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現代冒険者のすゝめ ~高校受験に落ちた僕、冒険者になってみた!~  作者: あっかんべー
第3部:深層と蛙と痛み

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第84話 痛み 3

――紫煌しこうっ!


刃が白川の腕に入り手甲に亀裂が入った。


「……やるね。だけど、私にも覚悟はできているんだよ。」


再び距離が開いた。

白川が、束縛陣を引きちぎった。

エミリさんが舌打ちをした。


「強い、です。」


「…っ、もう一度いけますか、エミリさん。」


「……やります。」


やっぱり一筋縄ではいかないようだ。

エミリさんはもう一度魔法の詠唱を始める。


「❘ᚹᚨᛏᚱ ᛊᛏᚱᛖᚱ《水よ、奔れ。》――水流陣ストリーム・フィールド!」


水の流れが白川を包んでいく。

その瞬間に、マサトが正面から、僕が横から同時に仕掛けた。

白川が、水流を突き破った。


「……舐めるな。」


マサトの拳を右手で受け、僕の短剣を左手で弾いた。

更には同時に両方を押し返した。


「っ!」


二人同時に吹き飛き飛ばされてしまう。


「アルト君!」


小林さんが駆け寄ってきた。


「小林さん…まだ大丈夫、ヒナさんを見つけた時の為にまだ待機をお願い…。」


「……っ。……分かったよ。」


小林さんは手を掛けていた大剣の柄から手を外し後ろに下がっていく。


立ち上がりながら、息を整えた。

白川が、正面に立っていた。

その目に、感情が見える。

この視線あの人と同じだ……。


それに白川は疲れていた。

やはり体内で回している魔力の反発はかなり疲れているようだった。


「……もうやめなさい。」


白川が言った。


「君たちでは、私には勝てないよ。」


「分かっています。」


「では――」


「それでも……それでも、僕は諦めたくないんです。……ヒナさんを解放してください。」


白川の目が、わずかに揺れた。

やっぱり、この反応ヒナさんはこの人と血縁者なのか……。


その時、部屋の奥のドアが開いた。


「……待って。」



声がした。

全員が、そちらを見た。

ヒナさんだった。


「白川先輩!」


マサトが声を上げた。

でも、おかしかった。

ヒナさんの目が、いつもと違った。

冷たく僕の方を見ながら何故か白川の方歩いていき横に立った。


「……君がお父さんが言っていた宿敵さん?」


ヒナさんが言った。

まるで僕のことを知らないかのような物言いに僕は戸惑い言葉に詰まってしまう。


「ひ、ヒナさん?」


「……君がいるとね、うちはママに合うことができないの。だから、大人しく消えてくれないかな?」


「な、な、何を言っているんですか?」


僕の質問への返事がなかった。

これじゃあまるで、僕たちのことを敵だと思っているようじゃないか。


「……白川さん。」


白川を見た。


「……貴方は、ヒナさんに、一体何を、したんですか?」


白川が、少しだけ目を伏せた。


「……スキルによる洗脳を施させてもらったよ。」


洗脳……っ!?

まさかこの人は――


「自分の娘になんてことをしているんだっ!!!!」


「……したくなかったさ。」


こいつは否定をしなかった。

つまりヒナさんとやっぱり親子関係だったようだ…。

それなのに…親なのにこの人は自分の子供を利用した?

僕の両親はこんなことは絶対にしないっ…義両親だってこんなことは考えたりしないっ!

それなのに血のつながった実の娘を?


――許せない…。


白川が、静かに言った。


「……本当に、こんなことをする予定ではなかったさ。だが、あの子はあまりに反抗的だった。田中アルト君、君を庇い、我々の行動を妨害し続けた。このままでは計画が破綻すると判断して、やむを得ず使うしかなかったんだよ。」


リオさんが、息を呑んだ。

ヒナが、無言で間合いを詰めてきた。


速い。

さすがヒナさんだ、と思った。

最初の踏み込みから、体重の乗せ方"は"上手い。


「ヒナさんっ!目を覚ましてくださいっ!僕で――」

「うちは君なんて知らないよっ!ママに合う邪魔をしないでっ!」


「僕たちはヒナさんの敵じゃないですっ!」


「……お父さんが君は、危険と言っていたよ?」


「俺は何もしてません。僕は……ヒナさん貴女の友達です。」


ヒナが、拳を繰り出してきた。

スキルも魔法もなぜか使ってこなかった。

いつもは初めの方で炎系統魔法を使っているのに、だ。

更には、いつものような短剣を用いた戦闘ではなく、野生のような、若しくは、子供のお遊びの様な立ち回りでところどころ隙が生じている。


でも、僕には――


攻撃しなかった。

いや、できなかったのだ…。

洗脳されているとはいえ、ヒナさんを傷つけたくなかった。


「エミリさん、洗脳を解く方法は…。」


「……陣術の範囲外です。すみません。」


「小林さんは?」


「……ごめん。わたし、そういうの、得意じゃなくて…。」


「一緒に動いてください。ヒナさんの動きを止めてほしい。」


「……うん。分かった、やってみる。」


小林さんが、ヒナの横から回り込んだ。

白川は見ているだけで手を出してこないようだ。


ヒナさんの注意が、そちらへ向いた瞬間に、僕は正面へ踏み込み唱える。


――一次解放ファーストオリジン・パージ

――神威解放しんいかいほう


これこそ努力の末に身に着けた奥の手の一つ。

昂った時しか使えないけど、二段階に分けて神威解放を使用する運用法。

簡易的に微弱だけど神威解放を行う方法だ。


第一段階だと神煌は使えないけど、あの技なら使える――


「陽光――【ヴェール】」


薄い日向色の光が僕とヒナさんを包み込み二人だけの空間を作り出す。


太陽光がないため強固とまでは言えないけど、これでヒナさんと向き合える。

そして僕は、ヒナさんの両手首を、掴んだ。


「……っ、放して。」


「ヒナさん。」


「……放して、よぉ。」


ヒナさんは突然涙を流し出した。

それでも洗脳が解けたわけでもなくまだ、抵抗を続けてくる。


でも、僕にできることはこれしかないから…。


「聞こえていますか?僕の声。」


「……聞こえているよ…。辞めてよ、そのまま消えてよ。……君を見ていると何故だか分からないけど、攻撃したくないって頭のどこかで叫んでるんだよっ!!」


洗脳はそこまで強くないのか!?

薄っすらだけどいつものヒナさんの言葉に戻ってきている気がする。


「……なぜですか?」


「……分からないよっ!なんで、君は敵なのに攻撃してこないのっ!?なんで……うちは君に攻撃したくないの……?君を殺さなくちゃママに…ママに会えないのに。」


「……お母さんに会うためにヒナさんは友達を殺すんですか?」


ヒナさんの目が、揺れた。

洗脳の中で、何かが引っかかっているようだ。

ヒナさん…洗脳に勝ってください……っ!


「……とも、だち?」


「ヒナさんは、僕のことをどう思っていますか?」


「……うちは、君を、ある、と君を――」


「ヒナさん……。」


「……守りたかった。」


声が、震えた。


「……守りたかったのに、うちにはなにも、」


「十分守ってくれていました。」


「……っ。」


「ヒナさんのおかげで、ここまで来られました。」


ヒナさんの目から、涙が一粒落ちた。

洗脳が、崩れかけていた。


「……うちは、アルト君の、」


「はい。」


「……敵じゃない。うちは、アルト君の、」


「はい。」


「……友達だよ。」


ヒナの体から、力が抜けていき洗脳が解けていく。

よかった、と思った瞬間だった。


「……やはり、そう簡単にはいかないようだね。」


――よくよく考えると洗脳ってヤバイのじゃ…。

――もう少しもう少し。


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