部屋と庭は使いよう
「はい! スポーツできるようにスペース取って欲しいです!」
と真っ先に言ったのは綾瀬だった。
さすがこの前主張してただけのことはある。
「僕も同意です、これだけ広いなら体を動かさなきゃですよね!」
「ええー。毎日クタクタになるまで探索してるのに、運動までやるの? 物好きねあなた達って」
日出は同意するが、天音は顔をしかめている。
好みは人によって結構違うらしい。
「嫌なんですか天音さん?」
「天音がやらないだけ。スポーツ用のスペース確保するのは別に反対じゃないわよ、こんだけ広けりゃやりたい人がやってもまだ余るでしょ。天音は本来アウトドア派じゃないのよね、今は毎日歩き回ってるなんて信じらんないわ」
運動好きではないとはいえスポーツ用に使うことに反対というわけではないらしい。
他の人からも異議はでなかったので、そのまま進めることにした。
「じゃあスペースを確保するってことで、どれくらい必要か……何やるか決まってる?」
「うちはバスケ! もうゴールも用意してるんだよね」
「え、はやっ……まさかその箱」
「そう。さあご覧あれ!」
綾瀬がなぜか通販の箱を持ってきていて不思議だったのだが、その箱を開くと中から出てきたのはなんとバスケットのゴールだった。
俺ならずとも集まっている住民達がざわつく。
「なっ……んてものまで」
「そう、売ってたんだよね、通販に」
「マジか……そんなものまで売ってるとは、マンション通販の可能性を俺はまだ甘く見ていたかもしれない。……にしても、少し小さくないか? てか高くなかった?」
そこにあるのは、綾瀬の背丈よりちょい上くらいの高さしかない。どう見てもバスケのゴールにしては小さすぎる。
「あ、初めて見る感じ? これはここをこうして……ほら、高くなった」
「あーなるほど高さ調節機能があるんだ」
「そ。しかも軽々動かせる。こういうポータブルなゴールがあるんだよ。しかもお安い。2000MPくらいで買えちゃった。ちょうどついこの間、結構稼げた日があったからさ」
綾瀬が視線をちらりと体育座りの土屋に向けた。
稼げたのに関係あるのかな。まあそれはいいけど、意外とやすいんだな。簡易的だけど、動かしやすいならむしろこういうやつの方がいいのかも。
「いいですねーバスケ。僕はバドミントンですね。昔やってたんですよ、その時は体育館でしたけど、競技じゃないなら外でも問題ないでしょう」
日出に意外な経歴。
バドミントン部だったこともあるのか学生の頃。
ポータブルのゴールなら使わない時には動かせるし、バドミントンのネットも、固定式じゃなく持ち運べるのもあるらしいので、それぞれのスポーツやらない時は片付ければ全対応できる。
ひとまず真っ先に出たのがこの二つで、他はもうすぐやりたいというほど推してる人はいなかったので、やりたくなった時にやりたいなと思った人が都度声かけたりすればいいだろうということで話がまとまった。
とりあえずスペースだけ確保しておけば、道具は入れ替えて色々できることだし。
というわけで、一番マンションから離れたあたりにバスケコートくらいの面積分はスポーツ用として何も手を付けずにしておくってことで話し合いの結果決定。
それから次は畑の拡大のことを話し、マンションからスポーツスペースを見る向きに立ち左手の方に、さらなる畑をつくることにした。
最初に菜園を作った時は今に比べて住民も少なかったので、狭いスペースでも結構育てられたが、あの頃より倍どころじゃなく人数が増えているし、畑を大きくするのはいいことだ。
これまで育ててたのと同じものをさらに数を増やすことからまずはやる。その次にはまだ作ったことない野菜や果物を育ててみる。
ということに畑は決定した。
のだがその時、一人の悪魔がすっと真っ直ぐに手を挙げた。
アンドラスだった。
「自分も発言してもよろしいでしょうか」
「もちろん、アンドラスも何か希望が?」
「ええ。畑を広げるならば、是非さつまいもを育てていただきたいのです」
「へえ、いいじゃない。アンドラスもスイートポテトとか好きなのかしら?」
「もちろん好きです、天音さん。しかしさつまいもを育てたい理由はむしろ庭が広がったことにあります。これだけ広ければ、できるではありませんか。このスペースを利用して焼き芋ができるではありませんか!」
なんか興奮してる……。
ま、まあアンドラスは食について勉強家だもんな、どこかで焼き芋という文化を知ったんだろう。そしてアンドラスは掃除をしている。ということは、落ち葉を集めることもあったはず。
そうくればアンドラスが焼き芋に行き着くのは必然か。
「まあいいんじゃないかな。さつまいもなんていくらあってもいいもんだし」
「飢饉のときにもさつまいも作ったらしいものね」
「しかし、そうなると……そうだな、広がったスペースに倉庫も欲しいな」
「倉庫? そんなものいる?」
「今は適当にとれたものを食いたい人がとってるけど、もっと畑が広がったら、今は誰も必要ないけど保存しておきたいってなると思わないか」
「あー、たしかににそうね。そうなると全体で保存しとく場所がほしくなるってこと」
「ああ。それに土地が広がってやれることができたら、そこで使う道具なんかも増えるだろうし、そういうのも置き場が欲しい……ってなると、全員のものを置く倉庫がほしいってわけ」
「理解したわ。たしかにあるとよさそう。どう、みんな?」
天音が尋ねたがしかし。
「でも、高いんじゃねえか? MPあんのか?」
という久我の一言で皆はっとした。
スポーツ用具とは違って、建物といえばさすがに高い。
「誰も使ってねえ部屋があるんだから、そこを倉庫代わりにすりゃよくねえ?」
続いた久我の一言で皆さらにはっとした。
まったくもってそのとおりだ。逆に今まで活用してなかったのがなんでだというレベルの発想だ、一部屋倉庫にすればいいんだ。
部屋から外へとちょっぴりは持ち運びの手間があるけれど、MP大幅節約にはかえられない。
「じゃあ、空き部屋を倉庫代わりに使うのは――」
「「「異議なし」」」
こうして、広がった土地の活用+αは決まった。
「じゃあ次は――マンションの増えた部屋の話だ」




