理解できない人
「はい!」
手を挙げたのは雪代と――。
「いいスか?」
意外なことに土屋だった。
この手の時に土屋が自己主張するなんて珍しい……っていうか初めてではないだろうか。それほど普段は印象ないんだよな。
せっかくだから言ってもらおう。雪代はいつでも発言してるし。
「じゃあまず土屋おねがい、その次に雪代で」
「いいんスか? 自分は後でも――」
「どっちも言うんだから遠慮せず。さあどうぞ」
土屋はやや緊張した面持ちで、住民たちの様子をうかがいながら口を開いた。
「実は自分……カフェが好きだったんス」
………………マジ?
人は見た目で判断しちゃいけないというけど、でも、しかし、うん。意外だ。意外だ。
「えっ……!」
雪代が驚いた顔をしている。
いやたしかに俺も驚いたけど、さすがにそんな露骨に驚いたら失礼だろう。
「土屋くんもカフェ希望だったの? 奇遇ってやつだね!」
ん?
奇遇?
「雪代もカフェなのか?」
「うん。サービス通販してたら、カフェもあったからね。スタ◯! スタ◯!」
まさかの二人一致だった。
さらに二人だけでなく。
「天音もそれはいい案だと思うわ。もっとも、スタ◯よりもっと落ち着いた個人店みたいなところの方が好みだけど」
天音もだった。
カフェってそんな人気コンテンツだったのか。
「俺はマッサージで体の疲れを取りてぇ! 他にもいるか!?」
そこに久我が乱入してきた。
マッサージよっぽど気に入ったんだな。
「………………って誰もいないのかよ!?」
マッサージ店を作りたいという人はいなかった。悲しいね。
「どうやらカフェの優勢のようだね。土屋くん、カフェいけるよ!」
「嬉しいッス」
マッサージ店案は軽く流れてカフェが作れそうで雪代と土屋がはしゃいでるけど、しかし――。
「別にコーヒーでも紅茶でも通販で頼んで家で飲めばよくない?」
俺がそういった瞬間、空気が凍った。
え? 俺何か言っちゃった?
ちらりと天音の顔色をうかがうと、はぁぁぁぁと大きなため息をこれみよがしについてきた。
「九重くんはそういうと思ったわ。そういう奴よね九重くんは」
「わかってないなあ。これだから九重さんは」
「浅いッス九重さん」
え、なにこれ俺が悪いの?
「あのさあ、飲んでる物だけじゃなくて場の全てが大事なわけ。まあ君にはわからないか」
3人にため息をつかれる上に、他の人までやれやれという表情になっている。なんという屈辱。
しかしそこまで言われると家で飲むのとどれだけ違うかたしかめてやりたくなる。それに、集まった人の反応を見るにカフェ自体は普通に人気ありそうだ。ということは俺達以外の人も利用率が高いイコール儲かるってことだから候補としては有力なのは認めざるをえない。
それに、髪を切るよりコーヒー飲む方が利用頻度も高いだろうし、そういう点でも魅力的か。
「多少不服な言われようだが案としては悪くないか。他には何か意見がある?」
今度静かに手をあげたのは楓だった。
指名すると楓は口を開く。
「ジムはどうでしょう。サービス通販のラインナップにあったんです」
「ジム、そんなものまでサービス通販にあったのか」
「マンションの部屋でやるとなると、ホームジムくらいのもので、機器の数は少ないようですけど。毎日の探索で運動はしてますけど、体をもっと集中的に鍛えたらいいと思うんですよね。先日の探索でも体力の大事さを感じましたし」
想像以上になんでもあるなサービス通販。崩壊前に存在していたような店ならなんでもラインナップに並ぶのかもしれない。
ともあれ鍛えるのはいいな、結局人間体が資本。
最近ひそかに危惧しているのは、マンションの生活が豊かになればなるほど、外での活動頻度が少なくなり、体力も低下していきかねないってことだ。そんな時のためにジムがあってもいい。
「それいいね、うちも賛成! うちはバトルするマホウじゃないからさ、体力が一番の武器にしなきゃいけないし。ねえ土屋」
「はい、いいと思うッス」
なるほど確かに。そういう視点もあるか。
綾瀬みたいに考える人がうちのマンションにいるってことは、自警団の小学校にも同じように考える人がいるってことだ。
戦闘向けじゃないマホウの人もたくさんいるし、そういう人たちが通うならジムも結構需要は多いか。
他の入居者も、「いいんじゃねえかそれ」「昔は会社帰りにジムによっていたんですよ」「もう私も年だから健康のためにジムにもいかなきゃねえ」などと肯定的だ。
カフェとジム、この二つがまずは好感触だな。
他にも何かあるか?
それからしばらく、意見をつのり話し合いをした。
だが結局、最初に出たこの二つが一番良さそうだということになった。202号室まで今第二マンションはあるので、空いているのは3部屋分だが、しかし何かしらのことに部屋を使いたくなる時が来るかもしれないので、1部屋は空き部屋にしておくのがいい。
ということで、カフェとジムの二つを新規開店することになった。
「あ、でも九重さん、開店資金はどうするんですか。MPたくさん必要になりますよね」
思い出したように楓が言ったが、それに関しては問題なしだ。
「そのことなら心配無用、なんのために美容室をこれまでやってきたと思ってるんだ?」
「そうか……そうですね!」
「そう、前に開業した美容室で稼いだMPで、次の店を開業できるんだ」
「すごい……いいサイクルですね」
まさにそのとおり。
美容室でのMPで次の店を開き、その新しい店で稼いだMPでさらに次、このサイクルをまわしていければ新たな負担を限りなく減らせる。
これにて決定だ。
広がった土地と第二マンションの新たな部屋の使い道!
一気にやれることが増えそうだ。
第二マンションもいい感じだし、このサイクルでマンションの進化を加速していこう。




