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第10話 思わぬ邂逅

 シーズンβ。

 今から語るのは、いわゆるβ版の時代の出来事である。

 ザワルドというトッププレイヤーがいた。彼はアスガルドを超えた先…開拓地にて発見したワールドアイテムの力を使い、【ビクトリア】を股にかけていた。

 そんな彼に、1人の男が近づいた。


「シーズンの終わりが近い。」


「いきなりどうした?あんた。」


「ワールドボスを見つけ出せ。唯一、我々に利する者を。【魔神王】を…。」


 男は、ザワルドの手首を掴み、手のひらに九つの青い輝石を乗せた。


「向かうがいい。光の示す場所へ…。」


 ザワルドは彼を引き留めようとしたが、彼は霞のように消えてしまった。


 その体験以降、ザワルドの視界には巨大な光の柱が地平線の彼方に見えるようになっていた。

 ザワルドの答えは決まっていた。彼は知的好奇心に従い、同期の攻略組と徒党を組んで光の示す場所へと向かった。

 そこにあったのは、女神像であった。


「これが俺に見せたかったものか。」


 そして、ザワルドに輝石を渡した男が佇んでいた。


「その輝石をささげろ。」


「おっさん。あんたがささげるんじゃダメなのかよ。」


 男は何も答えなかった。

 ただ、ザワルドへと視線を向けていた。


「わかった。」


 諦め、ザワルドは九つの輝石を女神像へ捧げた。

 すると、女神像が輝き始める。


「お前は成るのだ。世界の破壊者に。」


「そして、この回帰に囚われた世界を束縛から解き放つ。」


「覚えておけ、私…私達の名は【修正者】。歴史喰いを殺す者だ。」


 光が収まると、ザワルドの身体は【魔神王】となっていた。


1.最果て-地表


 鉄の胎盤の破壊活動により、浮遊大陸アスガルドは墜落。墜落の衝撃により、最果ての島付近に生息する原生生物の大半が死滅し、嵐の天候も晴れへと変わる。

 しかし、破壊されたものはあれど、そうでないものがあった。

 女神像だ。

 強制的なランクアップに使用する女神像が存在する空間は、天変地異に対して何の影響も受けることなく存在していた。


 壊し屋のリーダー、【操縦士】ダリル。

 副官、【弓使い】アクリナ。

 その2人と会話する───【組織】のリーダー。


「報酬はこれ。ワールドアイテム『鉄壁機神(レイジ・メカ)』。お勤めご苦労様。」


 リーダーはダリルにネックレスを渡した。ダリルがネックレスを着用すると、ネックレスは膨張、変形。

 ダリルの身を覆い尽くす、赤銅の鎧と化した。


「10tの膂力、状態異常無効に、損傷からの回復機構…感謝するぜ、ボス。」


「やりましたね。ダリル。」


「それじゃ、君たちにはここから出てってもらおうか。転移陣は用意してある。」


「待ってくれ、ボス。気になる奴がいた。会話ログを報告してあるはずだ。」


「ん…。ナイトケのリロ、と…魔神王?」


 リーダーは顔を顰める。リロとアーサーのことだ。


「別に、ランクアップが目的なだけなら見逃せるけど、【魔神王】という職業は…既存のデータにはない。リロの仕込みか?」


 リーダーの記憶の中では、【魔神王】とは称号スキルの一つ。

 それは、【魔神王の魂】というアイテムを消費した者に付与され、その者の職業に応じて特異な効果を与えるスキルであった。


「………。決行する。検証のためだ。ありがとう、壊し屋。あとは下がってて。」


「了解だ。それじゃあな。ボス。」


 ダリル達、壊し屋の面々は続々と転移陣…【テレポート】の魔法陣へ歩いていく。

 リーダーは懐から赤く光る宝石を取り出した。


 【魔術師】、【女帝】、【戦車】、【隠者】、【塔】、【星】、【月】、【審判】、【世界】。

 この世界に現時点で実装されている、アルカナが刻まれたアビリティジェムだ。

 それらを全て、女神像へとささげる。

 光が男を照らす。


《 warning! warning! 》


《 WORLD BOSS 『魔神王』 》


 リーダーは30mの結晶でできた巨人へ変貌、魔力のウェーブを放出し、生誕の産声を上げた…!


2.最果て-攻略組キャンプ


 まず、鉄の胎盤が破壊された。

 鉄の胎盤は5kmを超えるほどの全長を持つ。一見、不利なのは30mほどしかない魔神王である。しかし、魔神王は鉄の胎盤の巨大さを覆すほどのパワーを宿していた。

 鉄の胎盤は魔神王を捕捉して迎撃する。外殻からのミサイル192発、自動機関銃216基による機銃掃射、ドローン1024台による魔力レーザー攻撃、多関節の機械副腕36本による質量攻撃だ。


 プレイヤーが出せる規模を大幅に上回る天変地異を繰り出すも、魔神王は正面からそれを耐え、腕の一振りで鉄の胎盤の副腕を破壊。

 魔神王は刺々しい魔力の嵐…【魔力風】を身に纏っている。そのため、ミサイルは接近する前に破壊される。

 当然、機銃なんてものも効くはずがない。ドローンによるレーザー攻撃すら、魔神王の結晶質な外皮には効果がなかった。


 鉄の胎盤はメインコア含めた動力源を失い、通常時ならば展開できた電磁防御を展開できないと言うのも決定打になり、開戦30秒後にあえなく爆発四散した。


 攻略組はここまで一方的な展開になると思わず、鉄の胎盤内で待機、攻略作戦を立てていたので爆発の被害を受け、末端部分に居た3割の団員を残して他は死亡。


 この時点で暴れ回る魔神王に抵抗できる勢力はなく、残党は士気を失って撤退を始めていた。


 アーサーも撤退を始めた1人であった。


「まさか、1分も持たないだなんて…。」


 キリマンジャロ義経、カイン達、生き残りと共に、用意してあった転移陣に入り、アーサーは最果てから引き上げた。


3.バゼリ王国-攻略組支部


 アーサーは命拾いしてバゼリ王国へと帰還した。しかし、魔神王の機動力はかなりのもので、バゼリ、ナイトケ、ジオマ、ザマルの4大国は数時間が経てば破壊されてしまうだろうことは確実だった。


 だが、1時間ほど経っても攻略組から何も声明が出ていない。ネットのビクトリア掲示板では、ジオマの首都が破壊されたという情報があった。


 NPCで構成されたジオマ国防隊はすでに壊滅。一部の攻略組残党と現地プレイヤーの連合軍と手を組み、ジオマの【王】が首都の跡地で魔神王と戦っていると。


(?)


 アーサーには違和感があった。そう、【勇者】だ。なぜ、勇者の情報が出ていない?彼女はワールドボスの討伐に協力するNPCのはずだ。


 気になったアーサーは、誰かにこの情報を聞こうと試みた。だが、攻略組の幹部たちは会議室に引きこもっていて、話がつかない。そのため、アークデーモンのブーンと、フレンドのラマンダに連絡することにした。


4. 魔族軍司令部-休憩室


「【勇者】がいない、か…。」


 初めに連絡がついたのはブーンだった。彼も、ワールドボスが世界を破壊すればキャラロストの危険がある。キャラロストを避けるためにも、現状を打開しなければならない。


───はい、ジオマの情報の中に勇者という単語はありませんでした。


「…考えてもわからない。ただ、知ってそうな人を知っている。聞きに行こうか。」


───その方は…?


「この国の王だ。」


5.バゼリ王国-首都-王城


「実は、βテスターをやっていてね。我々はその時も魔神王を討伐したことがあるんだ。」


───…。


「登場した協力的なNPCは、【勇者】と各地の【王】、そして、王に率いられる軍隊達だった。王は勇者に協力的でもある。何か知っているならば、彼だろうと思ったんだ。」


 王と対面する。

 彼は金髪をオールバックにした長身の男だった。玉座の前には兵士が整列している。アーサー達が何か法を破った場合、即座に彼らとの戦闘が始まるだろう。


 ブーンは慣れた様子で王へと跪き、NPCとの【会話】を始めた。

 このVRMMOにおいて、NPCとの会話はウィンドウを選択することによって行われる。


「…なるほど。」


 ブーンは王へ一礼し、玉座の間の外で待機しているアーサーの元へ戻った。


「アーサー、私には選択肢が出なかった。一応、君も王と話してみてくれ。」


 アーサーはブーンのやり方を真似して、玉座の間へと入り、王に跪いた。

 選択肢ウィンドウが提示される。


《 この場所について説明を聞きたい 》


《 あなたは誰? 》


《 兵士になりたい 》


 アーサーの目から見て、【勇者】に関連するような情報はなさそうだった。ただ、アーサーは個人的に王へ興味を持ち始めていた。


《 あなたは誰? 》


 アーサーは王の素性を知ろうと思った。選択肢ウィンドウを選択すると、王は自身のことを話し出した。


「余は、ヤーマ・バゼリ。ヤーマ6世である。このバゼリ王国の王をしている。して、今日は何用か。」


《 ワールドボスを倒す手助けをしてほしい 》


 この選択肢しか出なかったため、アーサーは会話を進めるためにウィンドウをタップした。


「ワールドボス、【魔神王】については既に対策を取っている。我が軍を以って対処するつもりだ。」


 フラグが出ていないのだろうか、ヤーマ・バゼリは当たり触りのないことだけをアーサーに語り、会話は終わった。


6.バゼリ王国-宿舎


 結局アーサーはブーンと分かれ、バゼリ王国の兵士の宿舎に泊まっていた。

 アーサーはバゼリ王国の兵士になることにしたのだ。


───まさか、全く収穫がないなんて。


 ブーンは魔神王討伐隊に加わるため、前線へと赴いた。

 アーサーもブーンを手伝おうとおもったが、あの鉄の胎盤が1分で破壊されたのを目の前で見ていたので、無謀なことはできないと待機していた。


───………。


 まだ、ワールドボスのイベントは続いている。シーズンは、プレイヤーが全滅するか、ワールドボスが倒されるまで続く。


───!


 その時だ。アーサーの持つアイテムボックスから、特徴的な電子音が鳴った。

 その音の持ち主は、鉄の胎盤で拾ったタブレット端末だった。

 着信はdecode。ダンディライオン宇宙開拓団の室伏。


(そういえば、室伏とはウィンドウで会話しなかった。)


 それじゃ、彼はプレイヤー?

 しかし、それにしては…NPCに寄りすぎている。アーサーは着信を取った。


『 アーサー君。室伏だ。ダンディライオンはまだ完全な破壊に至っていない。それで、だ。魔神王と勇者の…【戦闘データ】を君に渡したい。君になら使いこなせるはずだ。 』


7. バゼリ王国-酒場


 アーサーは【テレポート】を持っていない。そのため、長距離の移動は難しい。

 人材を募集するため、プレイヤーが集まる酒場に向かったが、【テレポート】を使用できるような人材は、既に魔神王との前線へと向かったと、酒場に来ていた生産職から聞いた。


───なんとかなりそうなのに…。


 カインとキリマンジャロ義経も前線に赴いたようで、アーサーが頼れる人脈はない。


「あれ?君、アーサー?」


 そのはずなのだが、奇妙な運命と彼は出会う。


───サラさん?


 出会った彼女は、かつてアーサーを【組織】に登録したサラだった。

 彼女とアーサーは複雑な間柄である。しかし、サラは遠慮なくアーサーの隣の椅子に腰掛けた。


「こんなところで何やってんの?」


───…テレポートを使える人材を探してるんです。


 信用できる人間ではないが、聞かれて隠すようなことでもなかった。


「あっちゃー、間が悪かったね。今回の魔神王騒ぎでどこもかしこもてんやわんや。攻略組の遠征部隊が壊滅したって聞くし、【テレポート】持ちは前線維持のために世界中を飛び回ってるよ。」


───…あーあ。


「で、なんのために?テレポートが必要ってことは、目的地があるんでしょ?」


───最果ての島ですよ。


「…なんのために?」


───お金、とりますよ。先払いでお願いします。


「どれくらい?」


 サラがここまで食いつくとは、アーサーは思っていなかった。しかし、1人でどうにかできる案件でもない。もしかしたらサラが協力してくれる可能性がある。


───…10万。それと、最果ての島までのツテを。


「7万にしてよ。」


───10万を安いと思われないなら、お帰りください。


「…わかった。現物でいい?」


───はい。…受け取りました。場所はここでいいですか?


「うん。」


 アーサーは多少ふっかけたが、サラは退こうとしない。気はあまり進まない中、ぽつぽつと、室伏から語られた情報をサラに話し始めた。


「…へ〜ぇ?随分いい思いをしてきたみたいだね。」


───厄介なだけですよ。俺には能力がない。


「それじゃ、行こっか。テレポートじゃないけど【組織】の車を使おう。」


 サラは悪辣で敏腕な情報屋だ。少なくとも、初心者であるアーサーを手玉に取れる程度の実力を持つ手練れであることは確実だ。

 そのため、アーサーは騙し討ちを警戒していた。なぜなら、情報さえ手に入ればアーサーは用済みなのだ。


「…?はやくいこ?アーサー。」


 だが、その懸念は杞憂だったようだった。


───道中、よろしくお願いします。


「はーい。」


 そう、アーサーは思った。

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