第3話/VSマスラオ
「やぁ、マスラオ。おまえに使命を与えよう。」
「何者だ?…いや、なんでもいい。俺は…俺はなんなんだ?なぜ、俺は人じゃないんだ。」
マスラオの体躯は、人と言うには大きすぎた。四足動物の如く這いつくばい、飛蝗のように動く。皮膚は赤く染まり、頭からは角が高々と飛び出していた。
「絶対の神と魔神の世界。しかし、その歴史は私が喰らった。君は本来、修正者が構築した天界世界を打ち破り、地下世界に真の光をもたらす存在なのだ。」
「俺の記憶が、消されているのか?」
「歴史喰いの手によれば、易き事だ。ただ、不本意ではある。決して悪意を持って行ったわけじゃない。おまえは、私の心強い味方だったのだから。」
「…おまえは、何の話をしにきたんだ?」
決まっているだろう。マスラオ、おまえに使命を与える。魔物の権化として、あるべき歴史を取り戻せ。
1.地下世界-森林
「わかった。それじゃあ、マスラオを倒しに行こう。」
「アーサー。いいのか?」
堕天使はもっと問い詰めたいようだ。無理もない。歴史喰いは、『極限の魔神王』と、鉄の胎盤対戦時に【勇者】が出した名だ。正体は未だ分からずじまい。こうして目の前にいても、詳細を見抜くことは叶わない。
「マスラオを倒した後だ。全ては。」
しかし、それら全ての印象は伝聞でしかない。ノヴァが歴史喰いなのかという証明は未だ、明かされていないのだ。であれば、俺たちは余計な寄り道をすべきではない。スレイも時間は惜しいはずだ。
「ありがとう。修正者。いくぞ、スレイ。」
「ええ。堕天使、アーサー。スピードを上げるわよ!」
俺たちは駆け出した。
2.地下世界-マスラオの居城
森を抜け、山を登り、そこから海を渡った孤島にマスラオがいるらしい。実際に城も見えている。あと、2.3分で到着するだろう。
「おそらく、私たちがここを狙っていることはマスラオにもわかるはず。彼は魔神王にはとにかく敏感だから。増援がいずれこちらに来るはず!短期決戦を心がけて!」
「わかった。」
「了解だ。」
3.マスラオの居城-玉座の間
「無防備にマスラオの瘴気に触れた人間や動物は、魔物に変わってしまう。でも、魔神王なら大丈夫なはず。私やノヴァは多少耐えられるけど、長くはないわ。」
「了解だ。」
マスラオ。何もわからないが、とりあえず頼まれたから、お前を倒す。今が好機みたいだし。
「よし…。アーサー、堕天使、ノヴァ。いくわよ!」
「ふん。」
「ああ!」
頼りになるかどうかもわからん仲間達と共に、おそらくラスボス戦だ。道中は苦戦しなかったが、果たして。
「速攻でケリをつける。」
扉を開き、玉座を見ると…そこには赤鬼と飛蝗が混合したような巨躯の生命体が存在した。目は赤く光り、口は大きく開いている。理性などなさそうである。
「どうも、いらっしゃいませ。」
は。
「ああ、この見た目でこう喋るのは、おかしいですか?ですがね、いつもはこのような姿ではなく、もっと気品があるのですよ。」
赤い鬼の化け物が丁寧に話し出したのは、予想外だった。スレイやノヴァも固まっていた。
「その声…いや…まさか、院長!?」
おい、院長って誰だよ。
「大きくなりましたね…スレイ。申し遅れました。私はマスラオ。進化の権化。魔の到達点。」
「アーサー、堕天使、戦闘やめ!」
まずしてないよ。瘴気は…出ていない。話を聞く余裕はありそうだ。
「?戦わないのですか?」
「院長は、私たち勇者を育ててくれた…。五年前、マスラオの襲撃で勇者院は破壊され、貴方も喰われたと思っていた。でも、私の目ならわかる。院長の魂が、マスラオの中に存在していることが…!」
「ああ、なるほど…。しかし、スレイ。マスラオとは、私自身なのですよ。」
「…え?」
「マスラオは進化の魔獣。完成と安定がない代わりに、変化だけは容易い。人間に化けて、あなた方地下世界人類の調査を行っていたのです。」
「ちょっと待って欲しい。スレイは1000年前からずっとマスラオと戦ってきたんだろ?今になって気づくのは遅くないか。」
「当然です。本体にしか、人格機能は搭載されていません。マスラオとしての私とスレイは今日が初対面です。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。まだ聞きたいことはありますか?」
「では、この堕天使からも一つ。なぜ勇者は1000年間も生きることができる?」
「スレイ、答えてあげなさい。」
「筋肉は、破壊と再生を繰り返して強靭になる。勇者は敵を倒し、喰らうことで…身体を破壊し、生まれ直すように再生する。だから、戦って勝ってさえいれば不老なのよ。」
「…では、もう一つ。その言葉が本当ならば、マスラオと勇者達は共生関係に思える。無限に湧くマスラオを殺すことで、勇者は生きながらえているのだろう?」
「いえ、それは明確に違います。なぜならば、私マスラオの目的は、天井を破壊し、封印を解除して、あるべき神と魔神の歴史を取り返すこと。」
「…スレイ。聞いてもいいか。なんでマスラオとスレイ達は敵対しているんだ?別に、おまえたち勇者からすれば、天井の先なんて関係ないだろ。」
疑問が発露した。もう俺たちは戦えない。何もわからないからだ。何も分かってないのに戦うことは、間違っている。
「人間が皆殺しにされるのよ?わかってる?天井が破壊されるとは、そういうこと。」
「なんで勇者は人間なんか守るんだよ。人間は天井の世界で平和に生きてるだけだ。おまえたちを助けるような行動なんて、一つもしちゃいない。勇者はマスラオと共生できるはずなのに、人間がお前たちの決断を引っ張っているんじゃないのか?」
世界を守る。言うことは容易いが、無関係の他者を守ることに何の意味があるというのか。世界がひっそりと守られたとして、守られた側は感謝すらしないだろう。そもそも、自分たちの危機であれば、自分達で解決するのが筋ではないのか?
「そこまで言うことはない筈だ。アーサー。」
今まで黙っていたノヴァが話し出した。
「ノヴァ。お前は歴史喰いだろ?俺たちは修正者だ。お前は俺の敵なんだろ。何か言ってみろよ。」
「私がおまえの敵であるかは別の話だ。…おまえに家族はいるのか?」
「何を…。」
「家族が地上にいれば、愛を受けたことがあれば、そのような台詞を吐くことはないだろう。おまえはあまりにも、命に対して無関心すぎる。」
確かにそうだ。俺を普通の人類として考えれば、地上で育ってきたはずだ。俺はこの世界をゲームのつもりで考えていたが、ここの住民にとっては、ここが現実世界なのだ。
「ごめん…。」
「別に、怒ったつもりではない。さぁ、マスラオ、覚悟を決めろ。時間稼ぎのつもりだろうが、増援は来ていないぞ。」
場が再度緊張する。だが、最後にスレイに問わなければならない。
「スレイ。お前は院長を切れるのか?」
この世界は、スレイ達にとっての現実世界だ。俺たちは部外者。あくまでゲームプレイヤー。立場や感情が異なる。1000年も前から繋がりがあったのだ。殺せるのか?
「さて、ね。」
スレイは剣を構えた。
「言葉で語るのは、無粋。たとえ院長だとしても…それが仲間を守るためなら。あなたが殺しの魔物だというのなら、私は勇者として滅するだけ!」
聖なる魔力が白い光となって溢れ出ている。その姿はかつて、魔神王に立ち向かった勇者の姿に似ていた。
「それがはじまりの修正者から言い渡された、私の使命!」
「…よろしい。では、始めましょう。」
対して、マスラオの身体から闇属性の瘴気が溢れ出る。人を魔に変貌させる、暗黒の霧。大穴の闇を一身に背負い、立つ。
「私はこの世界を背負う者。天界世界を剥奪し、魔神と神の世紀を取り戻す。…スレイ。残念ですが、お別れです!」




