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コールドノヴァ~void〜  作者: 鯖虎
序章 新たなる世界
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第十五話 決意


第0地区 日出地区



巌流城


不知火王都


大将軍が構える難攻不落の要塞城


――ドクン。


胸の奥の“星”が、 静かに脈打った。

その鼓動に呼応するように、 視界の奥で赤い光景が揺らぐ。


崩れ落ちる研究所。

裂ける空。

世界そのものを呑み込むように広がっていく、 あの赤い光。


そして――

その中心に立っていた男。


白髪。

左目を走る古傷。

常識を超えた圧倒的存在感。

まるで、 時代そのものを背負って立つような男だった。


「……ファンドレア・グラントス」


その名を口にした瞬間。

広間の空気が凍りついた。


鳴海の眉がぴくりと動く。

峰光の細い目が鋭く細められる。

壁へ寄りかかっていた宗次郎でさえ、 僅かに身体を起こした。


だが。

蒼冥だけは、 何も言わずにこちらを見つめていた。


静かに。

じっと。

その眼は、 俺の言葉の真偽を測っているようだった。


「お前……今、なんつった」


鳴海の低い声が落ちる。

俺は喉の渇きを感じながら、 ゆっくりと言葉を続けた。


「グラントスです。  白髪で、左目に傷があって……  “天騎士”って名乗ってた」


言葉にしながら、 自分でも現実味がなかった。

だが、 あの男の姿だけは鮮明に焼き付いている。

忘れようがなかった。


「あの人が現れて、怪物を倒して……」


脳裏に浮かぶ。

圧倒的だった。

まるで、 人間じゃなかった。


「その後、世界中で赤い光が出て…… 俺はここに飛ばされた」


「飛ばされた?」


鳴海が低く問う。

俺は頷いた。


「たぶん…… 時間を越えたんだと思います」


静寂。

その言葉は、 広間の空気へ重く沈んだ。

タイムリープ。

簡単に言えばそうなのかもしれない。


だが。

俺が見たものは、そんな軽い言葉で片づけられるものじゃなかった。

世界が軋み、 空間が裂け、 時間そのものに呑み込まれていく感覚。

あれは、 “移動”なんて生易しいものじゃない。

世界そのものが、 壊れていた。


峰光が静かに口を開く。


「ファンドレア・グラントス……  天騎士の名は、  倭ノ国にも伝承として残っています」


「伝承……?」


「世界を守った最強の盾。時を操った英雄。神に最も近づいた人間」


峰光の声音には、 僅かな緊張が混じっていた。


「そう語られています」


蒼冥が煙草へ火をつける。

紫煙が、 夜風にゆっくり流れていく。


「だがな、坊主」


低い声。


「そいつは昔話だ」


静寂。


「死んだ英雄が突然現れて、お前をここへ飛ばした。  そんな話をそのまま信じろって方が無理がある」


「でも、俺は見たんです」


思わず強く言い返していた。


「あの人は確かにいた。俺を助けたんです」


蒼冥は短く煙を吐く。


「分かってる」


その声は低かった。

重い声だった。


「だから厄介なんだ」


誰も答えを持っていない。

グラントスは何者なのか。

なぜ俺の前に現れたのか。

なぜ俺はこの時代へ来たのか。

ニコレッタ所長たちはどうなったのか。


疑問だけが、 胸の中で増えていく。

峰光が一歩前へ出る。


「この件について、我々だけで判断するのは危険です」


「だろうな」


蒼冥は街の遥か向こうへ視線を向けた。


「第零地区へ行け」


その言葉に、 鳴海が僅かに目を見開いた。


「王都へ、ですか」


「ああ」


蒼冥は短く答える。


「不知火王都。  巌流城」


その名が発せられた瞬間、 空気そのものが張り詰めたように感じた。


「倭ノ国の中心だ。古い記録も、昔を知る奴らも、  全部あそこに集まってる」


峰光が静かに頷く。


「アルハルド事件以後の記録も、最も多く保管されているはずです」


「アルハルド事件……」


俺が呟くと、 蒼冥がこちらを見る。


「お前の時代が壊れた始まりだ」


その一言で、 喉が詰まった。

胸の奥が重く沈む。


「そこに行けば……  分かるんですか」


蒼冥は即答しなかった。

ただ、 真っ直ぐこちらを見る。

その眼だけで分かった。


――甘い答えなんて無い。


「分かるかもしれねぇ」


低い声。


「だが、行かなきゃ何も始まらねぇ」


夜風が吹き抜ける。

蒼冥は続けた。


「倭ノ王、 安須森義継」


その名が落ちた瞬間、 宗次郎の表情が引き締まった。


「今の倭ノ国を束ねる大将軍だ。あの男なら、グラントスの名にも、お前が来た理由にも、何か心当たりがあるかもしれねぇ」


安須森義継。

倭ノ王。

この国の頂点。


そこまで話が大きくなっている事実に、 現実感が薄れていく。


「第零地区は遠い」


宗次郎が静かに口を開く。


「途中には外道も怪物もいる。安全な道など存在しない」


「だから護衛をつける」


蒼冥が振り返る。


「宗次郎。 お前が付いて行って王都まで案内しろ」


宗次郎は一瞬だけ目を伏せ、 すぐに頷いた。


「承知」


鳴海が口を開く。


「総長、俺も――」


「お前は残れ」


蒼冥の声が遮る。


「第七地区はまだ荒れてる。  今夜みてぇな襲撃が、  また来ねぇ保証はねぇ」


鳴海は不満げに奥歯を噛む。

だが、 すぐに頭を下げた。


「……御意」


峰光が静かに俺を見る。


「日陰殿。王都へ向かえば、あなたの存在は確実に国の中枢へ知られることになります」


「……それって、危ないってことですか」


「ええ」


峰光は隠さなかった。


「あなたは旧時代から来た者であり、未知の力を宿している。保護される可能性もあれば、利用される可能性もある」


胸が重くなる。

だが。

ここで止まっていても、 何も分からない。

ニコレッタ所長の安否も。

グラントスの真意も。

俺がこの世界へ来た理由も。

全部。


俺は拳を握った。


「行きます」


驚くほど、 声は震えていなかった。


「真相を知りたい。元の時代に戻れるなら戻りたい」


そして。

自然と、 次の言葉が出た。


「……ニコレッタ所長たちも探したい」


蒼冥が僅かに笑う。

荒っぽい笑みだった。

だが、 どこか温かかった。


「いい目になったじゃねぇか」


夜明け前の風が吹く。


「第零地区。 日出地区。 不知火王都――巌流城」


蒼冥は夜の彼方を見据える。


「そこに倭ノ王がいる」


遠く、 黒い森の向こう。

夜明け前の空に、 薄い光が滲み始めていた。


それはまるで。

失われた世界の果てへ続く、 一本の道標のようだった。


俺はその光を見つめる。

この世界に来て、 初めて思った。


逃げるだけじゃ駄目だ。

知らなきゃいけない。

進まなきゃいけない。

グラントスが何をしたのか。

俺がなぜ生きているのか。


そして。

この荒廃した世界で、 何が待っているのか。


すべてを知るために――

俺たちは、 倭ノ国の王都へ向かうことになった。



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