第十二話 寅ノ王
寅ノ王
ソウメイ アラヨシ
蒼冥 荒義
身長220cm
体重130kg
好きなこと 宴
嫌いなこと 仁義外れ
――グォォォォォォォ……!!
咆哮。それは一体じゃなかった。
夜の森全体が、 唸っている。
城壁の向こう。 霧の奥。
無数の“赤い目”が揺れていた。
「……嘘だろ……」
息が詰まる。一つや二つじゃない。数十。
いや――もっとだ。
城壁上の兵たちが叫ぶ。
「北西部にも反応!!」 「第三門閉鎖急げ!!」 「侵入個体確認!!」
直後。
――ドゴォォン!!
外壁が揺れた。
巨大な衝撃。石壁に亀裂が走る。
「押し返せぇぇ!!」
武士たちが一斉に火器を構える。
赤い鉱石を埋め込んだ銃口が、 夜の闇へ向けられた。
次の瞬間。
――バァンッ!!
轟音。赤い閃光。火線が森を裂く。
怪物の一体が吹き飛ぶ。
だが。止まらない。
黒い影の群れが、 城壁へ一斉に押し寄せてきた。
速い。
異常な速度で壁を駆け上がる。
「ッ、来るぞ!!」
兵士の叫び。
瞬く間に
怪物の一体が、 城壁を飛び越えた。
「ぎゃあああッ!!」
悲鳴。
兵士の身体が吹き飛ぶ。
血飛沫。
さらに二体、三体。
次々と城内へ侵入してくる。
「チッ……!」
宗次郎が刀を構える。
赤い粒子が刃へ纏う。
だが。
多すぎる。
完全に数で押されていた。
怪物たちが咆哮を上げながら、 一斉にこちらへ向く。
赤い目。
飢えた獣みたいな殺気。
「……ッ!」
足が竦む。
その時だった。
――ズシン。
空気が、揺れた。
重い。
まるで巨大な獣が現れたみたいな圧迫感。
怪物たちの動きが止まる。
次の瞬間。
――ドォンッ!!
轟音。
一体の怪物が、 真横へ吹き飛んだ。
石壁へ激突。
身体が潰れる。
何が起きたのか理解する前に、 もう一体が宙を舞った。
「……え?」
人影。
ゆっくりと、 煙の向こうから現れる。
長い外套。鋭い眼光。
逆立った銀混じりの黒髪。
肩には、 巨大な長ドス。
男は煙草を咥えたまま、 怪物たちを見渡した。
そして。
低く笑う。
「……夜中に騒がしいと思やァ、 随分と増えたじゃねえか」
空気が変わった。
周囲の兵たちが、 一斉に目を見開く。
「総長……!」
「蒼冥さんだ!!」
総長?
その男は、 ゆっくり長ドスを抜いた。
――赤黒く闇夜に光る刀身。
刃が抜かれた瞬間。
ズンッ――と、 地面が沈む。
凄まじい威圧感。
怪物たちが本能的に後退した。
「……なんだ、あいつ……」
思わず呟く。
宗次郎が小さく息を吐いた。
「二代目冥合会総長。 “寅ノ王” 蒼冥荒義だ」
蒼冥は肩を鳴らしながら、 怪物の群れを睨む。
その眼だけで、 空気が張り詰めた。
「おいおい…… 俺ァ今日は酒飲んで寝る予定だったんだが?」
怪物が咆哮を上げる。
一斉に飛びかかった。
だが。
蒼冥は動かない。
ただ。
長ドスを横へ振った。
――ブンッ。
風圧。
次の瞬間。
最前列の怪物たちが、 まとめて吹き飛んだ。
「……は?」
違う。
“斬った”。
なのに。
斬撃が見えなかった。
数体の怪物が、 遅れて崩れ落ちる。
切断面から黒い血が噴き出した。
蒼冥は煙草を咥え直す。
「ノロい」
その言葉と同時に
消えた。
「ッ!?」
速い!!!
いや、 デカい身体でなんでそんな動けるんだ!?
怪物の群れへ突っ込む。
――ドォン!!
一撃。
長ドスが怪物の胴を叩き潰す。
そのまま回転。
二体目を両断。
三体目の顔面を踏み砕く。
圧倒的。
まるで暴風だった。
怪物たちが襲いかかる。
だが。蒼冥は止まらない。
「オラァ!!」
轟音。
長ドスが振るわれる度、 怪物が吹き飛ぶ。
石畳が砕ける。
地面が陥没する。
一体が背後から飛びかかる。
だが蒼冥は振り向きもしない。
「甘ぇ」
肘打ち。
怪物の頭部が潰れた。
黒い血が飛び散る。
さらに二体。
三体。
群れ。
なのに。
押されているのは怪物側だった。
「す、すげぇ……」
言葉を失う。
宗次郎ですら、 目を細めていた。
「相変わらず化け物だな、あの人は……」
蒼冥は長ドスを肩へ担ぎ、 怪物たちを睨む。
その姿はまるで。
戦場に立つ“鬼”。
怪物たちが、 初めて怯んだ。
本能で理解したんだ。
――こいつには勝てない。
蒼冥は獰猛に笑う。
「来いよ、化け物共」
夜風が吹く。
「この第七地区ァ…… 俺の縄張りだ」
その瞳は猛々しく燃え盛っている。




