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現代冒険者のすゝめ ~高校受験に落ちた僕、冒険者になってみた!~  作者: あっかんべー
第3部:深層と蛙と痛み

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第76話 指名斡旋、go to 渋谷ダンジョン

渋谷ダンジョンの入口前で、西条は既に待っていた。

スーツではなく、今日は動きやすそうな探索者用の服装だった。

ただ、その格好がどこかきれいすぎた。

新品に近い装備で、ダンジョンに慣れた人間の着崩し方をしていない。


「田中様、おはようございます。」


「おはようございます。」


「本日はよろしくお願いします。碑文の記録、期待しています。」


西条が笑う。

笑顔の奥で、何かを計算しているような目だった。


僕は…この目つきが苦手だ。

…僕を利用しようとしているのか、様子見をしようとしているのかは分からないけど、僕のことを人として見ていないそんな目つきだ…。


中学校まで、この人と似たような目つきに僕は曝されていたからこういった視線に僕は少し敏感なのだ。


しかも、この人は少し挙動が怪しかった。

会話の合間合間に、スマホを取り出し誰かと連絡を取り合っているようで、僕に気づかれないよう、さりげなく画面を傾けていたが、しかしそれに僕は気づいていた。


「……あの、もう一人同行者がいるのですが問題ないでしょうか?。」


「はい、問題ございません。学校の研究科か何かで?」


「……似たようなものです。もう少しで来ると思いますので。」


「了解です。」


西条が、また笑った。

程なくして、リオさんが見えた。


「田中さん、おはようございます。」


「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」


「碑文が見られると聞いて、楽しみにしていました。」


リオさんは前回と同じく、小さなバッグにノートとペンを入れた軽装で来たようだ。


西条がリオさんに挨拶した。

二人が簡単に自己紹介を交わしている間、僕はダンジョンの入口の方を見ていた。

サクラさんは今日、用事があって来られなかった。

だから今日は三人、のはずだった。


「アルト君っ!」


後ろから声が飛んできた。

振り返ると、ヒナが息を少し切らしながら走ってきていた。


「……ヒナさん、なんで。」


「なんでって、一緒に行くから来たんだよ。」


「でも今日は、依頼の仕事で――」


「知ってる。でも、わたしも行くからっ。」


ヒナが、迷いのない目で僕に訴えかけてくる。


何かわからないけど、相当な決意が込められたその瞳に僕は少したじろいでしまう。


「……絶対に処分なんてさせないから。」


「えっ?」


「…ううん、何でもないよ。いいから行こ?早く。」


ヒナは、そう言って僕の隣に並び腕を引いていく。

ヒナのスマホが画面には、配信のスタート画面が表示されていた。


えっ!?こっちは仕事中なのにクライアントに許可なしで配信をしてもいいのっ!?


僕は驚きながらも西条の方を見た。

西条は何故か驚き固まり僕ではなくヒナさんを見ていた。


『皆さんおはようございます!今日も渋谷ダンジョン潜ります!』


スマホ画面にはコメントが流れ始め配信が始まってしまう。


通りすがりの人:ヒナヒナおはよー!

冒険者X:復帰したと思ったら、今日も潜るの!?

ヒナちゃん推し:こんな頻度で潜って大丈夫?


「全然大丈夫ですっ!気合い入ってるのでっ!」


ヒナがカメラに向かって明るく言った。

西条が、ヒナを見た。

一瞬だけ、何かを確認するような目をして、僕の視線にくづいたようでまた胡散臭い笑顔に戻った。



一層に入ると、空気が変わった。

今日の渋谷ダンジョンは、人が少なかった。

平日の午前中ということもあるが、それにしても少ない気がした。


「田中様、碑文は第二層でしたね。」


「はい。二層の通路にあります。」


「なるほど。では急ぎましょうか。」


歩くのが少し早かった。

早く目的地に着きたいのか、それとも早く碑文を確認して欲しいのか分からないが、僕は西条の後を追う様に足を速めた。


「……西条さん、ダンジョンには慣れていますか?」


「多少は。業務上、視察に来ることがありますので。」


「視察では、どの辺りまで?」


「大抵は一層ですね。今日は特別ですよ?」


また笑う。

その間も、スマホをちらりと確認していた。

ヒナが、さりげなく西条の少し後ろに位置を取った。


僕とリオさんを前に出して、自分は西条の動きが見える場所に立っていた。

それが自然な動きに見えるように振る舞いながら、でも確かに、西条から目を離さなかった。


『ヒナヒナ、今日は誰と一緒?』


配信のコメントが流れた。


「今日はリオさんっていう研究者の方と、あとなんと白川グループの方が一緒です!」


……クライアント情報まで…。

流石に、この発言には僕もヒナさんに注意を行わなくてはいけないだろう。


通りすがりの人:白川グループ!?すごい!

ヒナちゃん推し:大手じゃんっ!

冒険者X:なんで?


「うちの後輩君が指名クエストを受けたんですよ。すごいでしょ!」


ヒナが笑顔でカメラに向かって言った。

その笑顔は完璧だった。

西条の笑顔とは違い本当に笑っているようだ。


でも、正直僕は冷や汗が止まらないのだけど…。


西条はそんなヒナさんを見てついに言葉を掛ける。


「……いつまで配信されているんですか?」


「…いきなり始めてしまい申し訳ございません。配信はダメでしたか?それとも、…配信されると困ることでも?」


「…いえ、問題ありません。」


西条が答えるが、その一瞬だけ、笑みが消えイラついたように言葉を発していた。

しかしそれは、ほんの一瞬だった。

僕が気づいたかどうか分からないくらいの、短い時間だった。

でもリオさんが僕の隣で、小声で言った。


「……田中さん。」


「…はい。」


「さっきの、気づきましたか?」


「……はい。」


「念のため、碑文を読んだ後の動きには気をつけた方がいいかもしれません。」


リオさんが、静かに前を向いたまま言った。


そうさっき西条は、ヒナさんに対して笑みを消し少しイラついたようだった。

これだけなら、まぁ分かる、仕事の邪魔をしているから。


でも、西条は怒気ではなくヒナさんに対し若干ではあるものの殺気を放ったのだ。


やはり、碑文と何か関係があるのだろうか?



二層への階段を下りていく。

碑文のある通路は、以前と変わらず静かだった。


「これが、碑文ですか。」


西条が、壁の前に立った。

興味深そうに眺めていたが、文字を追う目ではなかった。口では、そんなことを言っていても態度と言うかなんて言ったらいいか分からけど、なんとなく伝わってくるのだ。この人は読もうとしているのではなく、何かを確認しようとしている、と。


「……田中様、読んでいただけますか?」


「…承知しました。」


近づいて行き壁を見る。


…また、内容が変わってる。


前回読んだ「王は帰ってきた、アルディス」という内容から、さらに文字が増えていた。


息を吸った。


――時は近い。

――王が踏み込む時、門は応える。

――王の血が鍵であり、汝の記憶が扉を開く。

――恐れるな。

――王よ、全ては汝のために用意されていた物だ。


…何を準備されているのだろうか?


前に読んだときは、景色が見たが今回はそれが無くただ読んで終わってしまった。


読み終え振り返ると、西条が端末に何かを入力していた。

そして、スマホを取り出して、どこかへメッセージを送った。


それは、短いメッセージだった。

画面は見えなかったが、送信する前の一瞬、西条の表情が変わった。

何かを確信したように。

いや、あれは――


「……素晴らしい。ありがとうございます、田中様、記録は完了しました。」


「……碑文の内容について、何か分かることはありますか?」


「研究部門に送りますので、後ほど分析結果をお伝えします。」


「……そう、ですか。」


ヒナが、配信を続けながら西条の方を見ていた。

その目が、今日初めてカメラから完全に離れていた。


西条は、また笑顔に戻っていた。

どこにでもいるビジネスマンの顔だった。

でも、メッセージを送った後から、少しだけ余裕が増した気がした。


用事が済んだ人間の、余裕だった。


「では、帰路につきましょうか。今日はありがとうございました。」


「……お疲れ様でした。」


「いえ、こちらこそ。田中様、また機会があればよろしくお願いします。」


西条はやはり笑顔で言ってくる。

…その笑顔が、今日の中で一番、空虚に見えた。



ダンジョンを出ると、西条はすぐに別れた。


「では、失礼します。報酬の件は後日ご連絡します。」


それだけ言って、足早に去っていった。

三人で、その背中を見ていた。


「……あの人、途中から変わりましたね。」


リオさんが、静かに言った。


「碑文を読み終わったあたりから。」


「……はい。」


「碑文の内容を誰かに報告していました。おそらく研究部門の人ではなく上司か…もっと上の立場の方に。…あの人碑文の内容をあまり注視しているようではありませんでしたし。」


「……リオさん、見てたんですか?」


「観察するのが習慣なので。…父の影響ですかね。」


…ダンジョンで行方不明になったお父さんか。


リオさんが、少し目を伏せた。

ヒナが、配信をそっと切った。


「お疲れ様でした、皆さん!今日はここまでです!」


コメントが流れた後、ヒナがスマホを下ろした。


「……アルト君。」


「はい?」


「今日の依頼、これで終わりにして。」


「……え。」


「報酬は貰っていいから。でも、これ以上白川グループの依頼を続けないで。」


ヒナの目が、今日一番真剣だった。


「……理由を教えてもらえますか?」


ヒナが、少し言葉を探した。


「……嫌な感じがするから。」


それだけ言った。


きっと、嘘ではないのだろう。

でも、本当のことを全部言っているわけでもなさそうだ。


「……考えます。」


「……うん。考えてね。」


ヒナが、また歩き出した。

渋谷の街は、いつも通り賑やかだった。

しかし、僕は碑文の最後の一行が、頭の中に残っていた。


【王よ、全ては汝のために用意されていた物だ】


あの碑文は何で日を増すごとに増えていくのだろう?

あの碑文はだれが何の目的で書いているのだろう?


あの碑文は……僕に何を求めているのだろうか?


扉?なんだそれは…。


なんだか疲れちゃったし、もう帰ろう…。


――アルトはもう少しで正式に妾と面会出来るはずじゃ。頑張ってたもう。


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