第90話 門の在処
白川グループの社屋を出た時、朝日が昇っていた。
義父さんと義母さんに、メッセージを送った。
『今日は帰れません。心配をかけて、ごめんなさい。』
それだけ送って、スマホをポケットにしまった。
きっと、全部話してしまうとより心配をかけてしまうと思ったから簡潔な文になってしまった。
心の中で、謝った。
帰れなくてごめんなさい。
二人が、どれだけ心配するかを思うと、胸が痛かった。
……でも、今は前に進むしかない。
僕の為に来てくれたリオさんの為にも…。
「……アルディス。」
頭の奥に、語りかけた。
「門の場所、分かるかな?」
しばらく間があった。
――もちろんだよ。渋谷ダンジョンの中にもあるよ。
「渋谷にあるんだ?新宿ではなく。」
――渋谷にも、新宿にも、門はある。ただ、君たちが今いる場所から近いのは渋谷だね。
「案内してもらえる?」
――……わかった。
みんなに情報共有しておいてくれ。
「分かったよ、ありがとう。」
ヒナさんは、僕の隣でアルディスとの会話を聞いていた。
「アルディス陛下、って、今話せるの?」
「少しだけなら。」
僕からって言うよりもアルディスからリンクして貰わないと僕はアルディスと話すことはできないけど。
「……陛下に会えるのかな、いつか。」
「割といつでもこちらを見ている気がしますよ?姿は見えませんけど。」
ヒナさんが、少し目を丸くした。
「……えっ、今ここに?」
「頭の中に。」
「……その、ご挨拶とか…。」
「…………今はできないと思いますよ?」
「……そっかぁ。」
少しだけ嘘をついてしまった。
アルディスおそらくこちらをいつでも見ているから挨拶程度なら問題ない。
でも、ヒナさんが、少し残念そうな顔をしている、そんなヒナさんを見ていると少しむっとしてしまう。
……なんでだろう?
◇
渋谷ダンジョンに入ったのは、夜中だった。
夜間の探索は管理局への届け出が必要だが、今夜はそれどころではなかった。
「……第七層まで行きます。」
「第七層?」
マサトが聞き返してくる。
そうだよね、僕たちはそんな深層まで潜ったことが無いのだから、
「アルディスが、そこに門があると言っていたんだ。【王の回廊】という場所を抜けた先に。」
「王の回廊?」
「聞いたことないですね。」
エミリさんが言った。
「ダンジョンの公式記録には、渋谷の第七層に【王の回廊】なんて地名もそれらしきものも存在しないはずです。」
「存在はしているんだと思います。ただ、誰も見つけられていないだけで。」
「……アルカディアへの場所だから、か。」
マサトが呟いた。
「意志を持って誰かが隠したんだと思うんだ。」
アルディスの案内に従って第一層の壁を触れると僕たちの足元に魔法陣が現れ空中に文字が現れ――
現在第一階層
・第二階層 ←
・第三階層
・第四階層
・第五階層
・第六階層
現在の攻略は第六階層までです。
移動する階層を選択してください。
なんだこれは?
移動できるの?これ?
ってか、なんでアルディスがこんなことを知っているのっ!?
――まだ、今の有人に話すには早いかな。
もうちょっとしたらね。
断られはしなかったから今はアルディスの言うことを受け止める。
皆もこのダンジョン移動システムは初めての様でとても驚いていた。
きっともうこれ以上驚くことはできないくらいに。
第六層を選択し移動すると一瞬で第六層に移動できた。
その後はアルディスが道を示してくれた。
アルディスが示す道は、これまで僕たちが通ったことのない通路で僕たちは言われるがままにその通路を通った。
壁が変わっていた。
第六層から先は古代神殿のような雰囲気だったが、第七層への降り口は、また別の空気を持っていた。
まず石材が、全然違う。
明らかに、ダンジョンの他の場所とは違う石材で作られた通路だった。
「……ここは。」
「【王の回廊】だそうです。」
アルディスの案内で、降り口を抜けると、広い廊下が現れた。
天井が高い。
ちょっと違うけど昭和の建物の作りに少し似ていた。
そして、一番の違いは壁の両面に、びっしりと文字が刻まれていた。
これは碑文だ……。
これまで見てきたどの碑文よりも密度が高く、壁の端から端まで、天井近くから床近くまで、全面に刻まれていた。
「……すごい。」
小林さんが、息を呑んだ。
分かる…ここまで来ると逆に神秘的に感じてしまうよね。
「読めますか?田中さん。」
リオさんが言われ壁の文字を見てみるとやはりここの文字も僕には読めるようだった。
だけど、これ全部は流石に読めないですよ?
「……少しだけ読んでみます。」
壁に近づき文字を追った。
するとまた以前みたいに景色が僕の頭に流れ込んできた。
広い。
とても広い野原が見える。
空が、日本とやや違う違う色をしていて太陽が二つ見えている。
花が、見たことのない花が、一面に咲いていた。
その野原の上で、誰かが笑っていた。
少女だった。
耳が、尖っていた。
この子が物語でよく見る【エルフ】だとすぐに理解出来してしまう。
その少女が、手に何かを持っていた。
それは花冠だった。
花で編んだ冠を、僕の頭に乗せながら、笑っている。
まるで、花が咲いたような笑いだった。
――アルディス様、約束ですよ?
その声が、頭の中に確かに聞こえた。
約束?
何の約束だったのか、僕には分からない。
でも、その声が、どこか懐かしく僕自身がその約束をしているかのような感覚に襲われてしまう。
「……っ。」
意識が、ようやく戻ってきて目の前にはこちらを心配そうに見ているリオさんがいた。
「田中さん、大丈夫ですかっ!?」
「……大丈夫です。」
「また、記憶が?」
「……少しだけ。」
頭の奥で、アルディスが静かにいた。
アルディスの軽口が聞こえてこなかった。
その沈黙が、何かを語っているような気もする。
「……行きましょう。」
とりあえず今は廊下を進もう。
王の回廊は、とても長かった。
壁の碑文も、投下の壁が続く限りずっと続いていた。
途中、リオさんがノートに書き写しながら歩いていた。
「……父もここを見たかったと思います。」
「……きっと、見せてあげられます。」
「……はい。」
――あはぁ、ふふふぅ…もう少しぃ。
――早よ気付けよぉ。
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