初仕事
翌朝、島村に言われた時間よりもかなり早めに出社したが、二人とも既に会社に来ており、コーヒーを飲んでいた。
「おはようございます。今日からよろしくお願いします。」
俺は深々と頭を下げながら挨拶をした。
「こちらこそ」
「よろしく頼むよ」
二人は笑顔で返事した。
そして、女性から、
「私は受付を担当してる近藤です。よろしくお願いします。」
と言われ、この時初めてまだ彼女の名前を聞いていなかったことに気付いた。
「早速だけど仕事だ」
島村がそう言うと、近藤が俺に書類を手渡した。
「その書類に書いてあるものを今日中に調達してくれ。詳しい話は近藤君に聞くといい」
島村はそう言うと、奥の部屋に入っていった。
書類には
有名餃子店の餃子五人前
先月発売された人気テレビゲームの本体一台
今日封切りされた映画のパンフレット一冊
・・・となっていた。
他にもいくつか書かれていたが、似たようなものだった。
俺は訳が分からず、近藤に尋ねた。
「あの、なんでこんなものを調達しなければならないんですか」
年下とはいえ、一応先輩であることから敬語で話す。
近藤は笑顔で
「客先からの注文です。何故必要かは分かりません。調達でき次第私が先方に送ります。必要な経費はこれを使って下さい。」
そう言いながら、現金の入った封筒を俺に差し出した。
俺はまだ納得出来なかったものの、仕事だからと割りきり、書類を見ながら順番に書かれた品物を集めることにした。
テレビゲームだけは、なかなか手に入れるのに苦労したが、その他は簡単に調達できた。
テレビゲームを会社に持ち帰ったのは、夕方だった。
「お疲れ。」
島村から声をかけられ、俺は近藤が出してくれたコーヒーを飲みながら、島村に質問した。
「一体どんな人が注文してるんですか?出前や通信販売で買う方が早いように思いますが。」
島村はやはり笑顔のまま
「そのうち教えるよ。いきなり言うと混乱すると思うから。」
そう言うと帰る準備を始めた。
「先に帰ってていいよ」
島村にそう言われて、俺は先に会社を出た。
とりあえず一日目の仕事が終わった。
しかし、家に帰った後も気になって、ずっと考えていた。
はっきり言ってこの会社は普通じゃない。
一体どんな客が何の為にあんなものを注文するのか。
あんなものを調達するだけの仕事で、なんで月七十万という給料が払えるのか。
考えれば考えるほど分からないことだらけで、余計に混乱した。
しかし、島村がそのうち教えると言っていたその言葉を信じて、明日からも調達に走り回るしかないと思い、早めに寝ることにした。
その頃、近藤はテレビモニターに映し出された島村と会話をしていた。
「明日話そうかと思うんだが、どうだろう?」
「いずれ話さないといけないのですから仕方ないですね。でも理解出来るでしょうか。もう少し待ってからのほうがよくないですか?」
「彼と話して思ったけど、彼は頭の回転は早いよ。最初は混乱すると思うけど、すぐに理解出来ると思うよ。」
「分かりました。では明日」
画面から島村の映像が消え、近藤はテーブルのボタンを押した。
テレビモニターが天井へ収納された。
「でも、私のことはまだ言えない。」
近藤は独り言のように呟いた。
近藤は、立ち上がると、壁にかけられた立体写真に語りかけた。
「必ず成功させるから」
俺は夢を見ていた。
何故か分からないが、島村と近藤の三人で、見たこともない街を歩いていた。
街の中を走る車にはタイヤがなく、宙に浮かんで走っている。
そして、ハンドルもなかった。
三人で歩いた先にある建物に入り、エレベーターに乗った。
エレベーターの中に、階数のボタンはなく、代わりに数字のキーがあり、近藤が数字を入力すると、エレベーターのドアが一旦閉まり、すぐに開いた。
三人がエレベーターを出ると、ドア以外は窓もない小さな部屋だった。
そのドアを島村が開くと、何故か未来商事の事務所だった。




