第4話/VSマスラオ-②
「地下世界ヴォルド。ここは遥か地下に作られた、我々人類の理想郷らしいです。」
「天井に穴が空いてるから信じられるけど、そうじゃなかったら信じないね。」
「はは、確かに。ね、穴から出た人はいないんですか?院長。」
院長と呼ばれた男性は、子供達から質問を受けている。勇者院と呼ばれた学舎の、過去の姿。
「いえ、いないそうです。ですがあなた達が大人になれば、わかりませんよ。」
「どういうこと?」
「あなた方は勇者として生まれた。勇者の使命、覚えていますか?みんな。」
「「「あまねく平和をもたらすこと!!」」」
「正解。」
院長は微笑み、拍手した。絶望的に下手な微笑みだったが、皆院長の伝えたいことはわかっているので、盛り上がることで返した。
「あなた方の身体には、平和をもたらすために必要な機能の全てが詰まっている。本来なら…。いえ、やめておきましょう。」
「本来ならってなに?」
「成長したらということです。ところで、いないようですが、ロブは今どこに?」
「ロブなら北の祠に行っちゃった。毎日【勇気の心】にお参りするらしいよ。」
「ああ、そうですか。ありがとう。スレイ。」
1.マスラオの居城-玉座の間
「堕天使、速攻で仕掛けるぞ!」
「了解した!」
【魂装術:第二段階】と、【魂装術:不滅の甲冑】を起動。盾と鎧が具現する。だが、この場面では、盾より剣。土壇場で幸運なことに、剣への変形にさほど時間はかからなかった。
【魂装術:第二形態】/武器生成。特殊な組成の武器を作り出す。使用すると、一定ダメージを受けるまで解除されない。攻撃、敏捷を3倍する。
【魂装術:不滅の甲冑】/【不滅】の上位互換スキル。【不滅の魔神王】の力を解放し、自分が受けるダメージ量の80%をカットする鎧を生成する。発動後、死ぬまで有効。
また、【魔法剣】を起動。4大属性、炎水地雷と、対極属性の光と闇は掛け合わせることができる。直感で光と炎を選択する。
【魔法剣:炎熱】/発動時、武器に炎属性を宿す。一定時間有効。
【魔法剣:蒼穹】/発動時、武器に沿って魔力の刃を形成する。一定時間有効。
【魔法剣:煌撃】/発動時、武器に光属性を宿す。闇属性の敵に対しては、ダメージが上がる。一定時間有効。
属性を付与すると、筋力による斬撃ダメージとは別に、魔力による属性ダメージも入れることができる。(ダメージ倍率は通常攻撃の15%程度)その上、攻撃を当て続けると状態異常にかけることもできるのだ。
最後にスキルアビリティ、光陰正視をセットすることで、反射神経を補強する。これが、俺にできる最大限の自己バフだ。
【光陰正視】/自身の俊敏値を1.2 倍、動体視力、思考速度を5倍にする。
「大仰な準備ですねぇッ!」
「お眼鏡に叶うだろうなッ!」
マスラオは四方八方飛んで跳ねている。勢力としては4対1。スレイの手役はわかっていそうだが、俺、堕天使、ノヴァについては詳細不明だろう。攻撃を仕掛けないということは、様子を見た上で各個対応するつもりなのだろうか。
「アーサー、堕天使!合わせるから仕掛けてくれ!」
ノヴァの号令が入るか入らないかの間に、堕天使が攻撃を仕掛ける。魔法の詠唱をしていたのだ。
「【高速詠唱】!【魔法:連大地杭】ッ!!」
【高速詠唱】/戦闘中、呪文を発動する際に必要な事前詠唱時間を1/4する。
【魔法:連大地杭】/地属性魔法攻撃。槍を地面から多数生やすことができる。詠唱時間が長いほど、効果範囲が増える。
マスラオ側の足場や天井から、杭が飛び出す───堕天使の吸血鬼ムーブを支える杭攻撃だ。だが、らでは終わらない。
「【集中魔法】!」
【集中魔法】/次に使用する魔法の範囲は、一点に凝縮される。
「終わりにする…!【連続魔法】!【魔法:吸血蝙蝠】ッ!」
【連続魔法】/次に使う魔法を2回連続で使う。以後、戦闘終了時まで、詠唱時間が1.5倍。
【魔法:吸血蝙蝠】/追尾する吸血蝙蝠を発射する。蝙蝠は、命中した部分から吸血を行う。
それはまるで、漆黒の槍。遠景に見える電線のような、細い黒だった。だが、黒は力強く背景に滲んでいる。避けようと行動を起こすマスラオ、しかし地面も壁も天井も、杭に囲まれている。ダメージを覚悟していないわけではないが、杭に刺さることで移動速度が損なわれると、回避は困難だ。
「驚きました。ここまでの使い手が───ぐ。」
マスラオは驚く。堕天使の剣先から出る黒い槍は、マスラオの体を捉えていなかったはず。だが、あくまでもこの魔法は蝙蝠を召喚するというもの。槍はマスラオに飲み込まれるように曲線を描いた。
着地するマスラオ。こちらの方を見る。手と足には杭が深々と刺さっていた。おそらくはこちらに突撃するだろう。
「決めろ、アーサー!」
─── 【剛撃】×【衝撃波】
跳躍、アビリティコネクトを起動する。
「出し惜しみはしません…!」
マスラオは瘴気を身に纏い、身体を活性化する。筋肉はさらに異形に、体躯は巨体へ。角は太く鋭くなり、追加で4つの足と腕を獲得して、破城形態に移行した。
ロケットブーストを思わせる蹴りで加速する。杭のためか、多少速度は遅くなるが、特に問題ない。超質量の体当たり───ここは室内だ。逃げ場はない!
「【撃滅衝波】。」
【撃滅衝波】/【剛撃】×【衝撃波】のアビリティコネクト。次の攻撃の際、筋力値の3倍のダメージを与える衝撃波を放つ。
逃げ場がないのは、どちらも同じことだ。
アーサーの一撃の方が速い。先に準備していた分の差だ。マスラオの眼前より、光と炎が視界を焼き、身体を焼き、その魂を燃やす。燃やし尽くして破壊する───!
「───まじかよ。」
マスラオ、上半身半壊、下半身全損。ただし───角と牙は維持。欠けはあるが、一撃で滅ぼすには届かなかった。勢いは止まらない。吸血の槍が、マスラオの体液を全て吸い取ったとしても。
スローモーションの世界で思考する。堕天使は光陰正視を取得していない。そのため対応できない。
「ノヴァ!スレイ!逃げろ───!」
この場面、アーサーは不滅の甲冑の効果で生き残れる。しかし、ノヴァやスレイはどうだ?たとえマスラオを倒したとしても、スレイが死んでしまったら、このイベントは進まないのではなかろうか。死なせるわけには行かなかったのに、配慮が足りなかった。
ああ無情。アーサーは吹っ飛ばされた。
───ときに、勇者と同じ戦場にいる者は、その加護を受けることができる。
『我らこそ、世界を守る守護者!この世界に仇なす者を───破壊するのだ!』
『うおおおおおおッ!!』
加護により、過去、攻略組は防御力のみならず、攻撃速度も大きく上昇していた。
スレイには勇者たる資格がない。
スレイは未だ、勇者候補であった。
この未曾有の危機に至っても、その力は覚醒の兆しを見せない。
(…ああ、もう。)
煮え切らない。リーダーのように振る舞い、2人の魔神王に戦闘を押し付けて、それで、心配をかけて。
それが勇者なのか?お荷物じゃないか。力も足りない、考えも足りない。
───でも、多分、マスラオはアーサー達に討伐される。
そうだ。
間違ってなんかいない。仲間達が魔物になるのを、もう見なくて済む。魔物となった仲間達と、殺し合わなくていい。
マスラオも、私も死ぬ。ノヴァはきっと死なないだろう。彼はきっと、生き残る。なぜなら…。
───なぜ、なら?
「やれやれ。世話が焼けるようだ。」
歴史喰いのノヴァの能力が発動する。
「『我が目的は、共存。始まりの修正者として、遍く孤独に別れを告げよう。』」
時が止まったようだった。ノヴァだけが動いている。大地が震え出す。
「『楽園の門を作ろう。ここに悲劇はない。多層世界の創世は易き事。』」
マスラオの周りに岩石がまとわりつく。まるで、地下世界と地上世界を隔てる壁のように、7層、折り重なっていく。
「『天地創世・八界球』。」




