第98話 夢の試練 4
※小林ナユタ視点
場面は変わり気づくと、高校生になっているようだった。
念願だった、冒険者高等高校に私は入れたよ。
条件として、冒険で稼いだ内の8割を家に入れることを条件に、ね。
別にそれが"凄く嫌だった"わけじゃないけど、普通娘が頑張って入った学校のことを喜んでくれるもんじゃないの?私はそれをお母さんに期待していたよ。
もういいや…。
お母さんもきっと今は余裕がないだけなのだろう。
1年生でも冒険に出ればある程度は稼げる……コンビニバイトと同じくらいには。
擦り傷程度はいいけど、大怪我だけは何としても避けないといけない、お金が余計にかかっちゃうからね。
だから、私はそこまで深く冒険に行くことはできなかった。
「……お金、貯まってきたかな。」
銀行通帳を見ながら、呟く。
「……でも、ほぼ家のお金になっちゃうんだよなぁ。」
それが当たり前だと思っていた。
だって、それが受験の条件だったから。
思っていたけれど、時々、考えてしまうんだ。
「……自分のために、一回だけでも思いっきり使ってみたい。」
スマホを見ると友達のSNSを見えてしまう。
可愛い服を着ている写真、遊びに行った写真、美味しいご飯を食べている写真、恋人とのストーリー、みんな、みんながとてもキラキラと輝いている様に私には見えた。
「……いいなぁ、みんな。とても可愛いなぁ。」
中学校の時みたいに言葉が漏れ出てしまう。
「……私も、行きたいよ。」
心の声を呟いた。
でもすぐに、打ち消してしまう。
「……でも、私には無理だよね。」
我慢しなきゃ。
「……家族のために働かないと。」
……我慢、しなきゃ。
でも、打ち消しても、打ち消しても、どんなに打ち消しても消えてくれない。
――……本当は、本当はっ!私だってもっと自由でいたかったのにっ!
家族《重荷》が私の自由の邪魔をするんだっ!
誰にも言えなかった言葉が、夢の中で露出してしまう。
「……本当は、好きなことをしたかったよ。」「……本当は、我慢なんてしたくなかったんだ。」「……本当はっ。」
「本当は?全部やりたかったんじゃないの?もっと、自由になりなよ?」
声が聞こえ振り返った。
誰かが、確かにそこにはいた。
そこにはいたのは、大人の【私】だった。
冒険者の装備を着た今の【私】が、そこにいた。
「……わ、【私】?」
今自分の意識がある私の手を見ると、また子供時代の身体に戻っており手の平がとても小さくなっていた。
でも、そんなことはいい。
殺気の言葉は聞き捨てならない。
「……自由って何?」
自分に位正直になってもいいよね?
我慢なんてしなくてもいいよね?
だって、自分なんだもん。
「冒険者って自由になるためになるんじゃなかった?」
そうだった…。
動画を見て冒険者のその在り方に憧れた。
自分の好きなダンジョンへ行き、自分の好きな仲間と冒険に繰り出す…そんな冒険者に。
「でも、今の私は?」
目の前にいる大人の【私】は優しく笑った。
「お金を稼いで家に入れてまた、ダンジョンへ行って、またお金を稼いで…ただ、それだけ。」
言葉が、胸に刺さる。
自分自身の言葉だからこそより深く私の心を抉る。
「……違う。」
私は首を強く振った。
「……家族を支えるのは、嫌なわけじゃないんだよ…。」
「もちろんだよ。」
目の前の大人の【私】は否定してこなかった。
あるいは、私は【私】に自分の言葉を否定して欲しかったのかもしれない…。
「でも――」
【私】が一歩近付いてくる。
「支えることと、自分を犠牲にすることは違うよ。」
「……。」
「ナユタ。」
【私】に名前を呼ばれた。
自分自身に名前を呼ばれると何とも不思議な感覚に陥ってしまう。
「あなた、一度でも自分のためにお金を使ったことはある?」
「……っ。」
ないよっ!
そんなよゆうはなかった。
「欲しい服を買ったことは?」
「……っっ。」
あるわけないっ!
わたしはいえにおかねをいれなきゃいけなかったんだからっ!
「友達と遊んだことは?」
「……っっ。」
そんなじかんなんてないっ!
おとうとたちのめんどうはだれがみるのっ!
「恋をしたことは?」
「……っっ。」
わたしのことをすきになってくれるひとなんてあらわれなかったよ……。
「青春を謳歌したことはある?」
一つも……。
一つも答えられない。
だって、一つも私は経験したことが無いのだから。
そこで、ハッと気づいてしまう。
私が、私がっ――
「違うっ……。」
私は小さく呟く。
「私は……家族が嫌いなんじゃない。」
「うん、知っているよ。【私】なんだから。」
「でも、全部我慢するのが正しいとも思えない…。」
大人の【私】は、少しだけ悲しそうに笑った。
「じゃあ、どうして我慢してるの?」
「……。」
「家族のため?」
「……。」
「それとも自分が"いい子"でいたいだけ?」
光が、滲み始めた。
まだ、夢は続いていていく。
暗闇の中で、光が少しずつ広がっていった。
試練は、まだ終わっていなかったようだ。
――本当に陰湿な試練じゃな…。
――ふふふ、ジメジメしてて最高なのだわぁ?
――黙れ、アホ垂れっ!
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