第93話 エルフの集落と族長
エルフの集落は、森の更に奥深くにあった。
木の上には、家が作られており、巨大な木の枝の上に、複数の建物が連なっていた。
縄梯子で上がる仕組みになっていて、高さは地面から10メートル以上あった。
「……すごい。」
小林さんが、上を見上げながら言った。
「高所に集落を作っているんだね。」
「……多分これは、人間に襲われにくくするためだと思う。」
「……。」
そうだ今は種族間で戦争をしているんだ。
戦争を知らない僕たちが何かしらの問題発言をしてしまう可能性がある出来る限り黙っていた方がきっといい。
小林さんも理解したのか静かに周りを見渡していた。
僕たちはエルフさんの案内で、縄梯子を上っていく。
集落の中は、静かだった。
だが、僕たちの姿を見たエルフたちが、次々と立ち止まった。
そして、アルディスと同じ反応をした。
「……アルディス様だっ!?」「っ若返っているっ!?」「どうやってっ!?」「お戻りになったのかっ!?」
ざわめきが広がった。
子供のエルフが、こちらを物珍しそうに見ていた。
老いたエルフが、目に涙を浮かべていた。
「……みんな、アルディス様を待っていたんですよ。」
「……そのようですね。」
「……僕は、この集落のエルフたちにとって何なんですか?」
「私達にとってアルディス様ですか?……同胞と言っても差し支えない友、と言ったところですかね。」
頭の奥のアルディスが、少し間を置いて僕に語り掛けてくる。
――……昔、助けたことがあるんだよ。
魔獣王討伐の戦闘が激しかった頃、このエルフたちの集落が人間に攻められていたんだ。
たまたま近くにいた僕が間に入って、止めただけなのに。
ただそれだけなのにここまで思ってくれていたなんて…。。
こんなに思って頂けるなんてとても情に厚い方々なんだね。
――あぁ、そうだね。
エルフは、恩には恩を返す種族だ。
でもね?仇には仇を返す種族でもあるんだ。
有人、忘れてはいけないよ?
……うん。
わかったよ、僕も嘘はついてしまったけど出来る限りこの人たちを傷つけたくない、そう思えるよ。
――そうだね。
アルディスが少し笑っている。
そんな気がした。
案内されたのは、集落の中で一番大きな建物だった。
扉の前で、先頭のエルフが立ち止まった。
「族長がお待ちです。」
「……ありがとうございます、分かりました。」
扉が開かれ中には、人がいた。
まだ年若い女性がそこにいた。
長い、深い緑色の髪をしていて、耳は他のエルフより少し丸みを帯びており、目が、深い金色だった。
その目が、こちらを観察するように見ていた。
「……来たか。」
低く、落ち着いた声だった。
族長と聞いていたらてっきりおじいちゃんが出てくるものかと想像していたけど、いや、この落ち着き様もしかしたら漫画やアニメ同様年齢が見た目と一致していないタイプなのかもしれない。
「……お会いできて光栄です。」
「…光栄?」
族長が、眉を上げた。
何か言葉を間違えたっ!?
いや、とりあえず続けよう…。
「……アルディスにそんな言い方をされるとは思わなかった。」
「……事情があって。」
「事情があって、若返って、事情があって言葉も変わった、と?」
族長が、立ち上がった。
背が高かった。
こちらへ、ゆっくり近づいてきた。
「……目を見せろ。」
「……はい。」
族長が、間近で僕の目を見た。
その金色の目が、細くなっていき、しばらく、じっと見つめられる。
じーーーーーーーー
か、顔が近い。
「……魔力の濃さが、違う?」
「……っ!?」
「アルディスの魔力は、深い金紫色だ。お前の魔力は、紫紺だ。」
「……。」
「お前は誰だ?……いや、転生、なの、か?」
族長が、一歩下がった。
「転生して、記憶も完全には戻っていない。だから言葉が変わり、振る舞いも変わった、そういうことか?」
「……そう、です。」
「嘘だな。」
僕は、固まった。
「アルディスではないな、お前は。」
族長が、静かに言った。
途端に額から冷や汗がだらだらと垂れ落ちるの感じる。
「……確かに、アルディスの気配は持っている…だが、アルディスそのものではない。似てはいるし、魔力の質も本物と言って差し支えない。だが、最後に見た時のアルディスと明らかに違う。そして、何より――」
族長が、また一歩近づいた。
「アルディスは、私のことを覚えていれば、最初に名前を呼ぶはずだ。」
「……。」
「お前は一度も、私の名前を呼ばなかった。」
静寂が、この場を支配する。
小林さんはこちらを見ており、どうする?、という視線が僕に突き刺さる。
エルフたちが、警戒の色を取り戻し始めていた。
考えろ、考えろ、考えろっ、打開策を考えなくちゃ――
脳裏にさっきアルディスに言われた言葉を思い出される。
【――あっ、族長に会うときは正直になるんだよ?】
「……正直に、お話します。」
「……初めからそうしろ。」
「……嘘をついてしまい申し訳ありません、僕は、田中アルトという人間です。……その、この世界アルカディアの出身ではありません。アルディスの転生者と最初に言われておりましたが、転生者のなのかもアルディスの記憶が僕に植え付けられている理由も僕には何も分かりません。」
族長が、黙って聞いていた。
「ここに来たのは、事故みたいなものです。探している人がいて、その人の手がかりを探しに来ました。ここにいる理由は、それだけです。」
「……アルディスではないと知っいて、なぜ素直に言わなかった?」
「……殺されると思ったからです。人間とエルフの関係が最悪だと知っていたので、ただの人間だと分かれば、矢が飛んで来ると思いました、それに実際に飛んできました。僕の友達を巻き込みたくなかったんです。」
「……友達、か。」
友達という言葉に反応したようだ。
先程の話からするとアルディスのことを気にかけているのかもしれない。
「……友達というのはその娘のことか?」
「はい。彼女は、僕を心配し僕の為に来てくれた大切な友達なんです。彼女だけは、傷つけないで欲しいです。お願いします、どうか。」
族長が、また僕を見た。
長い間、またじっと見てくる。
目を背けるわけにもいかず僕もじっと族長を見る。
「……正直な人間だ。」
「……ありがとうございます。」
「今時珍しい。人間に、そう思ったのは久方ぶりだ。お前で2人目だよ。」
族長が、僕の後方を見て村のエルフたちに命令を飛ばす。
「もう下がってよい。」
エルフたち若干の戸惑いと僕たちへの猜疑心を残し部屋から出ていき族長と、僕と、小林さんだけになった。
「ふぅ……まぁいい、座れ。話をしよう。」
族長が、椅子を示した。
「……分かりました。」
僕と小林さん促された席に座った。
族長も、僕たちの向かいに座った。
「……アルディスの気配を感じさせる人間が現れたと聞けば、族内が騒ぐのは仕方ない。だが、嘘の上に関係を作る気はない。」
「……はい。」
「ちゃんと正直に話せるなら、話を聞いてやる。何を探しにここに来た。」
「……行方不明の人間を探しています。アルカディアへの門を通って、こちらに来た可能性があります。」
「……名は?」
「神崎トシヒコといいます。研究者です。」
族長が、少し目を細めた。
「……聞いたことがある名だ。」
「……知っていますか。」
「知っているかもしれないし、知らないかもしれない。……お前たちが条件を呑めばちゃんと探してやらん事もない。」
「……条件、ですか?」
族長が、じっと僕を見た。
「……弱さの克服だ。」
弱さ?
何のことを差しているのか全く見当もつかないけど、探してもらえるならばなんだってやってやる。
「……何をすればいいのでしょうか?」
「この森林の中にあるダンジョンに行ってもらう。」
ここまで来てダンジョンか…。
きっと何かしらの意味はあるのだろうけど、正直あまり時間は掛けていられない。
「……申し訳ないのですが、あまり時間が――」
「逃げることは許さぬっ!」
「……っ!?」
すごい剣幕で睨まれ身体が委縮してしまう。
隣を見ると小林さんも身を竦めているようだ。
「……人種に限った話ではないが、弱き者はその弱さゆえに周りを不幸にする。だから、この試練を受けぬ者は村にも入れんし、村の存在を知った者を逃がすわけにもいかぬ。」
「……?」
「まぁ、分からんだろうな。では簡潔に言おう、この試練を受けなければお前たちを殺す。」
「……っ!?」
殺すっ!?さっきまで大丈夫そうだったのに。
そう言った族長は立ち上がり僕の前まで来ると、
「これは、アルディスもやった試練だ。お前も関係者なら逃げるなよ?……では、試練は明日行う、それまでは指定の場所で待機してよ。」
彼女はそう言って彼女は他のエルフたちを呼び寄せ、僕たちを窓もない小さな小屋に押し込むように命じるのだった。
――コヤツ小娘の分際で、アルトの苦労を知らんくせに…っ。
――ふふふ、起こっても仕方ないわぁ。
呪っとくぅ?
――神呪かぁ…いや、いいアルトなら何とかするじゃろ。
面白いと思ったら、レビュー、コメント、フォロー、評価をお願いするのじゃ!
とても、励みになるからの!




