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40 雷帝竜インドラ、ついに降臨

会議室にいた一行は、インドラが安置されている玉座の間へと急いだ。


この時ばかりはタマ族たちも二足歩行をやめ、一斉に四足で駆け出す。

二本足で歩いていた時からは想像もつかないほどの速度で、床を蹴って猛進していく。

瞳孔は最大に開き、尻尾は垂直にぴんと立っていた。

興奮が最高潮に達しているのだろう。


あっという間に目的の場所へたどり着いた。


玉座へ目を向けると、そこに安置されていたインドラの卵に、ぴしり、と音を立てて亀裂が走っていた。

王の間には、すでに集落の者たちが全員集まっている。

亀裂が広がるたび、どよめきが大きくなる。


やがて卵の一部が崩れ落ち、いよいよ中の存在が姿を現そうとしていた。


「皆の者、静かに!!」


首領のタマゴロウが、信仰する神の再臨を厳かに迎えるよう、一同へ声を張る。


見渡すと、タマ族の者たちは一匹残らず、緊張なのか感動なのかもわからぬまま、身体を震わせていた。

それはジュウベイも同じだった。

インドラの存在を知る者にとって、これはまさしく歴史的瞬間なのだろう。


「キュイ」


卵が完全に割れ、ついにインドラが姿を現した。


――紫色のミニドラゴンである。


二本の角は紫から青へとなだらかに色を変え、その先端からは細かな雷がほとばしっている。

体長はおよそ五十センチ。

大きさだけでいえば、タマ族とさほど変わらない。

威厳に満ちた巨竜というより、どちらかといえば愛らしい見た目だ。


だが、タマ族の感性は違うらしい。


「おおお……なんと神々しく、凛々しいお姿……!! われら一同、インドラ様の再臨を長き時お待ちしておりましたにゃ!!」


「クッククイ」


インドラがそう鳴いた瞬間、タマ族たちは歓喜のあまり、一斉に泣き始めた。


「おお、なんともったいないお言葉!!」


「え、意味わかったの?」


俺とジュウベイには、何を言っているのかまるでわからない。

思わず互いに顔を見合わせ、首をかしげる。

どうやらインドラとタマ族の間には、共通言語のようなものがあるらしい。


皆が平伏し、頭を垂れている。

立ったままでいるのもまずい気がして、俺も真似して身をかがめようとした。


その時だった。


「クッククキュイクキャク」


インドラが、こちらに向かって声を発した。


「なんと!!」


タマゴロウが目を見開く。


「サタン、と言ったか? インドラ様がお前にお話があるとのことだ。謹んで拝聴せよ」


「ん? しかし……」


「インドラ様のお言葉は絶対!!!」


俺が戸惑っていると、タマゴロウが怒声のように一喝した。


……どうも、こいつ俺に当たりが強くないか?


少し気落ちしつつも、俺は仕方なくインドラの前へ進み出る。


「ククククグイキュー」


やはり、何を言っているのかさっぱりわからない。

だが、タマ族たちには意味が伝わっているらしく、周囲にざわめきが走った。


「インドラ様は……なんて?」


俺は振り返り、タマゴロウに尋ねる。


「なんと、お前はインドラ様のお言葉がわからぬと申すか! この罰当たりめ!!」


タマゴロウは毛を逆立てて怒鳴った。


「インドラ様は、お前に“ここへ住み着き、われらとともに仕えよ”と仰せだにゃ」


「嫌だよ。めんどくさい」


ドラゴンの世話など、いったい何の得があるというのか。

厄介事を押しつけられるのはごめんだ。

俺は即答した。


「なんと! 無礼者!!」


タマ族たちが殺気立ち、一斉にこちらを睨みつける。


お、やる気か?


俺も反射的に身構えた、その時。


「ククキュイククグキュイククガ」


インドラが再び声を発した。


するとタマ族たちは、今度は一転して驚いたような顔で、ぽかんと俺を見つめ始めた。


……今度は何と言ったんだ?


「インドラ様が、そこまで仰るのなら……われらに異論はございませんニャ」


タマゴロウは、しぶしぶといった様子で言った。


「おい、サタン。お前の望みは何だ?」


「ん? 俺か?」


少し考えて、正直に答える。


「うまい飯と、酒ってやつを飲むことだな」


「インドラ様が、それらを用意するよう、われらに命じられた」


タマゴロウは不承不承ながら続ける。


「それなら、インドラ様に仕えるか?」


なに!?

ついに酒が飲めるだと!?


……いや待て。

そんなうまい話があるわけない。


だがその時、先ほどまで黙っていたルシファーが頭の中で語りかけてきた。


(サタンよ。この話は受けるのだ)


なんと、ルシファーまで乗り気らしい。


(たしかに酒と料理は魅力的だ。だが俺は、自由気ままに旅をして、各地のうまいものを食いたいんだ。宮仕えなんてごめんだね)


(それならば、このタマ族どもが用意してくれるであろう)


ルシファーは平然と言った。


(旅をしたいなら、成長したインドラの背に乗ればひとっ飛びだ。それ以上に、この魔界で覇権を握るには、ドラゴンの協力が不可欠なのだ)


(だから、俺は覇権なんぞ興味ないんだって!)


思わず心の中で怒鳴る。


(強さを求めたのだって、死なずに各地の料理を楽しみたいからで、酒を飲みたいからで、別に統治したいわけじゃない!)


(よいか?)


ルシファーの声が少し低くなる。


(そなたが望もうと望むまいと、もう巻き込まれる未来は避けられぬ。運命の歯車は、すでに回り始めているのだ)


(……なぜ、そう言い切れる?)


(いまごろ、隠れ里での一件はベルゼブブの耳に届いているはずだ。おそらく、われの正体も露見したと見るべきだな)


(つまり、俺の中のルシファーを、今ごろ血眼になって探してるってことか?)


(ああ。それは間違いない)


ルシファーは即答した。


(おそらく、洞窟のオーガども以上の魔人や魔獣が、小隊を組んで我らを捜索している)


(なんでそんなことまでわかる……魔力感知か!!)


(その通りだ)


ルシファーは得意げですらあった。


(そなたが意識を取り戻す直前、各地のベルゼブブ配下どもが、この地へ転移してくるのを感知した。オーガどもと同じ魔力の色をしていた。ベルゼブブが進化を促した配下に違いない)


(うっ……ということは、今このドームを出たら見つかる可能性が高いってことか?)


(高いな。だが幸い、このドームの幻影魔法は外からの魔力感知にも対策が施されている)


ルシファーが俺に嘘をつくとも思えない。

おそらく事実なのだろう。


……面倒なことになった。


もとはと言えば、俺が人前で意識を失ったのが悪い。

だが、ルシファーの正体があの里で露見したのはかなり痛い。

まあ、翼も少しずつ大きくなっていたし、いずれ時間の問題だったのかもしれないが。


ルシファーとの相談を終え、俺は意識を現実へ戻した。


「わかった。その話、受けよう!」


「クルクルクイキュー!」


「承知いたしました」


タマゴロウが深くうなずく。


「そのようにいたしましょう。よろしく頼みますぞ、サタン殿」


こうして俺たちは、この地で拠点を築くことになったのだった。

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