第5話/地下世界ヴォルド
「ああ、これが走馬灯ですか。」
マスラオの視界に溢れたのは、人を殺し尽くす半生ではなかった。
「残念です。歴史喰い。私は私の使命を果たせなかった。」
勇者の目的は、遍く人々を守ること。故に、遍く人々がいなければ、勇者は人にならずに生きれると、そう思っていた。
「まぁ、それも方便ですが。」
マスラオは、地下世界ヴォルドの集大成であった。魔物としての完成作であり、マスラオの意思で自在に変化できる特徴を持ってきた。
「私が死ねば、全ての魔物は…魔物となった子供達は、人に戻る。」
だが、マスラオの頭には疑問が残っていた。
「…しかし、歴史喰い…。」
歴史喰いの、ノヴァ。
「…まぁ、どちらかと言うと、良い傾向でしょうね。不幸中の幸い、とでも言いますか。」
1.マスラオの居城-玉座の間
「…っ!?馬鹿な!?なんですかこれは!」
マスラオの動きが…止まっている?何か球状のものの中に閉じ込められているようだ。
「アーサー、堕天使、スレイ!トドメを!」
「…っはい!」
呆けていたスレイが、再び剣を強く握りしめる。あれはノヴァの能力なのだろう。
「堕天使!アビリティコネクトだ!」
「愚問だなぁ!【連続魔法】!」
【連続魔法】/次に使う魔法を2回連続で使う。以後、戦闘終了時まで、詠唱時間が1.5倍。
大魔法が起動する。
「【血の晩餐】ッ!」
【血の晩餐】/【吸血】×【魔法:連大地杭】のアビリティコネクト。地面から大量に杭を生やし、吸血を行う。
【吸血】/ダメージを与えると、吸血をして追加ダメージを与える。
【魔法:連大地杭】/地属性魔法攻撃。槍を地面から多数生やすことができる。詠唱時間が長いほど、効果範囲が増える。
天井、地面、壁から次々と杭が生え、マスラオを串刺しにしていく。
「ぐわああああっ!?」
(速く…速く出なければ!しかし、いくら身動きしても手と足に触れる感触がない!拡張した無重力空間の中に、私は閉じ込められているのか…!?これでは脱出するにしても手詰まり───。)
「私も続く!───聖剣波ッ!!」
スレイも微力ながら、光属性を伴う斬撃攻撃を飛ばす。
「ぬぐぅっ!?」
「よし。続くぞ!」
俺は剣に込めた魔法剣の魔力をイメージする。【魔法剣:蒼穹】。その能力は、魔力の刃によるリーチの増強だ。ダトムにもらった魔力で伸びる片手剣と同じように、魔力の刃を伸ばすイメージをする。
「…!行くぞォ!!」
伸びるリーチ。成功だ…!大きく振りかぶり、球を切り裂いて、マスラオに目掛け叩きつける!
「うおおおォォォォォ!」
「ぐっ…止めろおおおおおおおお!!!」
一斉攻撃の後、マスラオは事切れた。
マスラオの遺体は、光の粒となって消えていった。
2.地下世界-勇者村
「悪かったな。」
スレイの村への道中、堕天使が声をかけた。
「院長、助けてやれなくて。」
「いいの。いや、助けれたら、よかったけど…。マスラオとして生まれた院長には、使命が刻まれていたようだから。」
「使命…というと、『地上世界を破壊する』だったな。」
「そう。でも、私たちにも使命が刻まれている。勇者としての使命が…。」
「ちょっと待てよ。スレイ。その使命っていうのは、心情的な物ではないのか?」
『使命を刻む』という言い方には違和感を感じる。
「…この世界の大多数の人々には、使命が刻まれている。魔物ですらね。あなたたちもそうだと思う。使命は、軽い重いの違いはあるけど共通点があって───絶対にそれに逆らうことはできないの。」
───。
『異なことを。不滅。絶対の神を神と呼び、神と生きた神代の者を魔神という。』
『神は歴史喰いに喰われ名を消した。』
《 歴史喰いとは? 》
『過去を喰らうもの。我らを喰らうもの。時の流れを呑むもの。有害にして大規模の厄災。』
《 Locked!:ソイツはどこに潜んでいる? 》
《 自動選択:お前を殺す 》
過去の、魔神王と対面した時の記憶が蘇る。あの時だ。俺はもう一方の選択肢を選ぶことができなかった。
歴史喰いは、魔神王を、過去を喰らうものらしい。
「…まさか。」
俺が、いや、俺たちが歴史喰い?今まで散々、修正者として───。
「アーサー。」
ノヴァ…。
いや、そういえば───。
『我を殺す。不滅がか。いや…今は歴史喰いの手駒か。笑止千万。』
……。俺たちは、歴史喰いの味方なのか?
「アーサー、おい!」
「ぬあっ!?ノヴァ、どうしたんだよ。」
「様子がおかしいと思ってな。何か考え事か?私が相談に乗るぞ。」
………。
「ノヴァ、正直に答えてくれないか。なんで、おまえは歴史喰いを名乗っているんだ。」
「……。一度言った。それが全てだ。」
「ノヴァ。歴史喰いは過去や魔神王を喰らうんだ。魔神王は、おまえのことを災害と言っていたし、勇者は、修正者と歴史喰いは相争う定めとも言っていた。でも、おまえの戦いぶりを見る限りは、そこまで危険とも思えない。」
「……。」
ノヴァに違和感こそあったが、協力型のNPCという感じであった。敵という感じはしない。
「答えてくれ。お前はなんなんだ?」
「………。ここは既に、歴史喰いの腹の中だ。」
「は?」
「続けるぞ…。外殻から徐々に溶かされていっている。絶対の神、星の竜、鬼人、不死王、大病、魔神王、鉄の胎盤、最後はここだ。地下世界ヴォルド、最後のワールドボス、それになるのが、マスラオだった。」
「……。」
俺たちは足を止めて聞き入ってしまった。
「アーサー。それを知ったとしても、私たちには使命が刻まれている。勇者も私もお前たちも、使命からは逃れられない。ワールドボスを倒すこと。つまり、彼らの歴史と力を歴史喰いに提供するということからは、決して逃げられない。」
「…。」
ワールドボスを倒すと、その歴史と力が歴史喰いに引き渡される…。俺たちの世界はすでに、歴史喰いの腹の中にある…。
まさか、消化のプロセス?歴史喰いは、喰らったものを咀嚼するために、俺たちにワールドボスを倒させているのか?
「もし、使命から離れたいのであれば、それはこの世界を壊してしまうしかないだろうな。」
「…壊す?この世界を?」
使命には逆らえない。だから、世界を壊すというのはそもそもできないのではないか?
いや…そもそも、世界を壊せば壊すほど、歴史喰いの咀嚼を助けることになるのではないだろうか。
「そうだ。やり方は知らん。勝手に考えてくれ。」
…煮え切らない言い方ではあったが、使命という単語が頭にちらつく。ノヴァは使命に反しないよう、最大限に言葉を選んで俺に道を示してくれているようだった。
「それはどういうことだ?それに、世界を壊すなんて…だったら、マスラオを倒したのは間違いだったんじゃないか?」
「間違いとか言わないでよね。私の仲間は助かるんだから!」
「むぅ…。」
もやつく堕天使。ノヴァは無言を貫いている。俺たちは再び、勇者村に向けて歩き出した。少し時間をかけ、草原や森、湖を抜けた。門を潜って到着する。
「スレイ!無事だったか!」
「ありがとう、スレイ!みんな元に戻ったよ!」
「ロイ!ロブ!みんな無事みたいね。よかった!」
「ねぇ、スレイ。院長は…。」
「…ごめん。」
「いや、いいんだ。スレイのせいじゃない。それより、そこの人たちは?」
「私の事、手伝ってくれたの。」
「俺、アーサーです。」
「我が名は堕天使!」
「ノヴァだ。スレイと契約している。」
契約?
たしかに、ノヴァはスレイの胸の紋章から出てきた。歴史喰いとしての能力とは、別なように思える。
「気になるか?」
「…ああ。」
ノヴァがいつも、俺の考えを先読みしているかの如く間が良いのは、なんでだろう…。
「私は本体ではない。いわば、我が身は分体。その分体を、スレイに貸し与えている。」
「…なるほど。じゃあ、俺にも貸してもらえるか?便利そうだ。」
「【勇者の心】…この村の北の洞穴の中に来い。私の目に適えば、貸してやってもいい。」




