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エピローグ 終わる世界

1.最果て-魔神王の深域(ニブルヘイム)-拍動地


 魔神王の拳がアーサーを殴りつけた。山を崩すダイナマイトのエネルギーを、針の一点のみに集中させたような一撃だった。アーサーは地面に叩きつけられる。ピンと張られた背筋は粉砕され、身体は這いつくばって地面と一体化した。


(まだ…耐えれる。)


 意外なことにアーサーは耐えていた。地面が土で、アーサーが【ナイト】であり、耐久力のステータスが高かった、【不滅】によってダメージがカットされていたなどの様々な要因があるが、アーサーは五体を保っていた。


 しかしそれは、一撃のみの話。もう魔神王はアーサーに追いついたのだ。


【 ───終わらせるぞ。 】


 1、2、3、4、5…。

 時計の秒針より少し速いリズムで拳打は行われる。6発で骨が砕け始め、15発で肋骨が身体から突き出て血が出始めた。


「まずい…。アーサー君が死ぬ。魔力風をなんとかする手段はあるか?」


「補助魔法をかけた近接部隊による攻撃が有効だと思われます!」


「でかした!部隊はもう出発したのか?」


「もちろんです!」


 ザスターお抱えの近接部隊、主力6070名の内、1200名が【臨戦強化】を発動して魔神王へと殴りかかった。

 彼らは、数百名の【黒魔術師】と【司祭】によって多種多様な強化をされている。魔力風の中でも一定時間、五体を保って魔神王を掘削する。


 魔神王は彼らによって両足を切断されようとしていた。しかし、寸前にて気づき転がる。足を切ろうと接近していた近接職は肉塊となって飛び散った。

 87名死亡。増員100名。味方を巻き込む規模になってしまうため、最大火力での魔法砲撃はできない。ダメージ稼ぎとしては、近接部隊の働きに全てを委ねることになる。近接部隊は前200、後約1000で部隊を分ける。そして前に布陣した近接部隊は8人づつ、魔神王の正面と右、左、そして死角から攻撃を仕掛けていった。魔神王が回転攻撃でもすれば、魔法による援護砲撃の格好の的である。1人づつ処理するのならば、それこそ好都合。地道にダメージを稼ぐことができる。


 しかし、魔神王は飛んだ。ボディプレスの構えだ。目標はザスターのいる本隊だった。飛びついて掘削する近接部隊に構わず、鮮やかな跳躍で魔神王は人間の群れに飛び込んだ。


「逸れろ。…効かないか。」


 【(スター)】は【ビクトリア】のシステム機能を行使できる特殊権限。使用者が望む《事象の延長》を実現させるスキル。ここで疑問を呈する。そんなスキルが、一個人に渡っているというのは、あり得るのか?と。


 それはスキルであってスキルではない。いわば…ワールドスキル。ワールドアイテムを飲み込んだ者が手にする、1生限りの特別。

 死ねば消える、儚い物。だがその代わり、使用者には栄光が約束される。本来なら同時に一つしか使用できないワールドアイテムを、ワールドスキルを使用することで、複数使用できるからだ。


「【世界(ワールド)】。」


世界(ワールド)】…【ビクトリア】のシステム機能を行使できる特殊権限。使用者が望む《全能》を実現させるスキル。


 この瞬間、ザスターは自身が保有する全てのスキルを発動できる。ただし同時使用すると、ザスターの体内のワールドアイテムが傷み、いずれ消滅するリスクを負っている。


 【魔術師(マジシャン)】+【女帝(エンプレス)】+【戦車(チャリオット)】+【隠者(ハーミット)】+【(タワー)】+【(スター)】+【(ムーン)】+【審判(ジャッジメント)】。


魔術師(マジシャン)】…【ビクトリア】のシステム機能を行使できる特殊権限。使用者が望む《夢》を実現させるスキル。


女帝(エンプレス)】…【ビクトリア】のシステム機能を行使できる特殊権限。使用者が望む《支配》を実現させるスキル。


戦車(チャリオット)】…【ビクトリア】のシステム機能を行使できる特殊権限。使用者が望む《絶対》を実現させるスキル。


隠者(ハーミット)】…【ビクトリア】のシステム機能を行使できる特殊権限。使用者が望む《秘匿》を実現させるスキル。


(ムーン)】…【ビクトリア】のシステム機能を行使できる特殊権限。使用者が望む《変幻》を実現させるスキル。


審判(ジャッジメント)】…【ビクトリア】のシステム機能を行使できる特殊権限。使用者が望む《公平》を実現させるスキル。


 全てのスキルを起動して、ザスターは魔神王を屠りにかかる。ザスターだけに、警告アナウンスが鳴った。


《 スキルの発動を敵性ワールドボス、【極限の魔神王】により妨害されています。発動すると、体内のワールドアイテムが破損する可能性大。 》


「…必ず壊れるって意味じゃないか。笑わせる。だが、助かった。」


 ザスターはある意味踏ん切りがついた。ここで魔神王を討伐すれば、β版からの貯金であるワールドスキルを失うが、その分収穫がある。魔神王の素材は武器や防具にもってこいだし、何より特殊なスキルを得ることができるワールドアイテム、【魔神王の魂】を手に入れることができる。

 そのため、ザスターはワールドスキルを使用したアビリティコネクトを実行した。本来ならスキルではなく、そこから派生したスキルアビリティ(例えば【剛撃】と【衝撃波】のような)を合成するのがアビリティコネクトだが、【世界(ワールド)】は全能を体現する。多少の無理を通すことが可能であった。




「───【天帝の勅令】。」


【天帝の勅令】…【勅令】×【世界(ワールド)】のアビリティコネクト。ある程度強制力のある命令を行うことができる。


「自害しろ!」


 ザスターの身体の中で何かが弾けた。クラッカーのような音が鳴る。彼は、自身の力の終わりを感じていた。

 魔神王の様子はというと、本隊に飛び掛かる寸前で体勢を崩し、地面をのたうち回っていた。自害するという命令に強固な意思が反抗している。しかし、それが精一杯のようだった。攻撃チャンスである。


「…近接部隊!今のうちに畳み掛けろ!全員でかかれ!」


 雄叫び。

 恐怖を消し、自身を英雄にする作法だ。死を恐れることなく、巨大な敵に立ち向かう者は英雄と呼ばれる。

 戦士達は己が保有する全存在を魔神王にぶつけた。戦士であるにも関わらず、アーサーが逃げ回っているのを見に徹することしかできなかった悔しさ。溜まりに溜まったフラストレーションを爆発させている。


 次第に、表皮が割れ、筋繊維が割れ、骨が割れた。鉱脈の掘削のようにも見えた。魔神王は死に近づいていた。


───…順調みたいですね。


「アーサーくん!?生きていたのか!?」


───ええ。


 その光景をアーサーは見る。この光景の功労者は、間違いなくアーサーだ。既に治療されたアーサーはザスターと共に戦闘の終わりを見る。


───治療部隊の人から話は聞きました。ワールドスキル…。たいそうなものじゃないですか。


「アビリティジェムによる補正でもかけないと、40回しか使えない消耗品になってしまう。そこまで大したものじゃない。」


───アビリティジェム?


「君も持っているのではないかね?」


───持ってますけど…。


「一回装備してみなさい。」


 アーサーはメニューからアビリティジェム【星】を装備した。装備すると、アビリティジェムは砕け散った。


───はぁ?


「しばらく君には砕いたアビリティジェムの補正がかかるようになっているはずだ。…そろそろ魔神王が死ぬ。君も殴ってきたまえよ。」


───俺、武器持ってないんですよね。


 アーサーはアイテムボックスから黒いグリップのようなものを取り出した。かつてバザーでサラから買ったものだ。凝視してみても、【黒いグリップ】としか表示が出ない代物である。


───これがレーザー刀だったら参加できるんですけどね。


「ちょいまち。調べてもらおうか。」


 ザスターとアーサーは本隊にいる鑑定師に会いに行った。そして鑑定の結果、黒いグリップであることがわかった。


───この流れでほんとにただのグリップっての、正直ありますか?


「今目の前で起きたことだろう。受け入れたまえよ。剣なら鉄製のやつをあげよう。」


───ありがとうございます。


 アーサーはせっかくなので、もらった鉄の剣の持ち手にグリップを嵌めてみた。ゴム質でしっかりと握ることができる。


───よーしいってきまーす。


「気をつけて行きなさい。」


 アーサーはのたうち回る魔神王めがけ、蝙蝠の翼を出して飛翔した。魔神王の目がアーサーを捉える。


【 人の業、見届けたり。 】


 アーサーが剣を振りかぶり、突進すると…魔神王はその瞬間粒子となって死亡した。振り下ろした剣は、盛大に空ぶった。


───ラストアタック、一回やってみたかったんだけどな。


 アーサーは次に向かうべきところに視線を向ける。魔神王の脱ぎ捨てられた外皮が入り口を塞いでいた、女神像がある空間…昇華の間である。


2. 最果て-中央部-昇華の間


「お待ちしておりました。修正者の方々。」


「エンディングかな。」


 昇華の間で待ち受けていたのは、【勇者】であった。ザスターはこの状況を、シーズンのエンディングと形容する。


「あなた方の働きにより、私は魔神王の呪縛から解き放たれ、自由の身になることができました。これはささやかなお礼の気持ちです。」


 この場にいる全員の前に、半透明で球状の物質が与えられる。薄く紫色の光を放っていた。


「それは【魔神王の魂】。是非、あなた方の旅路にお役立てください。」


 【勇者】の身体が透明になっていく。


「歴史喰いをめぐる対決は始まったばかりです。修正者の方々。あなた方の一挙一動はどんなものであっても、この大地の真実へと近づくものであると私が保証します。」


「いずれまた、道が交わるときに。」


 勇者が消えると、俺たちの意識も暗転した。


3.活動領域外


《 ビクトリアプレイヤー。ワールドボスの討伐、お見事でした!

 ささやかながら、報酬を!

 ───参加賞、無料死亡保険×5。 》


 無料死亡保険は、他のプレイヤーに殺されたときに消費することで、盗まれた金銭を補充してくれる優れものだ。できれば使わないに越したことはない。


《 アーサーさんのレベルが373に上昇しました! 》


《 取得スキルアビリティ:【魔法剣:水冷】、【魔法剣:地岩】、【魔法剣:雷電】、【魔法剣:蒼穹】、【魔法剣:煌撃】、【魂装術:第二形態】、【魂装術:第三形態】、【魂装術:第零形態】、【魂装術:屍魂吸収】、【魂装術:不滅の甲冑】、【魂装術:置換】、【魂装術:形状変形】 》


 魂装術。

 魂装術…。


 今まで使ってる人見たことないよね。このスキルアビリティ…。


 …。


 なんか楽しくなってきた。


《 シーズンが切り替わります…。世界が再構成されます…。メンテナンスを実施しています。少々お待ちください。 》




 《さてひと段落》


        《本当に?》


           《明かされぬ謎を暴き出せ。》



   《【ビクトリア】を手探りに、君は進む。》

次章 【第2章 ギルド浪漫編】

乞うご期待。

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