第94話 夢の試練 前夜
僕たちが連れてこられたのは、他の小屋とは違い地面に設置されているものだった。
それも集落の端に位置する、小さな小屋…というより物置のような気もする。
壁の隙間から見える景色は、深い森、碧色の空に、見たことのない星が瞬いており日本とは違う星座がそこにはあった。
木を落ち着かせるために僕と小林さんは小屋の隙間から星空を眺める。
「……アルカディアの夜って、きれいだね。」
「そうだね。」
「こんな状況じゃなかったら、もっと楽しめたんだけど。」
「……本当に、ごめんなさい。こんなことになるなんて。」
「大丈夫だよ?一人じゃないもん。何だかキャンプしているみたいで少しだけ楽しいし。」
小林さんが、振り返った。
「それに、アルト君が謝ることじゃないから。」
「でも――」
「私、自分の意志でここにいるんだよ?」
小林さんが、僕の隣に腰を下ろす。
小林さんの顔はいつもみたいな笑顔ではなく、とても真剣な真っすぐな瞳で僕を見つめる。
「友達…アルト君が困っていたから、私は助けに行ったし、ここにいるんだよ。それなら、謝られるより、ありがとう、って言って欲しいかな?」
「……小林さん、その、ありがとう。」
「んっ。」
その言葉を最後にしばらく、二人で黙り込んでしまう。
……。
そういえば、僕って同世代の女の子とお泊りは初めてだ。
こんなことを考えている状況ではないけど、近くにいる小林さんをどうしても意識してしまう。
よく見なくても小林さんって可愛いし…。
一人で悶々としていると小林さんが話しかけてきた。
「族長さんが試練って言っていたんだよね?明日の試練って、どんなものだと思う?」
そうか。
小林さんは族長さんの言葉が分からないんだった。
「……族長さんが言うには、僕たちの弱さを見る試練って言ってたよ。」
「弱さ?」
「エルフの人たちは心の弱い人を信じられないんだって。」
「……それって、少しだけ可哀想だね。」
「……えっ?」
可哀想?どうしてだろうか。
「だって、要は人を最初から信じることができないってことでしょ?ずっと人を疑い続けるなんて疲れちゃうよ。」
「……小林さんって優しんだね。」
小林さんが、膝を抱えた。
上目遣いでこちらも見る。
「……えへへ、そうかな?でもそう言ってくれると何だかうれしくなっちゃうなぁ。」
なんだろう、少しドキドキする…。
でも、不思議とこの動悸は嫌じゃなかった。
「……明日どんなことがあっても小林さんだけは、守ってみせる。」
「ダメだよ?私だけ助かっても意味がないよ、二人で頑張ろ?」
独り言のつもりがどうやら聞こえてしまっていたらしい。恥ずかしすぎるんだが……。
「う、うん!」
「そういえば、あの時も――」
こうして、小林さんとの話は夜遅くまで続き気づいたら僕たちは眠りについていた。
◇
ちゅんちゅんちゅん
翌朝、壁の隙間から朝日で目を覚ますと扉から…
トントントン
ノックされて身を起こすと族長が僕たちを迎えに来たようだった。
こっちでもノックは3回なのか…。
いや、特に変って訳じゃないけど…。
「おはよう。……その様子だとよく眠れたようだな。では試練の間へ向かう。」
やや呆れた様子の族長はそれだけ言って、僕たちの前を歩き集落の奥へと先導する。
案内された場所は意外にも近場で、集落の中で一番大きな木がある広場だった。
大きな木の根元には、石造りの扉があり扉の表面に、碑文が刻まれていた。
「……これは?」
「エルフ族が代々守ってきたダンジョンだ。試練の間と我々は呼んでいる。」
族長が、扉に手を当てた。
「この中に入れば、それぞれの心の深層意識の夢に落ちる。夢の中で自分と向き合い、乗り越えられれば目が覚めるだろう。」
「……乗り越えられなかった場合は?」
「夢の中に閉じ込められ、永遠の眠りへと誘われるだろうさ。」
「……永遠の眠りって。」
やや言い回したような物言いに声が出てしまった。
要は死んでしまうということことなのだろう。
「……怖いなら、逃げてもいい。ただ、逃げた者を我々は容赦しない。」
失敗しても、死。
逃げ出しても、死。
いや、ワンチャン僕だけなら逃げ切ることもできたかもしれない。
でも、小林さんを置いていくわけにもいかない。
僕たちには、選択肢など無いに等しかった。
族長が、こちらを見た。
昨日はやや暗くてはっきり見えなかったけど、エルフの人たち全員に言えることだけど、とんでもない美人だこの人。
そんな美人が僕たち見て薄く笑い告げる。
「お前たちが信じれる友であることを我々に証明してくれ。」
ほぼ殺害予告のようなことをしておいて何が、友、だよ…。
友達ってそんなものじゃないでしょ…。
これがエルフというものなのだろうか?
「……分かりました。」
「……試練の間には二人同時に入って貰うが、試練の間では各々の夢の世界に閉じ込められる故一人で試練を乗り越えてもらう必要がある。」
大事な情報は早く言って欲しかった…。
小林さんが、僕を見た。
すでにエルフたちに囲まれてしまっている僕たちは頷きあい祠へと足を進める。
「行こう、アルト君。」
「行こう、小林さん。」
扉が、開かれておりそのまま中へと進んでいく。
中は、暗く、明かりもないため足元が覚束ない。
「……っ!?」
広間らしき場所に一歩踏み込んだ瞬間に、空気が変わった。
ダンジョン特有の、重い魔力だ。
しかも、地球よりも数段重い…っ!
「……進もう。」
「……っう、うん。」
広間の中心へとたどり着くと脳内に言葉が聞こ、え…て――
――汝、己が心の最奥に眠る傷と相対する覚悟はありや……?
――逃れし過去は夢となり、忘れし痛みは現となる……
――これを越えし者にのみ、精霊の導きを授けられん……
――……されば、夢へ赴くがよい……
気付けば視界は既に暗転しており僕も小林さんもその場で倒れこんでしまっていた。
な、に…が……。
――アルトぉ、族長を人質にして逃げ出せばよいものを…。
――それはだぁめ、それだとこの子が堕……。
――それ以上言ってはならんっっ!
――…ふふふ。
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