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第二十三話:冬の休日


 二月の朝は、起きる前から寒さが分かる。


 窓の外では、雪が降っていた。

 積もるほどではないが、屋根や路面が薄く白くなっている。


 栞(しおり)は厚手のニットの上にコートを羽織り、マフラーを巻いた。

 ニット帽を被り、手袋をはめる。

 玄関でブーツの紐を結び、外へ出た。

 雪を踏む音がした。

 きゅ、という乾いた音が、静かな住宅街に小さく響く。

 商店街のアーケードまで歩く。

 アーケードの屋根が、雪を遮っていた。

 外は白いのに、ここだけ別の空気が流れている。



 服屋の前で、栞は少し立ち止まった。

 ウィンドウの中に、春物が並び始めていた。

 まだ二月だというのに、色が明るい。

 店に入る。

 しばらく棚を眺める。

 何かを手に取り、また戻す。

 それからレジへ向かった。

 店を出るとき、小さな紙袋を下げていた。



 古本屋は、アーケードの奥の方にあった。

 ガラス戸を引くと、古い紙の匂いがした。

 栞は棚の間をゆっくりと歩いた。

 図書館とは違う並び方で、本が積まれている。

 誰かが読んで、手放した本たちだ。

 一冊、手に取る。

 ページをめくる。

 前の持ち主が、端を少し折っていた。

 栞はその折り目を、指先でそっと伸ばした。

 結局、二冊だけ買った。


 店を出るとき、古本屋の壁に貼られた紙が目に入った。

 演劇の公演チラシだった。

 小さな劇団の、小さな公演。

 脚本家の名前が、そこにあった。

 栞はそれを、数秒だけ見た。

 それから、視線を外した。



 カフェは古本屋から少し歩いたところにあった。

 木の扉を開けると、暖かい空気に包まれた。

 窓際の席に座る。

 アーケードの外、雪がまだ降り続いている。

 ホットココアを頼んだ。

 運ばれてきたカップを両手で包む。

 温かさが、手袋を取ったばかりの指先に染みた。


 古本屋で買った一冊を開く。

 ページをめくる音が、店内の静けさに混じる。


 窓の外では、アーケードを行き来する人の足音が聞こえる。

 雪を踏む音が、遠くなったり近くなったりする。


 ココアを一口飲む。

 甘さが、ゆっくりと広がった。


 本を読み続ける。

 時間が、静かに過ぎていった。



 帰り道、雪はやんでいた。

 アーケードを出ると、空が少しだけ明るくなっていた。

 雪を踏む音がする。

 行きと同じ音だったが、紙袋と古本の重みが加わっていた。

 白い息が、空気に溶けていく。

 鼻の先が、また少し赤くなっていた。


 栞はマフラーを少しだけ上に引き上げ、歩き続けた。


お読みいただきありがとうございます!


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