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現代冒険者のすゝめ ~高校受験に落ちた僕、冒険者になってみた!~  作者: あっかんべー
第1部:少年の立ち上がり

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第7話 第三層のボスと藤本サクラ

朝起きたら、ヒナからメッセージが来ていた。


《今日も渋谷ダンジョン集合ね。第三層のボス部屋を攻略しよう!》


続けて、


《ちなみに第三層のボスは《アイアンゴーレム》で攻略難度A。倒した配信者はまだ三人しかいないみたい!》


さらに続けて、


《三層のボスはずっと倒したかったから、アルト君に期待しているからね!》


「期待、かぁ。」


最後に期待している、と言われたのはいつだっただろうか。

難度Aというのがどのくらいのものか、僕には正直よくわからなかった。

ダンジョンに入り始めてまだ三日目だから。


でも、こんな僕に何かしらの期待をしてくれるというなら僕はその期待に応えたい。

それに、このボスを倒せばヒナさんと同じ高校に通えるかもしれない…。


どうにかしてみせる。

何故か自信があった。


昔から、そういうものを持っていた気がする。

どこかで培われた、場数のようなもの。

ただ、どこで培ったのかが思い出せないけど。


そして、僕は朝食を食べ着替えて家を出た。


「行ってきます。」



渋谷ダンジョン入口、ヒナが待っていた。

今日は隣にもう一人いた。


ショートカットの女の子。

眼鏡をかけて、大きなカメラを抱えている。

年齢はヒナと同じくらいか、少し上か。


「アルト君、今日は学校の同級生を連れてきたんだ。私の補助役で一昨日昨日は用事があってこれなかったんだぁ」


「藤本です。よろしくお願いします」


サクラは頭を下げて、僕の顔を見て、一瞬止まった。

どうしたのだろうか?


「……瞳の色が本当に紫なんですね。」


「…はい」


「とてもきれいな色ですね」


「えっ」


また、現れた。

しかもヒナさん以外で。

幻聴かと思いサクラの顔を見る。

あの顔は、目の色の意味を知っている人の目だ。


だけど、その視線には恐怖や差別的なものは感じない…。

ヒナさんと出会ってからいい人との巡り合わせが多くなった気がする。


「…ありがとうございます。」


「いえ、今日はよろしくお願いしますね?」


ヒナは「うちも最初からそう思ってたよ!」という顔をした。

あぁ、今日もとてもいい日だなぁ。



第三層への道は昨日通った第二層を抜けていく。


今日は《シャドウウルフ》の姿すらなかった。

昨日僕たちが来た気配を覚えているのか、通路がやけに静かだった。


「……魔物いないですね」


ヒナが配信カメラに向かって言った。


「避けてるんでしょうか?」


「アルト君のことを?」


「多分?」


「それ普通じゃないですからね、一応」


「そうなんですか?」


僕は本当に知らなかった。


魔物が人間を避けるというのは、僕には当たり前のことに思えた。

なぜかはわからないが。


サクラが横でカメラを回しながら小声で言った。


「……アルトさん、昨日の碑文の件、本当に読めたんですか?」


「…なんのことですか?」


「とぼけないでください!配信で「読める」って言いかけてたの全員気づいてます!」


僕は前を向いたまま黙った。

やっぱりバレていたみたいだ。


「……気のせいかもしれないんですよ?」


「…秘密にしたいようでしたら、後で教えてくださいね?」


皆なんで石碑を読みたがるのか分からないが、二層に行ったときにでももう一度読んでみよう。



第三層のボス部屋は、重い鉄扉で閉ざされていた。

扉の前には難度表示の立て札がある。


《AREA BOSS:アイアンゴーレム 推奨レベル:上級 推奨人数:四名以上》


4人以上…。

ヒナも緊張した顔で扉を見ていた。


「……前に一回挑戦したことあって、その時は入口で諦めたんだ…。」


「…そうなんですか?」


「大きいんです。三メートルくらい。全身鉄の鎧みたいな魔物で、普通の攻撃がほぼ効かなかった。」


「なるほど…。」


「アルト君、いけそうかな?」


僕は扉に手をかけた。


「何とかしてみます。」



ボス部屋前 — 同接:112,089


エトウ:アイアンゴーレム推奨四名以上を三人で行くの正気か

匿名C:というかヒナちゃんとサクラちゃんは後ろにいてほしい

プロ冒険者X:ゴーレム系は物理無効に近い 普通の人間がナイフ1本で戦える相手じゃないぞ!

新規多数:少年頼む!!!



扉を開けた瞬間、圧が来た。


空気が重くなった。

石造りの広間で天井が高い。

中央に、それはいた。


三メートルを超える鉄の巨体。


《アイアンゴーレム》

全身が錆びた黒鉄で構成された魔物で両腕は丸太ほどの太さがあり、頭部は岩のように角張っている。目が二つ、鈍いオレンジ色に光っていた。


ヒナが息をのんだ。

サクラはカメラを構えたまま一歩下がった。


ゴーレムと視線が合った。

だけど、僕は特に恐怖心とかはなく、


……でかいな。


それだけ考えていた。


ゴーレムが動いた。

右腕を振り上げて、床を叩いてきて石畳が砕けた。

衝撃波が広間を走った。


ヒナが踏ん張りサクラがカメラを抱えてしゃがんだ。


僕は動かなかった。

衝撃波が僕の足元で、静かに消えた。


「……」


ゴーレムが止まった。

僕は前に歩いた。

ゆっくり、普通に歩いた。


ゴーレムが再び右腕を振り下ろしてきた。

僕は左手でそれを受けた。


鉄の腕が、止まった。


ゴーレムが押してくるので、僕は押し返した。

足が少しだけ後退して、靴底が石畳を削った。


そのままゴーレムの腕を掴んで、引いた。


三メートルの鉄の塊が、前のめりになった。


僕は右手のナイフを軽く振り抜いた。

ゴーレムの胴体に、亀裂が入った。


一本、二本、三本——


そしてゴーレムは、崩れた。


鉄の欠片が石畳に散らばった。オレンジ色の光が消えた。


静寂。


僕はナイフを見た。

刃こぼれはなかった。

僕はため息をついた。


「……何とかなりました。」


同接:287,441 —


ガチ勢777:アイアンゴーレムをナイフで切断して倒した!?

エトウ:ゴーレム系は魔法属性じゃないと倒せないはずなのになんでナイフでいけるんですか?

匿名D:ヒナちゃんの顔が毎話驚き続けてるの草

匿名E:今すぐ登録してきた人↓

新規大量:↑はい

匿名F:この子の動きを軍事専門家に見せたいレベルだぞ、これ!



ボス撃破の証明アイテムを回収して、部屋を出た。

ヒナはしばらく黙っており、広間を歩きながら、隣に並んで、ようやく口を開いた。


「……あの…アルト君?」


「何ですか?」


「うち前にも言ったけど、三層のボス、ずっと倒したかったんだ…。」


「…言っていましたね。」


「半年間、強くなろうと思って配信続けて、でも届かなくて…」


ヒナの声が少し低くなっていた。


「……アルト君と一緒だったら、行けるかもしれないって、思ったって」


僕は何も言わなかった。

何を言えばいいかわからなかった。


「その、ありがとうございます!」


ヒナが前を向いたまま言った。

耳が少し赤かった。

僕は「…どういたしまして」とだけ言って、前を向いた。


サクラがカメラを下げながら僕の横顔を見ていた。


「……アルト君照れていますね。」


「…人に感謝されたことがあまりなくて、どう答えればいいか分からなくて」


「なんか、そういうところが……」


サクラが言いかけて、止まった。


「なんですか?」


「なんでもないです」


帰り道、第二層の分岐を通ったとき、また見えた。


例の壁の碑文。


昨日と同じ場所。だが、文字が増えていた。

僕は立ち止まった。


——《帰還者よ、門はまだ開いている。汝が思い出す時、すべてが始まる》


昨日は前半しかなかったはずなのに。

昨日より文字が、増えている…。


「アルト君?」


ヒナが振り返った。

僕は碑文から目を離して、歩き出した。


「…なんでもないです。」


嘘だった。

心臓が、少し速くなっていた。


——汝が思い出す時、すべてが始まる。


思い出す、とは何を?


この間まで一般人だった僕が、なぜゴーレムを倒せるのか。

なぜダンジョンの空気が懐かしいのか。

なぜ、知らないはずの文字が読めるのか。


僕はまだ、何も思い出せていなかった。

だけど、確かに何かが、ゆっくりと動き始めている気がした。

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