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23 里長の歓待、鍛冶屋の条件

里長マタゾウの家は立派で、ほかの家より三倍は大きかった。


家に入ると、まず入り口で靴を脱ぐように言われ、その指示に従う。

なるほど、家の中を清潔に保つ文化なのだろう。


さらにマタゾウは、下女に湯を張ったたらいを持ってこさせた。

俺たちは入り口近くに腰を下ろさせられる。


「おや、足湯は初めてですかな?」


「足を洗うのか?」


「ええ。山道を長く歩かれたので、足もお疲れでしょう。こうして足を洗うことで、疲れも汚れも落としていただくのです」


マタゾウはそう説明すると、下女たちに足を洗うよう指示し、自分は一足先に奥の部屋へと下がっていった。


正直なところ、他人に自分の汚れた足を洗ってもらうのは気が引ける。

泥だらけの足を女性に洗わせるのは、どうにも申し訳ない。


だが、これがこの里の風習だというのなら、無下に断るわけにもいかなかった。

変に拒めば、かえって相手に失礼となることもある。


「サタン様、足湯というのも気持ちのよいものですね」


ヨルカにはかなり好評らしい。

だが、俺としては誰かに足を触られるのがどうにもくすぐったい。


それでも、洗い終えたあとに丁寧に拭き上げられると、思わず感心した。


「おお……なんだか、すごくすっきりした気がする」


「そうでしょう、そうでしょう」


足を洗ってくれた下女も、驚く俺の様子を見て満足そうだ。

洗われている最中はこそばゆかったが、今はたしかに爽快だった。


きれいになった足で、下女に案内されながら、マタゾウとホクサイの待つ部屋へ入る。


「足湯はいかがでしたかな、ご客人?」


「とっても気持ちよかったです」


ヨルカが笑顔で答える。

かなり気に入ったようだ。


「こそばゆい感じはしたが、今はさっぱりして気持ちいいな」


「ご満足いただけたようで何よりです」


好意的な感想を聞けて、マタゾウは満足そうにうなずいた。


「改めまして……ようこそおいでくださいました、雲隠れの里へ。先ほどはホクサイ殿が、あなた方の仲間であり、元里人でもあるゾイルに失礼いたしました。どうかお許しくだされ」


「あれは、俺なりのけじめだったんだよ」


ホクサイが、どこかすっきりした顔で口を開く。


「あいつがいつか帰ってきたら、一発ぶん殴ってやろうと、ずっと思っていてな」


十年分の思いがこもった拳だったのだろう。


「ホクサイさんは、ゾイルが里を抜けるときに、剣を抜かない誓いを立てたことも知っていたのか?」


「ああ、やっぱりそうか。あいつは真面目すぎるからな。そうじゃないかと思ってたよ。だが、いつかはあいつ自身が、自分の意志でその誓いを破らなきゃならねぇ。剣を抜く理由を、自分で選べるようになってこそ、本物の剣士だ」


ホクサイは、ずっとゾイルのことを気にかけていたのだろう。

その言葉から、そんな思いがにじんでいた。


「して、この里にはどういう経緯で来られたのかな?」


マタゾウが改めて尋ねる。


「それはな……」


俺は、ゾイルと出会ってから今に至るまでの経緯を話して聞かせた。


「……なるほど。事情はわかりました。まずはゾイルの命を救ってくださったこと、感謝いたします。新しい武器がほしいとのことでしたら、この里の鍛冶職人を紹介いたしましょう」


マタゾウは丁寧に頭を下げ、礼を述べた。

しかも太っ腹なことに、武具の調達まで手を貸してくれるという。


マタゾウが手をひとつ打つ。


すると、どこからともなく、すっと黒子姿の者が現れた。

肌の露出は目元だけで、それ以外はすべて黒い布で覆われている。


見た目だけならかなり怪しい。

だが、その装束は実に機能的だった。


露出が少ないぶん快適性は低そうだが、防御面は明らかに優れている。

物理攻撃にも魔法攻撃にも強そうなのが一目でわかった。


繊維の一本一本にまで魔力が通っており、第三の目で見れば異様なほどの輝きを放っている。

この里の技術力の高さがうかがえる逸品だ。


しかも、こうして目の前に突然現れるほどの隠密技術まで持っている。

この者も、ホクサイが鍛えたのだろうか。


「ハッ! お呼びでしょうか?」


黒子の者はひざまずき、マタゾウの言葉を待つ。


「この方たちを鍛冶場へ案内し、ジュウベイに、この者たちの武具を作ってほしいと伝えるのだ」


「ハッ! 承知しました。では、お客人。こちらへどうぞ」


黒子の案内人は立ち上がり、先に立って歩き出した。


俺たちは靴を履き直し、マタゾウの家を出て村の中を進む。


ぱっと見た生活水準は、ワ族の村とそれほど変わらないように思える。

だが、住人はみな武器を携えており、身につけている服や防具も戦闘向けの高い防御力を備えていた。


優秀な鍛冶職人がいるのは間違いなさそうだ。


後ろ姿からでも、案内役の黒子の力量はわかった。

歩くときも、階段を下りるときも、体幹がまるでぶれない。


体の中心に太い芯が通っているようだ。

これほど鍛え上げられていれば、どんな体勢でも簡単には崩れないだろう。


この者もまた、相当な鍛錬を積んでいるに違いない。


「この里には、農民はあまりいないようだな?」


俺は黒子に声をかけた。


「はい。ここは隠れ里ですので、大規模な農地は持てません」


「じゃあ、どうやって暮らしているんだ?」


「少し前までは狩りが中心の里でしたが、今は同盟先ができましたので、そこと物々交換をして食料を得ております」


「同盟先?」


さらに聞こうとしたところで、黒子が足を止めた。


「お客人、到着しました。鍛冶場はこちらです」


どうやら、ちょうど目的地に着いてしまったらしい。


目の前にあるのは、大きな煙突が屋根から突き出た建物だった。

風通しをよくするためか、窓や扉は大きく作られている。


だが中は薄暗い。

炎の色や金属の焼け具合を見やすくするための工夫なのだろう。


「ジュウベイ殿、作業中失礼します」


「なんだ? そいつらは?」


こちらをちらりと見ただけで、すぐに視線を作業へ戻す。

無愛想だが、悪気があるわけではなさそうだ。


ジュウベイは、いかにも職人気質の頑固おやじといった風貌だった。

緑色のとんがり帽子に作務衣姿。しかも小柄な一つ目の男である。


顔には深いしわが刻まれ、ハンマーを握る手はごつごつとしていて、まさしく職人の手だ。


「この方たちはゾイル様のお仲間であり、マタゾウ様のお客人です。ジュウベイ殿に、新しい武具を用意していただきたいとのことです」


「はあ? あのくそ爺、勝手に請け負いやがって」


「ジュウベイ殿、口が過ぎますよ」


「うるせぇ。文句も言いたくなるわ。今の材料不足は、マタ爺だって知ってるだろうが!」


「……そのことですが」


黒子姿の案内人はジュウベイに近づき、耳元で何かをささやいた。

こちらには聞こえない。炉の火の燃える音にかき消されて、会話は届かなかった。


すると、ジュウベイがにやりと顔をゆがめた。

……嫌な予感がする。


「さて、お前さんたち。武具がほしいんだったな。だが残念、今ここには、お前さんたちに武具を作ってやれる材料がねぇ。材料がなけりゃ作れねぇ。それくらいはわかるな?」


「何が言いたいんだ?」


「察しが悪いな。つまり、武具を作ってほしけりゃ、自分で材料を取ってこいってことだよ」


やはり、そういう話か。


あの里長、なかなか食えない狸爺だ。

ゾイルを救ったことには感謝している。だが、武具を作る材料まではない。


あの場で直接断れば、恩知らずに見える。

だからあえてここへ案内し、事情は鍛冶屋の口から説明させる。


そして俺たちに選ばせるわけだ。

材料を自分で集めるか。

それとも諦めて帰るか。


「サタン様、どうされますか?」


ヨルカが複雑そうな顔でこちらを見た。


「決まってる。材料はどこにある?」


そう答えると、ジュウベイは満足そうに笑みを浮かべた。

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