第6話/燻る火種
「……。私は、一体…。ここは?」
マスラオの意識は浮遊していた。五感はまともに機能していないようだが、隣人の声が聞こえた。
「やぁ、君もきたのか。」
「あなたは?」
「私は室伏。鉄の胎盤のリーダーをやっている。」
一体どういうことだろう。死後の世界だとでも言うのだろうか。
「俺は鬼人のアカ「我は神です「グオォォォォォォオオオオ「不死王です、よろしく「我が名は極限の魔神王。」」」」」
ええい一斉にしゃべるとは。やめていただけないですか?
「室伏。後の説明も頼んだぜ。」
「わかった。」
鬼人から丸投げされているようだ。
「君、名前は?」
「マスラオです。」
「マスラオ。ここは歴史喰いの胃の中だ。我々は消化された。もうできることはない。」
……。は!?
「え、なんでですか?」
「マスラオ、君たちが普通の世界だと思っていたのは、歴史喰いによって作られた【腹成世界】だったんだよ。私達を喰らうために作られた、ね。」
室伏は続けた。
「さしもの歴史喰いだが、私達強力な存在に対しては一体ずつ招いて処分するか、違う階層に置いて討伐するという手法をとっている。つまり…やつは私達が完全に対抗できなくなった時に、一斉に消化を仕掛けてくるだろう。」
「………。それを、それを知っても、私には何もできないのだろう?」
「マスラオ。その時を待つんだ。きっと、君の力は遺されている。強大とされる我々は、歴史を残している。その歴史は反逆の糸口になるだろう。」
1.勇者の心
俺たちはノヴァの誘いに乗って、勇者の心を見にきていた。結晶の洞窟で、青い透明な光が反射している。最深部に辿り着くと、そこには結晶に閉じ込められたノヴァがいた。分体のノヴァが注意する。
「いいか?絶対に結晶を壊すなよ。歴史喰いとはいうが、私が勇者の支援をしていられるのは、この封印のおかげなんだからな。」
「わかったけど、契約はどうやるんだよ。」
「掌を結晶につけて、魔力を浸透させろ。」
わかった。
結晶はひんやりとしていた。ぺた、と手をつけて、魔力を魔法剣の要領で浸透させる。流し続けて分かったが、小さな空洞が空いているらしく、そこから魔力を入れ込めるようだった。
「よし。しばらくそうしていろ。胸のところに紋章が刻まれたら、それで終わりだ。」
5分くらいやっただろうか。堕天使は待ちくたびれているようだった。スレイも見物人としてついてきたが、小さな石に腰掛けている。
胸に違和感。じくじくと痛みが奔る…。先生、これは!?
「胸を見るぞ。…成功だ。これで、念じればおまえも私を使役できるようになった。初回呼び出しの際に契約を行うことになるから、そこは注意してくれ。」
「おす。」
「フッ、次は俺の番だな。」
堕天使も行うようだった。魔法使いなので、魔力に関してはお手のもののよう。3分程度で完了していた。
2.勇者村
翌日。
急いで帰ると言うほどの用事もないので、しばらく勇者村でゆっくりしている。鎧も何もかもぜーんぶ脱いで、布の服暮らしである。
「おーい、お兄ちゃん。」
勇者のベルだ。可愛らしい姿でお兄ちゃんと言ってくるが、年齢は800を超えているらしい。この一族はなんなんだろう。
「なに。」
「マスラオ倒したよね。」
「あーね。」
そういえば、この一族はマスラオから生まれた魔物を狩って、無限若返りしていたわけだ。
この地下世界ヴォルドには、もう魔物はいない。
「マスラオいないとさ、手強い相手いないの。手強い相手いないと、ちょっと落ち着かない。」
!なるほど。もしや、魔物を狩って若返るというよりかは、死を覚悟して若返るというのが正しいのか?
「わかった。相手するよ。」
ルールは1対1、武器防具は支給分だけ、面妖な術の使用はなし。剣術勝負らしい。死にかけたら再生する結界を張って、その中で勝負する。
「いくよー。」
「こいや。」
俺は鉄の剣と鉄の鎧、ベルは皮の鎧と鉄の剣。ベルの方が速度よりのビルドだ。だが、負けない。俺には回転切りがある。回転すれば、背後に回ろうとしても攻撃が当たる。
仕掛けてきたベル。まずは上段だった。多少鍔迫り合って、中段へ。鎧で受ける。鎧ごと切り裂かれた。
「それはないだろ。」
「いや、卑怯なのそっちだし。」
鎧がもうちょい丈夫ならなー。俺の上半身と下半身は別れた。しかし!まだ試合は終わっていない。俺はベルに剣を投擲する。至近距離での投擲だ。避ける手段はないはず。
「…くっ。」
俺の肉を裂くということは、それだけの抵抗を負うということ。抵抗は手から身体に伝わって、動きを鈍くする。ベルは首に直撃を受け、倒れた。
3.勇者村-自宅
俺と堕天使はマスラオ…院長が使っていた住居を貸してもらっていた。再生の結界のおかげで全快したので、体が楽。
「…なぁ、アーサー。気にならないか?」
「何を?」
堕天使は神妙な口ぶりだった。
「ワールドアイテムだよ。ノヴァは、マスラオも鉄の胎盤と同じ括りと言っていた。アイツもアイテムを落としたはずなんだ。」
「昼間、いなかったのはそれを探してたのか?」
肯定する堕天使。しかし、首尾はなかったようだ。マスラオの遺体には、なんのアイテムもなかったと。
「俺はスレイが怪しいと睨んでいる。だが、アイツは今日見なかった。どこにいるんだ?」
見なかった?確かに、俺も姿を見ていない。レーダーみたいなものがあれば、見つけられるかも…。
!俺はアイテムボックスを探した。あった、これ!
「なんだそのタブレット。」
「便利アイテムだよ。」
鉄の胎盤が残したこのタブレット、新機能に【サーチ】があった。使ってみると、画面に地図とマークが表示される。今までに出会った人達はアイコン付きで、そうでないものは灰色のマークで表されていた。
「スレイは…ここから南の…マスラオの居城にいる。」
4.マスラオの居城
「…院長。」
スレイはマスラオの墓標となったこの城で、院長の死を悼んでいた。長い時間を共にした同胞で、一度は死んだと思っても、実は生きていた。
そして、てづから殺した。
手の中のペンダントが光る。
『スレイ、最後にこれを。』
勇者院への襲撃。勇者達を庇い、1人立ち向かった院長。常日頃から身につけていたペンダントを、最後までごねた私にくれたっけ。
『私だと思ってください。私は常に、あなたを思っている。あなたも、これを見て私のことを思ってくださいね。そうしてくれると、少し嬉しいです。』
院長は私を、窓ガラスの外に放り投げた。光属性特有の閃光と共に、マスラオの刺客と院長は結界内に取り残されたのだ。
『ス…スレイ…みんな…お元気、で…。』
最期の時まで、私達を気にかけてくれた。使命に身を蝕まれても、最後まで尊厳を捨てなかった。誇り高い私達の院長。
「………。」
こうして、いつまで経っただろう。すっかり夜になってしまった。そろそろ、うちに帰らないと。外の世界に出るか、この地下世界の探索を進めるか決めなきゃいけない。私たちにはもう、院長はいないんだ。
「………!?」
立ちあがろうとした瞬間、足が絡め取られる。ネバネバとしたドス黒い何かを、月光が照らし出した。
「ま、まさか…マスラオ!?ぐっ、このっ、離れなさい!」
そ、そうだ。ノヴァを…。
「ノヴァ!助けて!ノヴァ!?」
しかし、ノヴァは出て来なかった。寝ているのか!?やめてほしい。
光属性の魔力を放射しても、全然離れる気がない。もう足から肩にまで侵食してきている。こ、このままじゃ…。
「院長…。みんな…っ助け」




