第1話/ギルド大乱
二つのワールドボス、【鉄の胎盤】、【魔神王】が討伐されてから1週間が経った。このワールドボス達の対処に当たっていた攻略組は完全に崩壊し、世界は群雄割拠の様相を呈している。
特に、攻略ギルド【夜の剣】、対戦ギルド【コロシアム連合】、そして、ザスターのギルド【星の会】が目立って活躍をしていた。リソースをより盤石にするため、略奪を厭わない。
この地獄のような世界で、主人公のアーサーはと言うと───。
1.魔界-魔族軍本部
「やれやれ、また被害を食い止めることができなかった。」
ミハルとテスタロスの戦いに介入しようとしていた魔神王は、アーサーだったのである。深いため息をつくアーサー。
「ただいまー。」
アーサーは今、旧知の仲である魔物プレイヤーと共に活動している。魔族軍本部の部屋を貸し出して貰ったのだ。部屋の扉を開ける。
「おかえりー。」
「今日は堕天使だけか。他のみんなは?」
「わかんね。ここには来てないよ。」
堕天使はワインを呑みながら新聞を読んでいる。
「アーサーは治安維持活動?」
「今日も無視された。もう辛い。」
「大変だねー。」
「ナイトのロールプレイの一環さ。」
新聞を覗き込むと、世界では様々なことが起こっているようだった。ナイトケでの人造魔物実験の成功や、ジオマの『壊し屋』による破壊事件などが書かれている。著者は…サラのようだ。
「サラもよくやるな。」
「知り合い?」
「魔神王の時に俺の隣にいた人。」
「あーね。」
徒然と会話しつつ、俺は当初の目的を達成しようと動き出した。ここに来たのは、堕天使とだらだらするためじゃない。魂装術の修行だ。
「はぁっ!」
「うるさ。」
【魂装術:形状変形】。
これは【魂装術:第二形態】で作った武器や防具を自由自在に変形できるスキルアビリティだ。が、微々たるものではあるが、このスキルを使わなくても、【魂装】が関わるものは自分の意思で変形することができる。俺はこれを究めるべく、修行していたのだ。
「なに、盾を構えてるだけじゃん。」
「これから変形させんの!」
「は?」
「ぬおふっ!」
ぬぬぬ。イメージを込めて、強く念じる。時間はかかるが、変化するのだ。盾は大剣へと変わった。堕天使は目を丸くする。
「なにそれ!すごいな。」
「これがね、世界を変える。」
「やるぅ〜。俺もできる?」
「やってみな。」
堕天使は吸血鬼。冠する魔神名は【深淵の魔神王】。魔物プレイヤーは系統別に、【魔神王の魂】から授かる能力が変化するらしい。堕天使は槍を作り出し、強く念じた。
「剣になれ〜。剣になれ〜。」
しかし、この方法だとまだ実用的ではないな。できれば、俺の身体が動くよりも早く魂装を変化させたいところだ。今の状態では、遅すぎる上に意識も割かれすぎる。
「ぐぬぬ…。なぁアーサー。なんでこんなの気付けたんだ?」
「ああ。それはあの戦いの後、ザスターが言ってたんだけどね…。」
彼は魔神王討伐後は颯爽と手勢とともに去ってしまったが、一つ俺にかける言葉があった。
『アーサー君。君の活躍に免じて、特別な情報をあげよう。』
『なんなん?』
『アビリティジェムはNPCのアイテム屋とかで買えるからバンバン使いたまえ。あと、魂装は我々の体に備わっている基礎機能だ。我々が魔法を放つときに使っているものが、魂装なのだよ。身体は魂装を常に鎧のように纏っている。うまくやれば、魂装を剣に変化できる。今君はきっと魂装術に関するスキルアビリティを手に入れたはずだが、それがなくても基本的にできることばかりなので、試してほしい。ついでに、鉄の胎盤が落としたワールドアイテムは今どうなっている?』
『今取り出しますね…。ん。なんだろ、色々機能が増えてる…。』
『おそらく、ワールドボスが倒されるまでは機能が解放されないのだろう。おめでとう。鉄の胎盤が機能を消失することで、正式にそのタブレットは君にドロップされた。』
『…。なるほど。そういう。でもこのタブレットは、一つしかなかった。魔神王の魂は全員に配布されたのに…。』
『原則、ワールドボスが落とすワールドアイテムは一つなのだよ。【魔神王】が異端なのだ。だが、おそらくそれは、プレイヤー全員が魔神王のスキルを獲得できるような調整なのだろう。』
『…そういえば、魔神王はどうやって発生したんです?』
「いや、長すぎるだろ。」
「ザスターの話は長くなんだよ。」
堕天使は既に剣への変形を成功させていた。なかなか様になっている。ヴァンパイアといえば剣である。
「面白いなこれ。」
どんどん。
ノックの音が響く。誰かが部屋に入ってきた。PvPやタイト、ドラフォイでもない。女の子だ。銀髪をポニーテールにした、軽装の女剣士。何か焦っている様子。
「…?貴様、何だ?ここは魔界だぞ。」
堕天使は貴族ムーブに戻っている。確かに妙だ。俺みたいな人魔混合兵でもなければ、基本魔界ではまともに過ごせないはずだ。魔界の魔物NPCに襲われるから。
「匿って。」
「別にいいけど、なんでこの部屋に来たんだ?この部屋に辿り着くには、受付を通る必要がある。ここは匿ってくれるような施設じゃないとは、わかるはずだ。」
ここはあくまで軍司令部である。不法侵入者であるならば、突っぱねなければならない。
「私には人の気配がわかる。これでも勇者。千年の時をずっと深淵で過ごしてきた。でも、もうダメ、押し止められない。あなたが人間であるなら、協力してもらえると思った。」
「おい、娘。支離滅裂だぞ。取り繕わなくていいから、自分の立場と目的を簡潔に示せ。」
「私は勇者スレイ。1000年前に生まれてから、勇者としてこの地域に存在する大穴の中に篭って、底から這い上がろうとする化け物を狩って来たの。でも、先日負けてしまった。仲間の勇者が殿になって残ってくれてるけど、多分限界。あの化け物は人間を皆殺しにしようと這い上がるはず。化け物を倒すのに協力して!」
電波なことをいう女の子だと思った。ただ、室伏の件もあるので、多少は信じるに値する。
「いいよ。」
「おい、アーサー…。」
「俺は喋るNPCを知ってる。多分、自律行動ができるように設定されてるんだろう。」
「…。」
「面白そうだ。」
スレイとやらについて行くことにする。だが、この時俺は思いもよらなかった。もう、この時点で、この物語は終わりを迎えていたことを。
俺たちが立ち向かわなくちゃならない破滅の、その大きさを。




