雨上がりのハイウェイ
白鷺楓は窓を開けベランダに出た。
昨日とはうって変わって青空が広がり、芝生は青々と輝いて見える。もう地面も乾いているようで、芝生の上では……日出が体操をしている。健康に気を使いはじめる年頃なのだろう、多分。
晴れた今日は、延期になっていた天空国道の探査を行う。あんな地形は見たことがないから行くことは緊張するけれど、でもそれを避けていては良くないと思う。苦手なことにこそ挑戦するべきだ、と中学でも高校でも言われたし、実際もっともだと楓も思っている。
緊張と言えば、もう一つ緊張することがある。
久我という新しい住民とはほとんど話したことがない。その人と一緒に冒険するというのは、大丈夫だろうか。
よく知らない人といるのは楓にとってかなり緊張する。固くなって失礼な態度をとってしまわないか心配だった。
「ふう……緊張ばっかりだ、私。少し落ち着こう」
落ち着くためにやることと言ったら、決まっている。
コーヒーを飲むんだ。
生活に必要なものが過不足あるリビングの中で、目立っているのはコーヒーメーカーだった。これは生活に必要ないが、楓はMPを思い切って使ってしまった。
リラックスしたい時はコーヒー、これが楓の譲れないルーティーン。高校受験勉強もコーヒーが支えてくれた。
コーヒーが飲めるのが、楓にとってマンションに住んでいる一番いいところだ。
まず犬の絵が書いてあるカップにお湯を沸かして入れ、カップ自体を温めておく。そしたらコーヒーメーカーにカップをセットし水を入れる。
それが済んだらきっちり整理整頓された棚からコーヒー豆の袋を取り出す。
コーヒーメーカーの口を開けて、コーヒー豆を1杯分入れる。カラカラと音を立てて入っていくのが耳に心地良い。
スタートボタンを押すとガリガリと豆をひく音をコーヒーメーカーが立て始めた。うるさいという人もいるけれど、楓はこの音が好きだった。
しばらくドリップが終わる時間を待っていると、だんだんといい香りがしてくる。期待が高まり、ついにコーヒーが出来た。
ゆっくりと一口コーヒーを口に含む。
いいバランスの苦みと酸味が広がり、口の中からもほのかに甘い香りが広がってくる。
「ふぅ……やっぱりこれが一番落ち着く」
緊張もほぐれてきた。
これなら今日の探索で変なことをして迷惑をかけずに済みそうだ。
「そうだ、もっと作っておこう」
より多くのコーヒーを作り、水筒に入れておく。
本来は挽きたてを飲みたいのだけれど、たとえそうでなくてもコーヒーは美味しいのだ。
よし、行こう。
持ち物を確認して、靴紐をきつく縛り、楓は出発した。
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「今日もちゃんと浮かんでるな」
俺と楓と久我の三人は、二日ぶりに100均の二階に戻ってきた。
そこの崩れた壁からは、この前と同じように空に向かって千切れた渦を巻くアスファルトという奇妙で壮大な光景が見えている。
「九重さんもだったんですね。私も、もしかしたらあの日だけの出来事かと心配していたのですが、大丈夫なようでほっとしました」
楓はまっすぐに浮かぶ国道を見ている。
自然公園には行っていないからこういう異常環境に挑むのは初めてだと思うが、いい精神状態で臨んでいるようだ。これは安心だな。
さて久我はというと。
「俺はやれる俺は高いところでも平気俺は稼ぐ……っしゃあ!」
めちゃくちゃ気合入ってるな!
少し入れ込み過ぎな気がするけど、やる気があるならまあ悪いことはないか。
「よし、それじゃあいこうか」
「はい」
「しゃあっ!」
100均の壊れた壁のところまで行くと、少し先に壊れた道路の破片が浮かんでいた。破片といっても元が大きな道路だから、幅2m,長さ5mくらいはある。それがちょうど100均の二階から2mくらい離れたところに浮かんでいる。
「今の重力ならあそこに飛び移れそうだな」
「その先にも、同じような破片がいくつかあります。その先に長いまま浮いてる道路がありますね」
念のために建物の中で何度かジャンプしてみて、どれくらいの踏切りの強さにすればどれくらいの距離飛べるかを確認してみる。
今の重力では、届かないことより飛びすぎることに気をつけたほうがいいことがわかった。だが、そこさえ気をつければジャンプして飛び移るのはたいして難しくはなさそうだ。
「イージーモードのパルクールってとこか。今の低重力で二階の高さなら失敗しても平気だろうし、ちょうどいい練習と思ってやろう。じゃあ俺からやってみるよ」
軽く助走をつけて……俺は100均から飛び立った。
タンッと軽めに踏み切ると、体はふわりと放物線を描き、宙に浮かぶ道路の破片の上に無事に着地した。
よし、いけた!
宙に浮かび渦巻く道路を見上げれば、ところどころが寸断されていて、このように破片を飛び移っていかなければいけないところがいくつもある。
だがこれなら、そういうところも飛び越えていけるだろう。
さあ、天空国道の攻略開始だ。




