第83話 痛み 2
白川グループのビルに僕たちは入っていく。
建物に入ると夜間警備員の人が立っており僕はマサト達に言った通りに、受付の警備員に田中アルトだと名乗ると、すぐに最上階へ案内された。
エレベーターを降りると、廊下の奥に重厚なドアがあった。
マサトが隣に並んだ。
エミリさんとリオさんと小林さんが後ろにいる。
大丈夫だ…僕にはみんながいる。
きっと何があったも乗り越えられる。
僕は心の中で覚悟を決めその重厚な扉を開けた。
扉の先には広い部屋が広がっていて僕とは一生縁がないと思えるほど高級そうな嗜好品が飾られていた。
それに正面の窓が大きく、夜の大崎の街が見え無数の光が煌めいていた。
デスクの前に、男が立っており、デスク上のネームプレートには、白川孝之と刻まれていた。
日本人とは思えない整った顔立ちに冷たい目、落ち着いてはいるが品のあるスーツ…パンフレットに載っている写真で見た通りだった。
「……よくここまで来れたね、田中アルト君。西条が倒れたと聞いたよ。クライアントを殴るなんてどうかと思うよ?」
そっちから仕掛けてきたんだろ…。
「……ヒナさんを返してください。」
「それはできない相談だね。」
白川が、静かに言った。
なんだろう過去の落ち着き様は…?
こっちは少人数とはいえ複数人で押しかけているのに…。
「どうしてでしょうか?理由を聞かせてもらえますか?」
「君に対する切り札として、必要だから、かな。」
「……切り札にする必要はないはずです。門は開いています。西条が言っていました本当は帰りたいのでしょう?僕を処分しなくても帰れるはずです。それに僕はアルカディアでしたか?そちらに行くつもりはありません。……放っといて頂けないでしょうか?」
白川の目が、少し動いた。
「……信用できないんだよ。あなたが生きている限り、またあちらの世界が乱れる可能性がある。0.1%でも可能性があるなら私たちはその可能性を排除しなくてはいけない。それにね――」
「それに…何ですか?」
「我々はこちらの世界にも進出を考えているんだよ。」
こちらの世界にも進出…?
それは……侵略というやつなのでは……。
白川が、一歩前へ出た。
「王がいなくなった世界で、各種族は結局再び争いを始めてしまったんだよ。王がいた時より、もっと酷い形で。これでは種族の象徴であった陛下がいた方がまだましだった。特に種族的に弱い人族は追い詰められた……。連絡を取る内に一人、また一人と仲間が減っていきました、今この時も。8年間、仲間も、時間も、全部失いながら生きてきた……。でも、私はこの世界で地位を築けた、この白川グループをね。それならば、我々の仲間をこちらに移してしまえばいいと私は考えた、そうなると問題は2点あった。」
その言葉が、頭の奥のアルディスを揺さぶった。
まるでこれは痛みに近い何かだった。
「まずは、門の開閉、こちらは先程解決したのでいいでしょう。それと、王の有無が肝心だった。王が存在することによって我々の仲間や家族がまた、変な期待・煽動をまた抱いてしまうかもしれないので。」
「……だから処分する、ということですか?」
「そうです。君の中の陛下が存在する限り、また同じことが確実に起きる。それが嫌なら、今すぐ門をの鍵を渡して自害するか、ここで私に殺されるかのどちらかになるでしょう。」
どちらも僕が殺されてしまっているのですが……。
どうして他人に僕の命を握らせなくてはいけないのだろう?
「……僕がアルカディアに行くことは絶対にありえません。」
「信用できないんだよ。」
……あぁ、この人の目は僕を見ているようで一切見ていない。過去のアルディスを見ていて、過去に怯えているんだ…。
僕のこの人と同じ視線を僕に向けられてきたから分かる。
この人は怯えているんだ…。
でも、僕だって死んでしまうなんて絶対に嫌だ。
もうやるしかないんだ…。
「……ならば戦いましょう。」
「まぁ、そうなるよね。」
◇
白川が、スーツを脱ぎ捨てこちらに向かってくる。
この人経営者じゃなかったのかっ?
何でこんなに動けるんだっ!?
西条とも全然違うっ。あの人よりも全然速いし、力も数段上だっ。
最初の一撃を、ナイフで受けた。
ガキンッ!
衝撃が腕を走った。
「……っ、重い!」
「田中アルト君、君たちはまだまだ子供だ。本当の痛みを理解していない。」
白川が、続けて踏み込んできた。
二撃、三撃、と連続して来る攻撃を、どうにか捌く。
全部捌ける気がしないっ?
全ての攻撃が僕の防御がしずらい嫌なところに入ってきている。
この人広いとはいえ人口密度の高いこの閉鎖的空間で何でこんなに動けるんだ。
一撃が脇腹を掠め、エミリさんに事前に掛けてもらっていたプロテクションが剥がれる感覚がする。
「エミリさん!」
「分かっています!」
「❘ᚨ ᛚ《護りよ、堅牢よ。》❘ᛒ ᛟ《障壁よ、我らを守れ。》――守護付与!」
魔力の膜が全身を包んだ。
「ありがとうございます!」
マサトが横から踏み込んだ。
「俺も混ぜろ、よっ!」
「竜ケ崎さん、下がっていなさい!」
エミリさんが怒鳴った。
「下がれるか!アルトが一人で戦ってるのに!」
「下がれと言っています!あの人の実力、分かっていますか!」
「分かってるから入るんだろ!」
マサトが白川の横から殴りかかった。
白川が、それを片腕で受け流した。
「邪魔をするなと言っているんだ。」
「うぐぅっ!」
マサトが吹き飛んでいき正面のガラス窓にうっすら罅が広がる。。
「マサト!」
「……平気だ!続けろ!」
マサトが立ち上がりながら叫んだ。
白川が、また僕へ向かってきた。
三歩で間合いを詰めてくる。
これは、まるで漫画に出てくる瞬歩のようだ。
その速さを活かした一撃はとても重く何とか受け止めることが出来た。
しかし、力は白川の方が強くそのまま押し切られてしまった。
後退しながら、魔力視を発動させ白川の全身を巡る魔力の流れが、見えた。
な、なんだこれは…。
白川の身体を流れる魔力は、身体の中心を境に左右の魔力の流れが逆に流れていた。
あ、ありえない。
魔力は血流同じで流れは一歩方向にしか流れないはずなのに…少なくとも今までこんな魔力の流れをした人んて見たことが無い。
「……っ!」
白川は僕に向かって手の平を向け不可視の魔力を飛ばしてくる。
通常では、見えないのであろうその攻撃は僕には見えている。
そして、攻撃を避けた僕をさして驚いた様子が見えない白川が俯瞰するように観察してきている。
……。
――っ!
そういうことかこの攻撃の重さはっ。
「……反発ですね。」
「……っ!」
白川が、初めて目を見開いた。
この反応はどうやら正解だったようだ。
「……見えているんだね。」
「……。」
「……記憶が、かなり戻ってきているようだね。」
「……。」
これは、記憶を見たからじゃないっ。
僕の努力で実ったものだ。
たしかに僕の中のアルディスが関係して発現した可能性はある。
でも、まるで僕の努力を完全に無視するような白川の発言に僕は少しだけ頭に来てしまう。
「落ち着きなさいっ!」
その言葉で僕ははっと意識を戻す。
「私は貴方が何なのかは知りません、聞かせてもらっていませんので。でも、少なくとも私達は貴方の頑張りを知っています、貴方がボロボロになりながらも私達……と、友達を守ろうと戦ってくれることを…知っていますっ!」
「エミリさん…。」
「…っふん。❘ᛏᚱ ᚨᚾᛏ《地よ、縛れ。》――束縛陣!」
エミリさんの詠唱が走り白川の足元に魔法陣が広がり、光の鎖が絡みつく。
「むっ。」
一瞬、動きが止まった。
そうだ、僕は一人で頑張ってきたんじゃない。
みんがいたからここまで頑張れたんじゃないか。
それならば、エミリさんが作ってくれたこの習慣を無駄にする訳にはいかないっ!
フランベルジュを構え白川に突貫する。
刃に魔力を集約させていき紫紺の魔力が、刀身を伝って広がる。
――紫煌っ!
――ぬしさまに早く頼ってほしい…。
――…妾もじゃ…。
面白いと思ったら、レビュー、コメント、フォロー、評価をお願いするの!
とても、励みになるの!




