表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代冒険者のすゝめ ~高校受験に落ちた僕、冒険者になってみた!~  作者: あっかんべー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/75

第67話 真・神威解放《シンイカイホウ》――神煌《しんこう》

目を開いた。

白い光が全身を包んでいた。

全身の毛穴からは、紫紺の魔力が溢れ出していた。


だけど、さっきまでとは全然違った。

垂れ流しではなく、制御されて、全身を巡って、流れていた。川が流れるように、自然に、滞りなく。


魔力が変われば、視界も変わる。

今の僕には100層全体が、全部見えた。


空間のどこに誰がいるか。

転移陣の前で全員が固まっているのが見えた。

先生を二人がかりで抱えているリョウたちが見えた。

エミリさんがマサトに支えられながらこちらを見ているのが見えた。

そして、ヘカトンケイルが見えた。


どうやら魔力視も強化されているようだ。


全身の魔力の流れが、全部見えた。

どの腕が次にどこへ動くか。核がどこにあるか。

全部が、手に取るように見えていた。

さっきまでとは、全然違った。


「……ぬしさま。」


ルージュが、隣でよろめいていた。スキルを使い果たして、今にも倒れそうだった。


「……帰ってきた、ね。」


「……ルージュ、ありがとう。下がっていて?」


「……うん。あとは、ぬしさまがやって。あたしは、もう限界。」


ルージュが槍の中へ消えた。

槍の宝石が一度だけ温かく光って、静かになった。

ヘカトンケイルが、こちらを見ていた。

さっきまで僕を圧倒していた20本を超える腕が、全部止まっていた。


その赤黒い瞳が、まっすぐに僕を見ていた。


「……なに、が、起きた。」


「……僕も、よく分からない。」


「……お前、が、ちがう。さっきと、ちがう。」


「……そうだね。」


ヘカトンケイルの全身の魔力が、揺れた。怒りのような、あるいは警戒のような、そういう揺れ方だった。


「……その目だ。その目が、ゆるせ、ない。」


「……?」


「……我々を、敵とすら見ていない、その目が気にくわない、我は仲間も殺された、お前は必ず殺す。」


「……やってみろ。」


ヘカトンケイルの腕が、一斉に構えられた。


その瞬間だった。

全身の魔力が、急に変わった。

さっきまでとは違う変化だった。

神様の神威解放しんいかいほうの力が、さらに深いところへ潜ろうとしていた。


天照大御神の声が、遠くで聞こえた気がした。


――行きなさい。ぬしの全てで。


自然と口から言葉が溢れ出した。

自分でも知らない言葉だった。

意味も良くわからない…でも、


止まらなかった。止めようとも思わなかった。

神様の言葉を真似ながら、


「綴る――」


僕は言葉を紡いでいく――


――ᛟ ᚨ ᚾ ᛞ ᚱ《遥かなる昔、一人の王は世界を背負った。》


意味はわからない。

でも、自然と口から言葉が溢れてくる。


――ᚠ ᛖ ᚱ ᚷ ᛚ《されど王は敗れ、民を護れず、祖国を失い、己すら失った。》


足元の岩盤が光り紫紺の魔力が、地面を伝って広がっていく。


――ᛋ ᛖ ᚾ ᚷ ᛁ《王冠は砕け、玉座は朽ち、英雄の名は歴史より消え去った。》


ヘカトンケイルが、動きを止めた。


――ᛗ ᚨ ᚾ ᛁ ᚷ《王は逃げた。》

――ᚢ ᚱ ᛞ ᛟ ᚾ《過去から逃げ、責務から逃げ、己の罪から逃げ続けた。》

――ᛖ ᚷ ᚨ ᛚ ᛟ《名を失い、記憶を失い、それでもなお終わることだけは許されなかった。》


「……なに、を、言っている?」


ヘカトンケイルが呟いた。

だが僕は言葉《呪文》をとめない。


――ᛒ ᛖ ᚱ ᚾ ᚨ《彷徨い続けた果て、王は一つの光に出会う。》

――ᛚ ᛁ ᚠ ᛖ ᚾ《それは剣でもなく、力でもなく、共に歩む仲間たちだった。》


後ろで、誰かが息を呑む気配がした。


――ᛞ ᚨ ᚷ ᚱ ᛁ《共に笑い、共に傷付き、共に涙し、共に未来を願う者たち。》

――ᚨ ᛚ ᚷ ᛁ ᛉ《その温もりだけが、王の凍てついた心を再び動かした。》


マサトが何か言おうとした声が聞こえた。

だけど言葉にならなかったようだ。


――ᛏ ᛁ ᚹ ᚨ ᛉ《故にここに誓う。》


これは、僕の誓いだ。


――ᛋ ᛟ ᛚ ᛟ ᚾ《二度と誰一人、この手から零さない。》

――ᚠ ᚱ ᛖ ᛃ ᚨ《二度と仲間を置き去りにはしない。》

――ᛗ ᛁ ᛞ ᚷ ᚨ《二度と逃げる王ではいない。》


「……っ。田中アルトが詠唱っ!?しかも、譚文詠唱っ!?」


エミリさんの声が、驚き震えていた。


――ᛒ ᛚ ᛟ ᛞ ᛁ《我が血肉は盾となれ。》

――ᚺ ᛖ ᚨ ᚱ ᛏ《我が心は剣となれ。》

――ᛋ ᛟ ᚢ ᛚ ᚨ《我が魂は希望となれ。》


宝魔槍が、光った。

さっきまでの紫紺ではなく、白に近い光だった。


槍の中でルージュが、そっと後押しをしてくれているような、そんな気がするんだ。


――ᚨ ᚾ ᛋ ᚢ ᛉ《天を統べる神々よ。》

――ᚱ ᚨ ᛁ ᛞ ᛟ《地を巡る精霊よ。》

――ᚲ ᛖ ᚾ ᚨ ᛉ《我が誓いを今ここに刻め。》


階層全体が揺れ、コアが激しく脈動した。

天井から砂が降り注いだ。


――ᛖ ᛁ ᚹ ᚨ ᛉ《過去を断ち切り、未来を切り拓くために。》

――ᚦ ᚢ ᚱ ᛁ ᛋ《世界よ見届けよ。》

――ᛟ ᚦ ᚨ ᛚ ᚨ《逃亡の王は、この瞬間に終焉を迎える。》


ヘカトンケイルが、後退したのが見える。

圧に押されて、本能的に後退したようだ。


――ᛏ ᛁ ᚱ ᚨ ᛉ《ここより始まるは――守護の王。》

――ᚷ ᛖ ᛒ ᛟ ᛉ《我が全てを賭して紡ぐ聖戦を。》

――ᚨ ᚾ ᛋ ᚢ ᚱ ᚨ《神よ、人よ、世界よ――ご笑覧あれ。》

――ᛋ ᛟ ᛚ ᛁ ᛞ ᚨ《これが我らの英雄譚。》


光が、爆発する。

階層全体が白く染まった。


――ᛏ ᛁ ᚱ ᛉ《さあ――始めよう。》

――ᚷ ᛖ ᛒ ᛟ《僕たちの聖戦を。》


僕はここで皆を助けられる英雄ヒーローになりたい…。


「――神威解放《ここからが勝負だっ!》」



光が収まった時、100層は変わっていた。

全身から溢れ出す光が、さっきまでとは次元が違った。紫紺と白が交わって、足元から天井まで光の柱が立っていた。


きっとこの力は一時的なものなのだろう。

そして、これは僕が未来努力すれば手に入れられる力なのだろう。


そう今は、ルージュのおかげで使えているに過ぎない。


「……あ、アルト。」


マサトの声が、かすれていた。


「……お前、今、何を。神威解放…?それになんだあの詠唱は?」


小林さんも目を見開きこちらを見ていた。


「……加護っ?」


答えられなかった。

自分でも分からないから。

あの言葉が何を意味するのか。あの王が誰なのか。なぜ自分の口からそれが溢れ出したのか。


僕は何者なんだ?


何も分からないことだらけだけど、ただ、分かることが一つあった。

全身の魔力が、今までとは比べ物にならないほど満ちていて驚くほどに僕の身体に馴染んでおり、僕はこの蛙と戦えるレベルに至ったということ。


「……お前、は。」


ヘカトンケイルが、初めて声に怯えを混じらせた。


「……なに、だ。お前、は。いったい、なに、なんだ。」


「……僕にも、分からないんだ。……だけど。」


槍を構えた。

白い光を纏った槍が、ヘカトンケイルを照らした。


「……今の僕ならお前を、倒せる。それだけは分かる。」


ヘカトンケイルが咆哮した。


「ゲロォォォォォッ!!!!」


全身の溶岩が激しく脈動していた。

20本を超える腕が、全部同時に動いた。今まで以上の速さで。今まで以上の力で。全部が、一直線に、僕へ向かってきた。


でも、全部見えていた。

全部の軌道が、流れとしてしっかり僕には見えていた。

そして、全部の腕の核が、今、一点に集まっていた。


あれだけ動き続けた核が、怒りと全力の攻撃の瞬間に、一点に固まっていた。


「……今だ。」


全身の魔力が変わっていく。

体内の魔力源が、今なら見える。

外に溢れ出す紫紺の魔力だけじゃない。体の中にある、根本の魔力を、全部引き出していく。


身体から溢れる紫紺が、今までとは比べ物にならない輝きを放つ。全身の毛穴から、槍へ、体内の魔力も、全部が槍へ向かって流していく。


心威と神威、元来の僕の魔力が混ざり合いラベンダー色に染まっていく。


――準備は整った。


――今僕が放てる最大の技を放そう。


「――神煌しんこう


腕の嵐の中へ、踏み込んだ。

一歩で、ヘカトンケイルの腕の嵐の中に入った。

20本の腕が迫ってくるが、全部見えていた。

全部の間を、縫うように進んだ。弾かない。躱さない。ただ、全部の腕の隙間を、真っすぐに進んでいく。


1歩。

また1歩。

また1歩。


ヘカトンケイルの胸の中心に、核があった。

一点に固まった核が、胸の中心で輝いていた。

槍を引いた。


「……ゆるせ、なかった。」


ヘカトンケイルが、最後に言った。


「…知ってる。」


だから、僕をここまで追いかけてきた。


「……なぜ、最初に、逃した?」


「……あの時、魔物であっても生き物を殺すことに忌避感があった。」


「……。」


「でも、それじゃあ誰も守れないと知った。」


「……そうか。」


「……あなたは、強かった。」


「……そう、か。」


「……最後に聞かせてください。名前は、ありますか?」


しばらく、沈黙があった。


「……ない。」


「……じゃあ僕がつけます。」


「……なに、を。」


「……炎蛙えんあ、という名前を怪物あなたに。」


「……炎蛙?」


「……あなたが、ここまで強くなったことへの、敬意を。僕だけはあなたを忘れない…。」


「……ケロ。」


その声が、今まで一番穏やかだった。

槍を、突いた。


ドォォォォォンッ!!!!!


爆音が、空間全体を揺さぶった。

天井から岩が落ちてきた。コアが激しく脈動した。床の岩盤に大きな亀裂が走った。転移陣の光が激しく瞬いた。


光が収まるのに、少し時間がかかった。

収まった時、辺りは静かだった。

そこにヘカトンケイルの姿はなかった。


あれだけ巨大な体が、消えていたのだ。

残っていたのは、一つだけ、バレーボールほどの大きさの、結晶がそこには残されていた。


普通の魔石ではなかった。

赤黒いのに、中心部だけが白く輝いていた。まるで炎と光が混ざり合っているような、今まで見たことのない色をした結晶だった。


「……炎蛙えんあ。」


僕は、その結晶へゆっくりと近づき拾い上げた。

手のひらの中で、その結晶が温かかった。怒りも、執念も、孤独も、全部がこの中に詰まっているような気がした。


「……強かったよ。今まで出会った敵の中で誰よりも。」


誰に言うでもなく、呟いた。


「……アルトっ!!」


マサトの声がした。

振り返ると、転移陣の前から全員がこちらへ向かってきていた。エミリさんが走っていた。マサトが走っていた。小林さんが走っていた。先生を抱えたリョウたちが走っていた。


「……大丈夫か!!」


マサトが叫んだ。


「……大丈夫、です。」


「大丈夫じゃねぇだろ!!目からなんか出てるし全身光ってるし肩から血も出てるし、さっきの詠唱はなんなんだ!!」


「……僕にも、よく分からない。」


「よく分からないって何だよ!!」


エミリさんが僕の顔を両手で掴んだ。


「……顔色が悪いです。今すぐ治癒魔法を――」


「……大丈夫、です、エミリさん。」


「大丈夫じゃありません。」


「……本当に大丈夫、で……。」


足元が、揺れた気がした。


「……アルト?」


「……大丈夫、本当に……。」


全身の光が、薄れていくのが分かった。

神威解放しんいかいほうが、解けていく。


全身を巡っていた魔力が、急速に引いていく感覚がした。潮が引くように、さっきまでの力が、全部消えていく。全身が、急に重くなり腕が、足が、重くて動かなくなり、最後には白目がぐるり。


「……田中アルトっ!!」


エミリさんの声が、遠くなった。


「……おい、アルト!!」


マサトの声も、遠くなった。


「……ぬしさま。」


ルージュの声が、一番最後に聞こえた。

手のひらの中で、結晶がまだ温かかった。


炎蛙えんあ

多分最初で最後の僕の好敵手ライバルなのかな。


あなたは、本当に強かった。

先生でもかなわなかったし、僕もズル(チート)が無ければ普通に殺されていた。


あぁ、でも、これで帰れる。


意識が、暗くなった。



落ちていく途中で、声が聞こえた気がした。

あの、白い空間の声だった。


――……よくやったの、アルト。


その声は温かかった。


――……ゆっくり、休みなさい。妾はそばにいるから。


どこか遠くで、全員が騒いでいる気配もした。


「……先生を早く転移陣へ!」


「……アルトを運べ!」


「……急げ!!」


その声が、どんどん遠くなった。

そして最後に、一つだけ聞こえた。

小さな声で、でも確かに。


『……ぬしさまは、やっぱり、ぬしさまだったんだ。』


それを聞いて、僕は完全に意識を手放した。

手のひらの中で、結晶だけが温かいまま、残っていた。


――アルトのことは、まだ秘密じゃ。

  もっと先の話で説明されると思うのじゃが待ってくれるかえ?

――主様をずっと待ってたの…。

  魔物に成り下がってしまったけど、ずっと待ってたの。


面白いと思ったら、コメント、フォロー、評価をお願いするの!

とても、励みになるの!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ