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未来商事

早速ハローワークや雑誌から、自分に出来そうな仕事を見付けては、面接の申込みをするものの、年齢と何の資格もないことがネックとなり、ことごとく断られた。



 悩んだ末に妻にもリストラされたことを話した。


 妻は思ったほど驚きもせず、「貯金もあるから無理しないでね」

とだけ言った。


 妻が言うには、「人生いろんなことがあるから、リストラなんかでおろおろする暇があったら、次の仕事を早く見つけてもらうように応援するほうがいいにきまっているから」だそうだった。


 それを聞いて、かなり気が楽になった。


 俺は妻に「ありがとう、はやく仕事を見つけるよ」とお礼を言った。



 こうして俺は妻からの応援を得て、朝から晩まで転職活動に明け暮れた。







そんな時だった。








俺の携帯に、この会社から電話がかかってきたのは・・・。




ピピピピ! ピピピピ!



携帯の画面を見たが、知らない番号からの着信だった。



 どうしようか一瞬迷ったが、面接の申込みをした会社かもしれないと思い、電話にでた。



「はいもしもし?」



「山本雄一さんの携帯でよろしいですか?」




「はいそうですが?」




「私は未来商事の島村と申します。」



・・・?



 はて?そんな会社に申込みをした覚えはないぞ。



「新しい勤め先は見付かりましたか?」



「いえ・・・って、一体なんなんですか?」



「よろしければうちで働きませんか?」



「は?」



 もしかして、新手の詐欺か何かだろうか?



「いえいえ、変に思わないで下さい。うちは今求人を出しているところで、仕事を探している人に声をかけているんです。よろしければ今からでも会社へお越し下さい。詳しく説明します。」



ますます怪しい。



そう思いながらも、騙されたつもりで教えてもらった場所へと向かった。



偶然にも、その会社は俺の自宅から目と鼻の先の場所にあった。


・・・このビルの二階か・・・。


こんなに近くにこんなビルあったっけ?


 そんなことを思いながらもドアまで行くと、会社の名前がドアにも書いてあるのでここに間違いない。


あまり大きな会社ではなさそうだ。


中へ入るべくドアを開けた。




中に入ると、カウンターに座る、二十歳前後の女性が私を見るなり、

「課長、山本さんがお見えになりました。」

と、奥の部屋に向かって叫んだ。




この女性の行動に、俺は早速引っ掛かるものがあった。


まるで俺に前から会った事のあるかの様な反応だったからだ。


いくらリストラされる程度とはいえ、十年以上営業をしてきただけに人の動き位は分かる。


その俺が、この女性は俺のことを知っていると感じた。


すぐに奥の部屋から男性が出てきた。


五十代の、いかにも課長という感じの男性である。


先程俺に電話したのがこの人だとすぐにわかった。


「山本さん、未来商事へようこそ。」


課長はにこやかに俺に声をかけてくれた。


・・・こんなふうに迎えてもらったのは本当に久しぶりだった。


前の会社でも、転職活動中も、そして家でも・・・。


なんだかここに来たのが初めてではなく、やっと自分の居場所へ帰ってきた、そんな気がした。


俺は課長に勧められるがままに応接セットのソファーに座り、課長に挨拶した。


「あの、山本雄一です。はじめまして。」


「未来商事営業課長の島村です。今日は突然の電話に驚きのことと思います。」


この日は今の俺の状況を聞かれた以外は、主に世間話だけで終わった。


明日詳しい話をするから明日の朝もう一度来るように言われた。


俺も特に用事もないので了承し、会社を出た。


もうすっかり暗くなっていた。





  


「どうだい?久しぶりに会った感想は」


島村が、山本が出て行ったドアの方をまだ見つめ続けていた受付の女性に声をかけた。


「・・・会えて嬉しかったです」


彼女の目に涙が流れた。


「君の本名は伏せておいた方がいいだろう。前のご主人の近藤の姓を名乗ってはどうかね。」


「はい、そうします。」


彼女はそう返事しながら帰る準備を始めた。


島村も準備が終ると、山本が出たドアではなく、部屋の奥にあるドアを開けて、二人は一緒に・・・




    ・・・・消えた。










 翌朝いつもよりかなりゆっくりと家でくつろいでから、未来商事へと向かった。


 既に島村と受付の女性はいた。


 俺は昨日と同様に、ソファーに座り、島村と世間話を始めた。


 最近のニュースや景気の話、それから俺の家族のことや趣味について。


 それから一時間程して、島村が急に真剣な眼差しで、「うちの会社で働く気はないかね」と尋ねてきた。


 俺は「ここは、何の仕事をしている会社なのですか?」と尋ね返した。


 これまでの話の中に、島村から全く会社の説明がなかったからだ。


 こちらからっきりだす機会を伺っていたのもあったが、島村から切り出すだろうと思っていたからだ。


 昨日も今日も、課長と受付の女性の二人しかいない、それに客も来ない。


 どんな仕事をしているのかはもちろん、経営はうまくいっているのかがとても気になった。





 ・・・またリストラされるのは嫌だったから。



 島村の返事はこうだった。


 未来商事は、様々な物資を調達し、送り届けるのが仕事で、日本ではあまり価値がなくても海外では家以上の価値がある場合もあり、今急成長をしている会社である。


 山本君には、客から調達依頼のあった物資を調達してもらいたい。


 規定で中途採用の場合は採用の決定権がある私の裁量で初任給に加算枠があるから、それを含めて月70万でどうかね。



 俺はどうしようか迷った。


 あまりにも怪しい。


 しかも給料が高額過ぎる。


 一体何を調達しているのかが怖い。


 でも、リストラを宣告されてからもうすぐ二ヶ月。


 完全に失業するのは目前だった。



 「あの、具体的には何を調達するのですか?」


 「ん?ああ、決して違法なものの調達じゃあないよ。最初は戸惑うと思うけど直に慣れるよ」


 島村はそう言って、一枚の書類を俺に差し出した。


島村が差し出したのは、内定書だった。


 俺の名前が書いてある。


・・・・なんでフルネーム知ってるんだろう?


「いつからでもいい。君が働きたくなったら明日からでも来て欲しい。」


 島村は笑顔俺にそう言った。


「あの、何故俺に?俺よりも仕事の出来る人はたくさんいると思うのですが・・・。」


「いや、君でないといけないんだ。どうだろう?」


 このときの島村の顔は真剣だった。


 島村の真剣なまなざしに驚きつつも俺は悩んだ。


どうしよう。


騙されているかもしれないけど、家族のために、俺自身のためにも働かなければ。

駄目元で働くか。



俺は決心して、明日から働くことを島村に告げ、内定書を受け取ると家に帰った。



 家に帰ると俺は仕事先が見つかったことを家族に話した。


 妻も娘も喜んでくれたが、

「もうクビにならないでね」

と、かなり痛い一言を受け、ただ苦笑するしかなかった。





 いずれにしろ、こうして俺は株式会社未来商事の社員になった。



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