第2話/地下世界へ!
1000年前、鉄の胎盤はやっとのこと、この世界にたどり着いた。実際のところは出戻りである。1000年前に旅立った世界に戻ってきたのだ。だが、星は孤独ではなかった。旅立つ際に環境を自動で作成するプログラムを起動していたのが仇になった。その世界には、室伏たち宇宙開拓団の住処はなかった。
座して死を待つ室伏たち。無理な開拓行動を行う気はなかった。もう星を手放した開拓団には、ここで生きる権利がないと思ったのだろう。
だが、彼らに話しかける者がいた。彼は自分を修正者と名乗った。鉄の胎盤のセキュリティをすり抜けて歩み寄る。
「私の名は、修正者。哀れなる者たちよ。行き場がないおまえに、世界を用意しよう。」
「何を言っている?」
「歴史を喰らう。我々が成り代わるには、それが必要だ…。聖なる歴史は魔の歴史へ、我々は天に立つ。」
鉄の胎盤が浮上していく。大地が空へと上がっていく。
「お、おい…これは何が起こっている?おまえは何が目的なのだ。」
「知れたこと。───共存だ。しかし、この世界は狭すぎる。…私は、1人の犠牲者も出さん。これが完璧な計画だ。」
「…!」
もう一つの大地が、天に形成されようとしていた。
「待て!原生生物達はどうなる!」
「太陽は用意する。案ずることはない。」
その言葉には説得力があった。その後、修正者は続ける。
「いつになるかわからないが、未来。私と同じ修正者が現れる。彼らには使命がある。歴史喰い。奴を倒すことだ。奴は狡猾だ。私がいる時間から逃げ去った。」
「歴史喰い?」
「彼ら修正者に、協力して欲しい。だが、心せよ。修正者の中に、歴史喰いは潜んでいる。」
1.魔界-暗黒の大穴
「ここがそうなのか?」
「うん。」
「ふむ、初めて来たぞ。」
魔界を走り抜け、壁を壊し、洞窟を抜け、とにかく下へ下へと潜っていたら、地底湖の隣にこの大穴があった。深く、暗い。周りは光る苔で割と明るいのに、この大穴だけアンバランスに漆黒だ。
「で、どうすればいいんだよ。ここに入るのか?」
「うん。」
しゅばっ。あっさりとスレイは大穴に飛び込んだ。俺たちも続くことにする。
2.暗黒の大穴-底部
「おいおい、5分ぐらい落下し続けてるぞ。」
「翼持ちでなければ、着いた瞬間即死だな。」
「もうすぐよ。」
しっかし、なんなんだ?この大穴は…。人工的に作らないと、まずできないだろう。あと、生物の気配は全然無い。そうこう考えているうちに、底が見えてきた。
「明るっ。」
「光源!?」
「私達の世界にも、太陽があるの。」
驚いた。まさか、魔界の底にも魔界のような世界があったとは。それも、魔界とは違って太陽のような暖かな光を感じる。俺と堕天使は翼を広げ、スレイは魔法で浮遊した。着地に成功した俺たち。
あえて地上と呼ぶが、この地上は非常に豊かな緑があり、化け物とは無縁そうであった。とても平和そうなのは何か理由がありそうだ。
「スレイ。ここからどうするんだ?化け物とやらを倒すんだろ?」
「うん。まずは化け物達の王を倒しに行く。」
「小娘、何を言っているんだ?もっと工程を挟むべきではないか?」
「殿部隊を叩いている化け物の補給源は、化け物の王マスラオ。奴を倒さない限り、勝利は訪れない。殿部隊が気を引いている内は、マスラオのガードが薄くなる。仕掛けるには今しかない。」
最もな発言だった。彼女の言葉を信じるのであれば、今の状況は好機かもしれない。
「仲間と共に形勢を盛り返した後、複数人でかかるのはどうなんだ?俺たち2人を足したら化け物…マスラオに敵うのか?」
「そうだ。アーサーの言う通り。自慢ではないが、俺たちには力がない。」
「魔神王なんでしょう。あなた達。私の眼には、そう言った能力を暴くことができる。」
「魔神王なら勝てるのか?」
「魔神王はマスラオの瘴気を無効にできる。私たち【勇者】はいずれ理性を失い、魔獣と化すけれど、あなた達なら対抗できるわ。」
相当違和感があるが、論理的には正しい。初めからスレイは『人間かつ魔神王の者』を探していたわけだ。『人間』の理由は、協力してくれる理性を持ち合わせている可能性が高いから、『魔神王』の理由はマスラオに勝算があるから。
「娘。なぜ、そのような情報を知っている。」
「…。今、呼び出すわ。出てきて。」
スレイの胸に紋章が浮かぶ。魔法陣のようであった。そこから、仮面を被った軽装の男が現れる。
「何を呼び出した?」
「挨拶して、ノヴァ。」
ノヴァと呼ばれた男は、仰々しく一礼して話し出した。
「私…いや、私達の名は、歴史喰い。神の名を奪い、過去を喰らうもの。私は、歴史喰いのノヴァ。」
修正者と歴史喰いの因縁が、この地下世界で紡がれる───。
「修正者よ、歓迎しよう。私が情報源だ。魔神王という存在自体が、マスラオに対抗するために作られた物だったのだ。900年前に起きた闘争。地下世界が天を征服せんと仕掛けた大戦争は、まだ終わっていない。」
「…ノヴァと言ったな。歴史喰いという名前に、意味はあるのか?」
「人間という名が霊長を目指し、いずれ全てを支配しようとする動物の名を意味するように、私たちも歴史喰いを名乗る。それだけだ。」