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コールドノヴァ~void〜  作者: 鯖虎
序章 新たなる世界
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第二十二.五話 第七騎士団長


重界騎士団


不知火王都とは異なる独立組織。

新都市グラビティアからなる精鋭部隊。


第一地区から第九地区まで

各それぞれに騎士団を配備している。

各地区ごとに騎士団長が存在しておりその実力は

未知数と言われている。

――時は少し遡る。


第七地区。

冥合城城下町。


空は重く濁っていた。

分厚い雲が空を覆い、 昼だというのに街全体が薄暗い。

普段なら、 荒くれ者の怒鳴り声や商人達の呼び込みが響く石畳の通り。


だが今は、 異様な静寂に包まれていた。

その理由は明白だった。


黒。

城下町の大通りを埋め尽くす、 漆黒の騎士団。

黒鉄の鎧。

長い外套。

胸元へ刻まれた十字架の紋章。

その騎士達は、 一切無駄な動きを見せない。


呼吸。

視線。

立ち方。

その全てが、 異常なほど統率されていた。


まるで巨大な一つの軍勢。

冷徹な規律だけで動く、 鋼鉄の軍隊みたいだった。


その異様な空気に、 城下町の民達は障子や路地裏から怯えたように様子を窺っている。

誰も声を出さない。

いや、 出せなかった。


そして。

その騎士団の先頭。


一際異彩を放つ男が、 静かに冥合城を見上げていた。

長身。

やや筋肉質な体躯。

鮮やかなオレンジ色の髪。

軽く笑っているような口元。

だが、 その目だけは全く笑っていない。

猛獣みたいな眼だった。


――ゴォォォォン……


やがて。

冥合城の巨大門が、 重々しい音を立てて開く。


現れたのは、 蒼冥荒義。

そして、 鳴海龍臣。


その瞬間。

城下町の空気が、 さらに張り詰めた。

蒼冥は煙草を咥えたまま、 騎士団を見下ろす。


「……随分な人数じゃねぇか」


低い声。

煙を吐く。


「わざわざお前らが出向くとは、何の用だ?」


先頭の男が、 ゆっくり口角を上げた。


「いえいえ、大した用件ではありませんよ」


軽い声。

だが、 その場にいる誰より空気を支配していた。


「少し、確認したい事がありましてねぇ」


わざと濁すように言う。

その後、 男は肩を竦めながら続けた。


「只今、各地区にそれぞれの騎士団長が訪問しておりましてね」


その言葉に、 武士達の空気が僅かに変わる。


「私も、その一件でお見通りしたわけです」


軽く笑う。

だが、 その目だけは鋭かった。


そのまま。

男の視線が、 鳴海へ向いた。


「……おや」


少し興味深そうに目を細める。


「あなたが、二代目冥合会若頭――鳴海龍臣さんですか」


鳴海は無言のまま、 男を睨み返す。

男は軽く一礼した。


「私はニルヴァート・キール」


胸元の十字架を指先で撫でながら、 薄く笑う。


「新都市グラビティア直属、第七騎士団長を務めております」


その名が落ちた瞬間。

周囲の武士達の空気が変わる。


鳴海は目を細めたまま、 黙ってニルヴァートを見据えていた。

初対面。

だが。

本能が理解していた。

危険だ、と。


ニルヴァートはそんな鳴海を眺めながら、 どこか懐かしそうに笑う。


「いやぁ……  第七地区の若頭と聞いて、少し別の男を思い出しましてねぇ」


その瞬間。

蒼冥の目が、 僅かに細くなった。


ニルヴァートは続ける。


「確か……  護馬箸――」


そこまで言いかけた瞬間。

蒼冥が遮った。


「あいつァ、和道村の若旦那に付いていかせた」


低い声。

空気が冷える。

ニルヴァートは数秒、 蒼冥を見つめていた。


やがて。


「……なるほど」


小さく笑う。

その目の奥では、 何かを探るような光が揺れていた。

鳴海が低く口を開く。


「今は俺が若頭だ」


岩みたいな声。


「蒼冥総長と共に、第七地区を守ってる」


その言葉に、 武士団の空気が僅かに重くなる。

ニルヴァートは、 そんな二人を面白そうに眺めていた。


だが次の瞬間。

男の笑みが、 すっと薄れた。


「それで」


静かな声。


「ある人物を探しているんですよ。

最近、ここら辺で時間変異があった痕跡が

ありまして。寅ノ王である貴方なら

何か知ってると思ったのですが」


感情の無い顔で

蒼冥を睨み付ける。


――その瞬間。

周囲の空気が、 ぴたりと止まった。

武士達の表情が変わる。

誰も声を出さない。

だが、 城門前には静かな緊張が走っていた。


鳴海も細く目を細め、 ニルヴァートを見据える。

蒼冥だけが、 変わらず煙草を咥えたまま低く笑った。


「へぇ」


鋭い目。

獣みたいな威圧感。


「残念だったな」


紫煙を吐き出す。


「うちに来訪者なんざ、来ちゃいねえ」


その瞬間。

蒼冥の顔付きが変わった。

まるで鬼だった。

眼光が鋭く細まり、 空気そのものが軋む。


「……用が済んだなら、帰るんだな」


低い声。

その言葉に合わせるように、 鳴海が静かに腰を落とす。


巨大な岩みたいな身体から、 剥き出しの殺気が滲み出る。

同時に、 周囲の武士達も無言のまま構えを取った。


刀へ手を掛ける者。

槍を握り直す者。

弓へ指を添える者。

誰も抜刀はしない。


だが、 その場にいる全員が理解していた。

これ以上踏み込めば、 ただでは済まないと。


ニルヴァート・キールは、 そんな空気すら楽しむように目を細める。

そして。

突然、 腹を抱えるように笑い出した。


「ワッハッハッハ!!」


豪快な笑い声。

だが、 その瞳だけは冷え切っている。


「こりゃあ、私達も無事では済まなくなりそうですね!」


肩を竦める。


「なら、今日はひとまず帰るとしましょう」


そう言って、 踵を返しかけた――その瞬間。

ニルヴァートは、 振り返らないまま小さく呟く。


「……次会う時に、怪しい事があったら」


その瞬間。

ボゥッ――。

男の身体から、 紅蓮を思わせる炎のような何かが噴き上がった。

熱ではない。

もっと禍々しい、 圧だけを持った力。


「只では済まないですからね」


静かな声。

だが、 その場にいた誰もが本能的に理解した。

この男は、 本当にやる。


やがて。

第七騎士団は、 統率された動きで城下町を後にしていく。

軍靴の音だけが、 静かに遠ざかっていった。

蒼冥は、 その背中を無言で睨み続ける。

煙草の火だけが、 暗く赤く揺れていた。


やがて。

蒼冥が低く呟く。


「……鳴海よ」


鳴海が横目を向ける。

蒼冥は、 遥か第六地区の方角を見据えたままだった。


「あいつらが動いたってことは……」


短く煙を吐く。


「……喜一達、無事ならいいんだがな」


鳴海は静かに頷いた。

その視線もまた、 遥か彼方――第六地区へ向けられていた。


不穏な風だけが、 静かに城下町を吹き抜けていく。



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