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110 雷と風と斬撃の嵐

「……相手に隙を与えない連撃。そういう戦い方か」

刀を下げる。

肩の力を抜く。

深く呼吸する。

風の流れ。

雷の跳ねる癖。

壁の角度。

天井の低さ。

足元の砕石。

雷鬼が吠えた。

「まだ立つか!」

再び突進。

今度は四腕それぞれに別の雷を纏う。

一つは剣撃のように直線。

一つは鞭のようにしなる。

一つは投擲用に帯電する剣。

一つは拳に雷をまとわせた近接用。

風鬼も同時に動く。

気流を螺旋にし、ゾイルの周囲へ風壁を幾重にも展開した。

包囲し、逃げ道を消す。

だがゾイルは、初めて真正面から踏み込んだ。

「疾風一刀流――玖の型、《天駆け》」

自ら生み出した風の足場に加え、風鬼の風を読み取る

一歩。

風に逆らわない。

二歩。

乱流の継ぎ目へ足を差し込む。

三歩。

押し潰されるはずの風圧の中を、最も薄い膜だけを踏み抜いて滑る。

「なに……」

風鬼の目がわずかに見開かれる。

ゾイルは風を斬らない。

風の“切れ目”を駆けた。

そこへ雷鬼が帯電した剣を凄まじい勢いで投擲した。

真正面。

「界断!」

一閃。

なんと雷をまとった剣が真っ二つに裂ける。

刀身から左右へ跳ねる細雷を、今度はあえて深追いしない。

半身をずらし、一条を肩で受けた。

バチィッ!!

肉が焼ける。

だが止まらない。

「ぐっ……らァッ!」

痺れを押し込み、そのまま前進。

雷鬼の懐へ入る。

雷鬼が拳を振り下ろす。

近距離の直線打撃。

ゾイルは最小限の動きで斬り上げた。

「界断・浅葬」

空間を深く断つのではなく、表面だけを裂くような速い斬撃。

拳の軌道だけを逸らし、雷鬼の体勢を崩す。

そこへ風鬼が、横殴りの暴風を叩き込む。

ゾイルのみを吹き飛ばすつもりの正確な一撃。

だがゾイルは待っていた。

「疾風一刀流――拾の型、《鳴神崩し》」

横薙ぎ。

斬撃そのものは風に飲まれる。

だが目的は相殺ではない。

風の層を一瞬だけ歪ませること。

暴風の流れがわずかに乱れた。

その一瞬、進路を逸らされた雷鬼の巨体へ風圧がまともに叩きつける。

「ぐォッ!?」

雷鬼の体が横へ流れる。

連携が崩れた。

正確な連携は、崩されると途端に瓦解するものだ。

ゾイルはその隙を逃さず、さらに踏み込む。

風鬼が咄嗟に風壁を何層も重ねる。

柔らかく受け流し、斬撃を殺す防壁。

だがゾイルはもう理解していた。

全部を斬る必要はない。

流れの薄い一点だけを貫けばいい。

「疾風一刀流――拾壱の型、《裂空・白嵐》」

踏み込み。

全身の捻り。

刃筋が白く光った。

一枚目を穿つ。

二枚目を裂く。

三枚目で流されかける。

だがそこでさらに手首を返し、刃を風に“乗せる”。

四枚目。

五枚目。

六枚目。

風鬼の防壁が連鎖的に裂けた。

風鬼の瞳が揺れる。

「しまっ――」

遅い。

白い斬線が胸を斜めに走った。

鮮血が噴く。

風鬼の体が大きくのけぞる。

しかし、そこで終わらない。

背後から雷鬼。

怒号。

全身の雷を圧縮し、巨大な直線の砲撃として放つ。

今までで最も太く、最も速い。

地形ごとゾイルを消し飛ばす一撃。

ゾイルは振り向く。

満身創痍。

それでも静かに刀を構えた。

心は不思議なほど静かだ。

「……お前は怒ると直線的な攻撃になるな。待ってたよ」

呼吸を止める。

すべてを刃先へ集める。

「開門空裂」

巨大な雷撃が黒い一線に消え、風鬼の頭上から再び現れた。

ドッドッッ!!

雷砲が風鬼に直撃。

「ギャオオ」

迷路の壁が消し飛び、天井が吹き上がる。

落ちる岩塊と雷光の嵐の中、ゾイルは真正面へ駆け抜けた。

雷鬼が目を見開く。

「まだ来るかァ!?」

「終わりだ」

ゾイルの踏み込みが、最後の一歩を刻む。

「疾風一刀流――拾弐の型《天断割海》」

音が消えた。

次の瞬間。

雷鬼の胴に、深い斜めの断裂が走る。

遅れて黄電と血が噴き上がった。

「グアァァ」

巨体が揺らぐ。

さらにその余波の斬線が、倒れかけた風鬼の首元を浅く、だが首の動脈を切り裂いていた。

二体の副将が、同時に膝をつく。

広間は半壊していた。

壁は崩れ、天井には巨大な裂け目が走り、風と雷の残滓がなお狂ったように渦巻いている。

ゾイルはその中心で、刀を静かに下ろした。

肩は焼け爛れ、脇腹からは血が流れ、脚も震えている。

限界だ。

まともに立っているのが不思議なほどの傷だった。

それでも、その眼だけは鋭い。

「副将でこれか……」

血を吐き、崩れた迷路の奥を見る。

「なら、この先はもっと……面白いな」

そう言って、ゾイルはふらつきながらも歩き出し、そして倒れた。

背後では、風と雷を司った二体の鬼が、ようやく巨体を地に沈めていった。


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