その1
「・・・ねぇ、何でこんな事になってるの?」
「・・・俺に聞くな」
わたしはバカでかい、前世で言う所のコロッセオっぽい会場の超満員の客席に囲まれたど真ん中で隊長と並び、お互い遠い目になって立っていた。
「そんなの面白そうだからに決まってるよねぇ!そうやって二人並んでると結構お似合いだよ?とても今から決闘するとは思えないなぁ!」
「ねぇっ!わたし達は全力で戦うんだよ!?お客さんなんか入れたら危ないでしょうが!」
「もうリーナの世界共通語は完璧だね!後は国別の言葉遣いも覚えた方が良いかも知れないなぁ」
「あっ!ごめん・・・じゃなくて、モウシワケゴザイマセン!シツレイシマシタ!イゴキヲツケマス!」
わたしはこれまでこの世界ではタヌキ語らしい日本語しか喋る事が出来なかったので勉強してこの世界の世界共通語は漸く何とかマスターしたけれど、アルドーラ大帝国での前世で言う所の丁寧語や尊敬語と言った言葉遣いが、わたしにはめちゃくちゃ難しくてあんまり喋れないのだ。
「僕は別に気にしないけど、四カ国の言葉遣いが完璧に出来ないと、リーナが騎士を辞めて目指す世界の行商人は厳しいんじゃない?」
「えっと・・・ソウデスヨネ!ゴシテキアリガトウゴザイマス!ガンバリマス!」
そして、会場の客席は皇太子以下帝国騎士団が総力を上げて防御魔法を展開してるので問題無いのだそうだ。
ちなみに皇帝陛下と皇后陛下達も、わたしが白龍の樽で作ったドライビールを片手に揃って観戦していたから心配だったけど、二人共そんな心配は無用なぐらいめちゃくちゃ強いのだと第二皇子が教えてくれた。
わたしは、まあ、それならいいかと隊長から離れ開始線に向かい、今日も背負っている頭陀袋から釣竿を取り出した。
「隊長!代理人だからって手加減しないからね!」
「・・・望むところだ」
わたしは右手に釣竿を持ち六神通力を全てオンにして人型となり左手に輪宝を出現させた。
わたしの持つ輪宝は直径1メートルほどの茶釜タイプのもので効力は破邪なのだけど、怪力のわたしの手に馴染む重さもあるので、物理的な殺傷能力も当然あるのだ。
そして、隊長が一気に強大な魔力を解放した瞬間、午前九時過ぎに決闘は開始されたのだ。
グオォォォォォキュルルルルルルルッ!
わたしは突然襲って来た物凄い空腹感に軽く目眩がしたと思ったら、その場で膝をついていた。
「・・・俺の勝ちだな」
わたしは隊長の言葉にハッとして俯きそうになる顔を必死で上げたら、隊長はわたしに右手に持つ剣ではなく左手を向けていたので、空腹で膝に力が入らなくなって来たけど襲って来るだろう魔法に備えて、歯を食いしばり立ち上がった。
だけど、隊長がわたしに向けた左手を軽く振っても何も起きなかった。
「「・・・」」
わたしは一瞬何も起こらない事を理解出来なかったけど、隊長が先程のわたしと同じようにその場に膝をついた事により、隊長の膨大な魔力が尽きた事を悟ったのだ。
そして、わたしは既に六神通力はオフ状態だったからタヌキ姿に戻っていて、釣竿は隊長に破壊されていたけど輪宝はまだ持っていたから勝利を確信したのだけど、言葉にしたら隊長みたいに負けるフラグが立ちそうだったので、無言で震える足をゆっくり動かした。
こうして、午後五時過ぎの燃えるような夕陽を浴びながら、わたしは魔力が無くなったから剣で防御するのが精一杯らしい隊長を、お構いなしに思い切り輪宝でぶん殴り勝利したのだ。
「・・・ねぇ、何でついてくるの?」
「・・・俺がリーナに負けたからだ」
わたしはどう言う事なんだろう?と隊長の横を歩いている副隊長を振り返り見ると、副隊長は苦笑しながら説明してくれたのだけど、アルドーラ大帝国では領主と領地騎士が決闘をした場合、領地騎士が負けても別にペナルティは無いけど、領主が負けたら領主失格となり領地を後継者に譲るか国に返上しなければならないのだそうだ。
「だからって何でついてくるの?元皇子で辺境伯位はそのままの貴族なんだから皇宮に帰ればいいじゃない」
「そうはいかないんだ。ジークは既に臣籍降下してるから皇宮で暮らすには皇子に身分を戻さないとダメなんだけど、その為には莫大な金が必要なんだ。でも、ロゼルナイト辺境伯領の金はジークの個人資産じゃないから使えないし、そのジークの個人資産はリーナの釣竿の弁償金で吹っ飛んだんだよね」
「ちゅー事は、今のジークは貴族とは名ばかりの住所不定の無職で一文無しなんやな〜。リーナ、さすがに可哀想やし連れてったれや〜」
「そうでござるな!リーナ様!拙者からもお願いするでござるよ!隊長殿にはこれまで散々お世話になり申したではござらんか!」
「それに副隊長さんもいるから色々と安心なんじゃないか?リーナは商会の経理とか出来そうに見えないし!」
「リーナ、この先の事を考えたら戦力なんてどれだけあってもいいんだし、この子達がいた方が絶対お得だと思うわ〜」
「リーナ!俺達、絶対にリーナの役に立てるように頑張るからね!」
「・・・」
こうして、わたしは小さな羽をパタパタ動かし側を飛んでるハムちゃん達に心配そうに見られながら、何故か騎士を辞めたニック達第一班もついてきた事により、結局いつものメンバーで大陸を分断する大連峰へと続く深い森へと分け入ったのだ。




