第9話 攻略完了
1. 最果て-情報出力プラント-スリープルーム
俺はビクトリアの機能である、マップ機能を駆使し、スリープルームへと到着した。
───さて、冒険の予感ってな。
タブレットに通信をかけてきた相手はしきりにスリープルームと言っていた。場所はここで間違いないだろう。
《 イベントを進行します 》
《 よろしいですか? 》
《 はい/いいえ 》
いつぞやの選択肢だ。
アーサーは生唾を飲み込んだ。これは、この状況は…異様で面白い。
アーサーは好奇心に身をまかせ、はいを選択した。
選択肢ウィンドウが消えてしばらくして、スリープルームは活動を始める。
1km平方はあるであろう巨大な部屋の縁に、所狭しと並べられたカプセルが一斉に開いたのだ。
───。
アーサーはあまりの光景に絶句した。
液体窒素のような…白いガスが足元をくぐり抜ける。
「1人かな?それは重畳。」
はじめに1人、カプセルから起き上がり、アーサーへと話しかける。
「歓迎しよう。"修正者"よ。」
───…"修正者"?
「…そう呼ばさせてもらっている。君たちの奮闘の映像はコールドスリープ中に学習済みだ。歓迎するよ。」
───…。
「私の名は室伏。ここ、【ダンディライオン宇宙開拓団】の最高責任者をやっている。よろしく頼む。」
───アーサーと言います。
室伏…。
すごく、日本人です。この時、俺は何故だか知らないが嫌な予感がしていた。だが、その予感は杞憂であった。
───このメッセージは、あなたから?
俺はタブレットを室伏に見せた。"decode"はお前なのか、と。
「いかにも、それは私だ。」
───この音声にはどんな意図が。
「今から説明しよう。…時間もない。あと1時間も経てば私達と君は会えなくなる。」
室伏は神妙な表情で話し出した。
「中性子星の誕生を止める手段がある。それはバッテリールームに貯蔵されているエネルギーを消費することだ。」
2. 最果て-鉄の胎盤-メインコア
メインコアの攻略が終了。
攻略組は勇者と協力し、ワールドボス、『鉄の胎盤』への攻略を完了させた。
そのはずだった。
通信機を介して司令部…攻略組統括局と通話するまさかり。
「こちら、まさかり。やったのか!?統括局、どうなんだ!?」
『こちら攻略組統括局です。鉄の胎盤は未だ健在、レーザー、質量兵器による環境破壊活動を続けています。【開拓地】に現存していた個体より、フェーズが追加されている可能性があります。』
「なんだって!?」
今回とった攻略法は、攻略組の普段活動する場所…【ビクトリア】に存在する4大陸中央に存在する空中浮遊都市アスガルドを抜けた先にある、ワールドボスの予習ができる場所、【開拓地】に出現した個体のものだ。
予習の個体と、今回現れた鉄の胎盤は、姿形こそ同じように見えるが、本質は別物であったのだ。
「まさかり!」
「煮豆腐。どうなってる?状況を打破したい!」
指揮官の煮豆腐はまさかりに伝えたいことがあるようだった。
「実は…【メカニック】の調査によりわかったことがあって、この鉄の胎盤の熱源はコアから他の場所に移っているって言うの。」
「!その熱源の場所は?多分、そこが最後のエネルギー源だ!」
「案内する!統括局へは連絡済み!」
『こちら統括局です。緊急指令を与えます。攻略組1・2・4・6隊は熱源…バッテリールームへと向かってください。繰り返します。』
「よし!行くぞ!」
「うん。…ってあれ?【勇者】さんは?」
「ん?…おかしいな。どこにもいない。まぁ、NPCだからそう言うこともあるのか…?」
3. 最果て-情報出力プラント-バッテリールーム
「はっはっ、はっ。」
「新人達!ここからは訓練ではない!イレギュラーな事態だ!気を引き締めていけよ!」
「はっ、はい!」
「押忍!」
キリマンジャロ義経は、カイン率いる攻略組見習い達についていき、息も絶え絶えになりながら、バッテリールームへと辿り着いた。
「ふ、ふぅ。」
「…!」
カイン達が見たのは、巨大な粒子の竜巻だ。稼働しているサイクロン式掃除機のダストボックス内部、その光景が一番当てはまるだろう。
「これが…熱源!?」
「カイン!来たか!」
「まさかり!攻略法は!?」
「近接、遠距離攻撃共に鎮圧には不適当だ!物体にぶつけて勢いを削ぐ!ここの壁を煮溶かして硬度・質量共に良質な物体を錬金術師が作成中だ!」
まさかりは声を大きく張り、簡潔に指示を示した。【勇者】がいなくとも攻略組は顕在であるという姿勢が、味方を鼓舞し、攻略組の力強さを増している。
「なるほど…。俺たちには何ができる?」
「この部屋の調査を続けてくれ。あの竜巻が最後の熱源である確証がない。」
「わかった。」
4. 最果て-情報出力プラント-バッテリールーム-中央
攻略組は力を合わせ、巨大な金属を作成。
金属をぶつけられ、竜巻は勢いを失った。
「どうだ!メカニック!」
「熱源、健在!竜巻が塞いでいた…ちょうどこの奥です!」
「よし!全隊進撃しろ!」
竜巻を踏破し、攻略組はバッテリールームの奥へと進む。
5. 最果て-情報出力プラント-バッテリールーム-メインバッテリー
「なるほど、竜巻が出ていたのはこのためか…。」
6km立方の金属で構成されたバッテリーは、天井部に備えられた大量の空調を使用して冷却されている。
バッテリーによって温められた気流の集まりが巨大な竜巻となっていたのだ。
「どうするー?」
煮豆腐がまさかりに指示を仰ぐ。バッテリーは繊細なものだ。下手を打てば、鉄の胎盤へと供給されているエネルギーが暴走するだろう。ここにいる全員が死亡してしまうかもしれない。
「バッテリーを停止させる。何か制御できる機械はあったか?」
「わかりません!」
「…時間的猶予はほぼない。死に物狂いで探せ!」
「はっ!」
───待ってください!
「アーサー!?」
指揮を取ろうとしたまさかりに声を出したのは、アーサーであった。
「アーサー、君、ログアウトしたんじゃ…。」
───情報共有を。
キリマンジャロ義経の声を無視して、アーサーはタブレットを見せた。タブレットに録音音声と映像が流れる。
『私はこのダンディライオン宇宙開拓団の最高責任者、室伏という。今回は我々の不手際で異星探索開拓機構、【鉄の胎盤】が誤作動を起こしてしまい、誠に申し訳なく思う。』
───このタブレットはスリープルームにあったものです。
『 鉄の胎盤のメインAIから制御を取り戻し、かつ、バッテリーを消費する手段として、データベース部への接続を推奨したい。この施設で最も権限が高い開拓団補助AI…《ダンディライオン》を起動させることができる。メインAIの行動指針は君たちの敵だが、《ダンディライオン》は我々開拓団の指示に従うようになっている。君たちの味方になると保証しよう。 』
室伏はそのあと、バッテリーからの電力供給をデータベース部へと切り替える方法を話した。
『 …以上だ。鉄の胎盤を操るメインAIは、バッテリー内のエネルギー収縮による中性子星の発生を目的としているだろう。外宇宙に存在する他の宇宙開拓団のため、自爆して君たちを抹殺しようとしている。バッテリーを停止させるには《ダンディライオン》の力が必要になるはずだ。それでは、諸君らの無事を祈る。 』
───彼は鉄の胎盤内部のNPCです。信用する価値はあると思います。まさかりさん!
「…早く。」
「え?」
「さっさとデータベース部にバッテリーを繋げ!俺はアーサーを信頼する!」
まさかりは特に手がかりもなかったので、アーサーを信頼することにした。
「は…はっ!」
攻略組のメンバーはまさかりの指示に従い、配線を切り替える作業が始まる。
アーサーはまさかりに話しかけた。
───信用してくださって、ありがとうございます。
「よせ。まだ結果は出ていない。…次からは、誰か証人を連れて行ってくれ。」
───……。
「君の情報をイタズラだと疑いたいわけじゃないが、もし、これがデマだったら…半分以上の、地上に残っているビクトリアプレイヤーが財産を失う。」
───すみません。
「君のためでもあるんだ。仲間を作れ、連れていけ。いいな。」
───はいっ!
6. 最果て-情報出力プラント-スリープルーム
アーサーは義経とカイン、他数十名を連れてスリープルームを訪れていた。
まさかりから、スリープルームに居る第三勢力…ダンディライオン宇宙開拓団の調査を頼まれたのだ。
「アーサー君。よくやってくれた!補助AI…ダンディライオンへとエネルギーの供給が始まりつつある。すぐにでも鉄の胎盤のプログラムは停止するはずだ!」
───室伏さん。
「ほぇ〜。」
「すっげ。」
アーサー以外の仲間は人をコールドスリープさせるための機械に興味津々のようであった。
「そろそろ起動するぞ。《ダンディライオン》が。」
(シーズン1も、終わりか。)
アーサーは一息ついた。現実世界では絶対に遭遇できない非日常を堪能した。
だが、【ビクトリア】は終わらせない。
「…なに!?それは本当か?外に鉄の胎盤とは違う…別のワールドボスが出現したのか!?」
カインが突然、妙なことを口走った。鉄の胎盤の外殻───環境破壊兵器と戦闘をしていた攻略組からの連絡であった。
「…ダンディライオンが起動したが…君たちはそれどころではなさそうだな。」
───室伏さん。ダンディライオンは鉄の胎盤のコントロールを奪った。違いますか?
「ああ。制圧は完了した。…君たちに協力しよう。ダンディライオンも、自身周辺に巨大な生体反応が現れたことを察知している。」
〈 アナウンス。ユーザー。ダンディライオンです。指令を。 〉
ダンディライオンと思わしきアナウンスがスリープルームに決意を委ねる。
「───原生生物を守れ。」
───カインさん。鉄の胎盤が味方になりました。
「ああ。さっき統括局に連絡した。攻略組は元ワールドボス、鉄の胎盤との戦闘を終了、協力して新しく現れたワールドボス───【魔神王】と戦う!」
「…うおおおおおおおお!!!」
カインの意思に呼応して、叫びを上げて、攻略組全員は一丸となり新しい脅威へと立ち向かう。
だが、アーサーにはある懸念があった。
(【魔神王】…だと?)
彼の種族と全く同じ名前のワールドボスが、現れたことであった───。