第99話 閑話 竜ケ崎マサトの誓い 前
※竜ケ崎マサト視点
渋谷ダンジョンの門を潜り抜け光が、唐突に目の前で弾けた。
気づくと、草原の上に俺たちは立っていた。
広い草原で、空が見え日本とは違うだなって思い少しだけテンションが上がっちまう。
二つの太陽が輝く空がどこまでも続く空とても長閑な空気が頬をなでる。
「……ここが、アルカディア、ですか。」
佐藤の声が、隣から聞こえた。
「……そう、ここがアルカディアだよっ。帰ってこれたんだっ、うちはっ。」
白川先輩はそう言ってが顔を俯かせている。
まぁ、確かにずっと帰れないと思っていた自分の世界に帰ってきたら感慨深いよな…。
「神崎さんは?」
「……ここにいます。」
神崎さんが、草原に膝をついたまま立ち上がった。
やや、ふらついており足元が覚束ない様子だな。
「……転移酔いと言えばいいですかね。少し、頭が。」
「初めての転移は体に負担がかかるのかもしれない。少し待ちましょう。」
マサトは、全員の顔を確認行う。
佐藤さん、神崎さん、白川先輩……。
……ん?
佐藤さん、神崎さん、白川先輩……。
……っんんん?
佐藤さん、神崎さん、白川先輩――
「……アルトは?」
いなかった。
返事が返ってこない。
「……ナユタは?」
いなかった。
声も聞こえない。
草原を、360度見回したけど、どこにも見当たらない。サァーっと血の気が引いていく。
「……っ!?」
「……田中さんと小林さんが、いません。」
神崎さんが、静かに確認するかのように口にしていた。言われなくたって俺にもわかってるっ。
「……転移の際にはぐれた可能性があります。」
佐藤さんが、眉を寄せた。
「アルカディアのどこかには、いるとは思うのですが。」
「どこかってっ!?」
俺の声が、硬くなっていくのを自分でも分かった。
だが、この状況で焦らない方がおかしいだろっ!?
アルトたちにとってここは、未開の地なんだぞっ!?
「この世界はどれだけの広さがありますか?」
「……広いよ。少なくとも地球と同じくらいには。」
「じゃあ、早く探しに行かないとだろっ!?」
「そうですが、闇雲に動いても――」
「じっとしていられるかっ!!!!」
俺は、草原の先を見た。
どこまでも、草が続いている。
アルトも、ナユタも、どこに行っちまったんだ…。
「……っ!」
その瞬間、昔の記憶がフラッシュバックする。
◇
あれは、10歳の頃だった。
竜ケ崎の道場から帰る道だった。
時刻は夕方で、空が赤かったのを今も覚えている。
俺の隣には同門の友人がいたんだ。
歳は俺よりも一つ年上で、同じ道場に通っている同世代はそいつだけだった。
だからか気づいたら、自然と仲良くなっていたんだよな…。
道場の稽古ではいつも俺の方が上だった。
先生にも、才能があると言われていて少しだけだが、天狗になっていた。
「今日の型、竜ケ崎はまた先生に褒められてたなぁ。」
友人が、笑いながら言った。
当たり前だろ?だって、俺には才能があるんだからなっ!
「……お前だって、うまくなってるだろ?」
「俺はそんなに才能ないから。でも、一緒に稽古できるのは楽しいよ。」
友人は、よく笑う奴だった。
道場でもいつも笑っていた。
訓練でまけても帰り道で、そう…よく笑うそんな奴だったんだ。
そんな時だったんだ――
音が聞こえ地面が、揺れたんだ。
「……っ、何だっ!」
次の瞬間、路地の奥から、魔物が現れた。
一体どころない魔物の大群が目の前に現れたと当時の俺には見えていたんだ。
あれがスタンピードだと、後で聞いた…。
D災害や大規模なスタンピートとは違い小規模のスタンピードだったとけど、あれはスタンピートなのだと確かにそう聞いた。
でも、その時の俺には、それが全然関係なかった。
ただ、大きくて、異形で、今まで見たことのないような存在が、目の前にいきなり現れたんだ…。
「……っあ、あ。」
気付くと足が、動かなくなっていたんだよ。
道場で何百回と魔物との戦いを想定した動きをしてきたし、先生に褒められるくらい、動けるはずだった。
なのに――
当時の俺の足は、まったくと言っていいほど動かなかったんだ。
「竜ケ崎っ!」
友人が、叫んだ。
「下がれっ!」
友人が、前に出た。
俺より背が低くて、俺より細くて、道場の稽古ではいつも俺の方が上だったはずの友人が、俺の前……魔物の前に出たんだ…。
「……っ、お前、なんで。」
「早く離れろっ!俺が引き付けるっ!」
「でも――」
「行けよっ!」
友人が、魔物に向かっていくのを俺は友人の背中の後ろから黙って見ていることしかできない。
だって、俺はまだ動けなかったから。
足が、地面に縫い付けられたみたいに、動かなかったんだ。
友人が、魔物の攻撃を躱し反撃していた。
やったっ!!魔物が一体倒したぞっ!!
しかし、複数を相手にするのは、子供でしかない友人には限界があった。
みるみる内に追い詰められていってしまったんだ。
「……竜ケ崎っ!」
友人が、こちらを見た。
「逃げろっ!大人を連れてこいっ!早くっ!」
その声で、足がやっと動くようになっていた。
俺は走ったさ。
それも全力で、走ったさ…。
走りながらでも、後ろを振り返りたかった。
だけど、見れなかったんだ。
見たら、止まってしまう、そんな気がしたから。
走り続け偶然にも、同門の大人を見つけることが出来たんだ。
――……。
――気にしなくてもいいのに。
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