プロローグ/終わらない破滅へ!
ビクトリア運営本社では、ある議論が行われていた。彼らがモットーとするのは、【現実を超えたゲーム作り】。今回も例に漏れず、運営方針についての議論が行われる。
「【NPCの自律性】の解禁はいつなんですか?私としては、もう行った方が良いと思います。」
「根拠は何があるのか?」
「そちらこそ、根拠を提示してもらいたいです!NPCの自律性を謳い文句にした【アルフレルドオンライン】や、【バカマスター】は大ヒットしてるじゃないですか!」
【ビクトリア】では、NPCは正しくNPC。しかし、実のところ、自律用のルーチンはもう組み上がっている。いつでもNPCの自律性は解禁可能なのだ。
「ワールドボスの攻略も記念すべき1体目を記録しました。これを機に、全NPCの自律化を!」
悪くない手だ。
自律する現地人と交流するというのは、プレイヤーのロールプレイに多大な影響を与える。没入感がはっきりと違うのだ。だが、それができない理由があった。
「…できない。」
「…。」
「だが、君に免じて…NPCの中から好きなグループに自律性を与えよう。」
バゼリ、ジオマ、ナイトケ、ザマル、そして魔界。
運営の三橋が選んだのは───。
1.バゼリ王国-首都エノワ
ああ無情。その言葉が当てはまるような惨状だった。攻略組が全ての財産、ステータス、スキルを賭けてまで、自己を顧みず勇敢にワールドボスを打ち倒したというのに、その結果がこの惨状だ。2人のプレイヤーが街を舞台に争い合っている。
「魂装術…厄介だな!」
「さっさと負けを認めろォ!」
【魂装術】。正式に【魔神王の魂】を得たプレイヤーに与えられるスキル。性能は職業ごとに別れる。蛮族であれば巨大な斧に、ナイトであれば鎧と盾になる。
「理解できない…。どうして街を襲うんだ!」
剣士のプレイヤー、ミハルが叫ぶ。相対する斧使いのテスタロスは吠えた。
「街じゃねぇよ。おまえら【夜の剣】を皆殺しにするために襲ってんだろうよ…!」
敵対するギルド、【コロシアム連合】vs【夜の剣】の戦いのようだ。魔神王達の戦いは熾烈を極める。
【魂装術:第二形態】/武器生成。特殊な組成の武器を作り出す。使用すると、一定ダメージを受けるまで解除されない。攻撃、敏捷を3倍する。
【魂装術:屍魂吸収】/キルした相手に発動できる。相手のレベルとスキルアビリティを抹消し、その分の経験値をプレイヤーが得る。
魔神王の戦いでは以上2つのスキルアビリティが使われる。破壊規模が大きい上に、負けたらレベルとスキルアビリティが抹消され、レベル1からのスタートになる。彼らの戦いでは、絶滅戦争が起きやすい。
「やれやれ。この惨状…見逃せないな。」
魔神王がもう1人介入する。翠緑の鎧と大盾を身に纏い、全身からは炎のように青いオーラが燃え盛る。
【魂装術:不滅の甲冑】/【不滅】の上位互換スキル。【不滅の魔神王】の力を解放し、自分が受けるダメージ量の80%をカットする鎧を生成する。発動後、死ぬまで有効。
「おい。」
「うぉらぁぁぁぁっ!!!」
「だっしゃあぁぁあああ!!」
介入者の声を無視して、魔神王は争い合う。お互いに職業【蛮族】+【魔神王の魂】経由で手に入れられるスキル、【狂乱】を発動させ、防御力半減と引き換えに、ダメージを10倍する。
「おい!!!」
「死ねやぁぁぁぁあっ!!!」
「これで、終わりだぁぁぁっ!!」
介入者が割って入って行けない中、斧と斧がカチあい、とんでもない衝撃波が発生する。人間の身体が吹き飛ぶ突風。それも、時速120kmで、だ。
「やめようね!!?」
暴風で飛ばされないよう、盾を地面に刺し、必死に掴む介入者。ミハルとテスタロスは何合もの剣戟を超えて、お互いに拮抗を悟る。両者同時に、決め技である【魂装術:第三形態】を切る。
世界が揺らぎ、テクスチャが塗り替えられる。お互いの心象風景が投影され、拮抗する。介入者は介入を諦めた。
【魂装術:第三形態】/自己の領域結界を任意の半径で発生させる。領域内では、ありとあらゆるスキルアビリティの同時発動が可能となる。
ミハルとテスタロスはお互い斧を構え、大地を踏み締めた。互いが同レベルの使い手とわかった以上、次の手も読める。アビリティコネクトだろう。
第三形態では、全てのスキルの同時発動が可能となる。それを利用して、一撃に全てを込める…!
「…やるじゃねぇか。だが、これで終いだ。」
【光陰正視】/自身の俊敏値を1.2 倍、動体視力、思考速度を5倍にする。
【瞬間強化】/自身が強化したい数値を、一定時間(8秒)の間、3倍にする。使用後、1分間のクールダウンが必要。
【狂乱】/狂乱の魔神王の力を解放し、防御値が半減する。与えるダメージが10倍される。
「…やることは同じみたいだな。」
「そうか?…よく考えろよ?」
二人は地を踏みしめる。
駆け出す。
「「【斬界討滅】ッ!」」
【斬界討滅】/【剛撃】×【轟撃】のアビリティコネクト。次の攻撃の際、筋力値が40倍される。
【剛撃】/攻撃の際、筋力値が1.5倍される。
【轟撃】/攻撃の際、筋力値が2.5倍される。
ここまでくれば、後は野となれ山となれ。
ミハルは俊敏、テスタロスは筋力値を瞬間強化。テスタロスの一撃を見切り、高速で近づくミハルだが、違和感に気づく───。
(初めから、俺を狙っていない!?)
テスタロスは初めから予見していた。避けて背後から刺せれば、それが一番楽だ。だからこその、先手。
「回転切りだよ。」
【衝撃波】/前方にダメージを与える衝撃波を放つ。
放たれた衝撃波とミハルの斧がカチ合う。テスタロスの瞬間強化で強化された衝撃波は、ミハルの斧を弾き飛ばした。
「貰うぜ、その魂…!」
ミハルは黙ったまま、動かない。ブレイクスタンが入ったのだろう。
ブレイクスタン/自身の全ステータスの合算から、200倍の数値のダメージをガードした場合、1秒間行動速度が半減する
ブレイクスタンは【蛮族】同士の戦闘でもなければ軽々と出せないため、認知度も低い。コロシアム通いの対人勢でもなければ、ここで詰みだ。
違和感。
しかし、もうできることはない。
「【臨戦、強化】。」
【臨戦強化】/【瞬間強化】×【光陰正視】のアビリティコネクト。一定時間、筋力、俊敏を3倍し、動体視力を戦闘する敵に合わせて補正する。
突風。
ミハルの姿が目の前から消え去る。
(まさか。)
斧が弾き飛ばされたのは、ブレイクスタンが入ったのは全て───あの時、アビリティコネクトを使っていなかったからか!
「テスタロス。」
高速で時を駆け、ミハルは敵の首を切り裂いた。
「ブラフ、か、この───。」
「テスタロス、お前は強かった。」
「…。」
「またやろう。」
屍魂吸収が発動する。紫のオーラがテスタロスを包み込み、その技能と経験の積み立てを奪っていく…。
「ぐっ、ぐあああああああ!!」
「這い上がってこい。」
苦しみ、悶えながらミハルを睨むが、力が抜ける。テスタロスは敗北した。




