


扉の外へ出ると、そこにはイルカが立っていた。


「イルカ、こんなところで何してるんだ?」


「いえ、ここから爆音が聞こえましたので、何があったのかと……。サタン様、そのお姿は?」


「その姿?」


「え? いや、その……髪の色が……」


「髪?」


俺は自分の長い金髪を持ち上げようとして、そこで気づいた。


「お、俺の髪が!!」


(どうした!? まさか禿げたのか)


(違う!! 色が……俺の金髪が!)


俺のつまみ上げた髪は、深い紫色に染まっていた。

ちょうど、インドラ様の体色と同じような色だ。


(先ほどの儀式で変化したか……。まあ、伝説のドラゴンライダーにも、騎乗する竜と同じ髪色になったという逸話があるからな)


「早く言えよ!!!」


俺はルシファーののんきな感想に、ついカッとなって声に出してしまった。


びくっと肩を揺らすイルカ。


「も、申し訳ありません、サタン様」


「あ、すまん。イルカに言ったわけじゃないんだ」


「?」


イルカは訳がわからないといった顔で、ぽかんとしている。


その時、ルシファーが俺の口を借りて、イルカに言伝を頼んだ。


「イルカよ。ワ族の皆に、我がインドラ様のドラゴンライダーとなったことを伝えておいてくれ」


「な、なんと……そ、それは本当ですか?」


イルカは心の底から驚いているようだった。

年を重ねて重たげだった瞼が、この時ばかりはこれ以上ないほど見開かれている。


鳥肌が立つのが、目に見えてわかった。


「本当に? ドラゴンライダーですよ? インドラ様に騎乗なさるのですか?」


「本当だって!! なんでそんなに確認するんだ」


俺は少しあきれながら、イルカに先ほどの儀式のことを説明した。


イルカは、今にも気絶しそうな顔をしている。


「そんなに驚くことなのか?」


「も、も、もちろんでございます。で、伝説上の存在でございますよ。今の世において、数少ない誇り高き竜様に騎乗できる魔人など存在しません。おそらく、この地に昔いたというタマ族の守護者といえど、インドラ様に騎乗することはなかったでしょう」


「そうなのか? なんでインドラ様は、乗せてくれる気になったんだろうな?」


「わたくしにはわかりかねます。ただ言えるのは、あなた様が特別な存在だということでしょう」


そう言うと、イルカは先ほどよりもさらに恭しい態度を取った。


「まあ、実際にはインドラ様がもう少し大きくなるまでは、俺を乗せることはできないだろうから、少し先の話になりそうだがな」


成長した竜は、全長三十メートルを超えるという。

今のインドラ様の体長は、せいぜい二メートルほど。

まだまだ幼竜だ。


俺を乗せて飛び回れるようになるまでは、騎乗はおあずけだろう。


というか、俺にも立派な翼が生えたのだが、それでも騎乗するメリットはあるのだろうか?


(うむ、いい質問だ。今の我とそなたならば、空を飛ぶこと自体は造作もない。……だが、ドラゴンに騎乗することには、もっと別の意義があるのだ)


どうやら、単に飛ぶことが目的ではないらしい。


考えてみれば、飛ぶだけなら魔界の巨大な怪鳥にでもつかまっていればできるだろう。


(簡単に言えば、圧倒的な飛行速度、ドラゴンの鱗から自動で発動する物理障壁と魔法障壁、そして膨大な魔力を持つドラゴンからの魔力供給だな)


(要するに、素早さと防御力と魔力が跳ね上がるイメージか?)


(ずいぶん簡単に言うが、まあその通りだ。しかし……その効果は、そなたが思っている以上だろうがな)


ドラゴン単体でも、魔界に棲む生き物の中では最上級の強さだ。

そのうえ騎乗して連携できるのだから、そりゃ強いだろう。


(まあ、インドラ様に騎乗してからの話だし、今は成長してもらうための食材集めをしないとな)


(時々、そなたの無知に起因する堂々とした態度はすごいと思う時があるぞ……。だが、おかげで我も冷静を取り戻せた。感謝する)


(ルシファーは一度インドラ様と戦ったことがあるからだろ? それは仕方ないって。俺はただ、想像が追いついてないだけだよ)


(いずれわかることだな……。ところで、翼の収納の仕方だが……)



(食材集めの前に、そなたは保管庫にある酒を飲まなくてもいいのか?)


そういえばそうだった!!


ゾイルとヨルカを呼びに行ったせいですっかり忘れていたが、あれは俺が楽しみにしていたことの一つだった。


ちょうど、ここにイルカもいる。

ならば、さっそく頼んでみるか。


「そうだ、イルカ。到着して早々で悪いんだが、開国記念と皆の顔合わせを兼ねて宴を開こうと思う。協力してくれるか?」


「おお! 早速、わたくしの腕の見せどころでございますね。お任せください! 宴にふさわしい料理の数々をご用意いたしましょう」


「インドラ様からは食糧庫の食材を使う許可をもらってる。好きに使ってくれ。あと、このことはマタゾウにも伝えてくれ。もし宴の件を渋ったら、この葉っぱをちらつかせればいいから」


そう言って、俺はゲキマタタビを差し出した。


「承知いたしました。では、明日宴を開催いたしますので、しばしお待ちください」


いよいよ、酒が飲める日がやってきた。


いったいどれほど素晴らしい味が待っているのか。

そう思うだけで、胸の高鳴りが止まらなかった。

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