第46話 鬼畜外道武田ソウカクの地獄のレッスン2
「せ、先生これは――」
何も分からず先生に問いただそうとした。
だけど、向こうの『僕』はそれを待ってはくれないようだった。
ギリッ――
『僕』は歯を食いしばりながら僕を睨みつける。
その目には明確な敵意が宿っていた。
いや、敵意なんて生易しいものじゃない。
これは、憎悪だ。
まるで長年恨み続けてきた仇を見るような目だった。
「なんで、こんな攻撃的なんだ…!?」
次の瞬間――
『僕』の姿が掻き消えた。
すたっ…
かすかな音を頼りに前方に転がる。
さっきまで僕の首があった場所を、漆黒のナイフが横薙ぎに通過していた。
いつの間にか『僕』が背後に立っていたようだ。
あ、危なかった…。
あのまま突っ立っていたら首が飛んでいた。
何で僕を殺そうとしているんだ?いや、魔物なんだから当たり前なのか…?
「せ、先生!」
「言いたいことは分かるよ。その『田中君』は田中君の可能性を模倣しているんだよ。」
「可能せ――うわっっ!」
話している間も、僕に攻撃を仕掛けてくる『僕』。
身体を自在に操り手技、足技、短剣術、を用いて僕を攻めてくる。
「逃げ回っているといつまでも勝てないよ~?とりあえずこのまま説明するね。あぁ、ちなみに殺す気で来るから気を付けてね!」
そんなこと言われても…。
僕もナイフを構え『僕』に対応する。
僕には、この間取得したパリィがある。
攻撃を弾くことだけだったら今の僕でも問題ないはずだ!…多分。
「そこにいる魔物は、❘裏未来写し《リバース=ミラー》って言って未来の自分の可能性をコピーする。しかも、その写し見の『自分』には自分が何かしらの敵に見えるようにされているらしい。」
だから、あんな目をしていたのか…。
僕には理解できない憎悪だったけど、『僕』からすれば僕は倒すべき敵に見えているらしい。
「❘裏未来写し《リバース=ミラー》は現在田中君が使える技は、全て使えるから気を付けてね!」
それはどうやっても勝てないのでは…?
『僕』が来るっ!
ガキィン!
初めてナイフ同士がぶつかる。
やっぱり、攻撃を弾くだけならエミリさ――
「ぐぇっ!」
どうやら僕は蹴り飛ばされたようだ。
ダメだ、勝てる姿が浮かばない…。
「田中君、❘裏未来写し《リバース=ミラー》は心威と神威は使えないよ、それは人間だけに許された特権だからね!早く身につけないと本当に死んじゃうよ?」
心威の発動条件…強い想いの力。
しかも、『僕』を見た感じあとちょっとでどうにかできるレベルじゃあない気がする…。
まず、どうすれば発動できるんだ…。
そもそも、今の僕にそんな強い思いはあるのだろうか?
「あっ、ちなみに死にたくないってだけで心威は発動しないからね!」
先生は映画観賞をしているかのように軽い調子で僕に助言を飛ばしてくる。
「えっ!?」
「だって皆死にたくないし。」
「…。」
「それで発動するなら冒険者全員心威使えるよ。死にたくないは本能だからね。心威は願いだよ。」
ガキィン!!
先程よりも強く『僕』が攻めてくる。
僕は攻めにも入れずただ受け身でいることしかできない…。
…先生は蘇生薬を持っていると言っていたからやれるところまでやって一旦リセットして助言を貰う、か?
…いや、死ぬ痛みまで消えるわけじゃないだろう。
正直、一回死んでみようなんて考えられるほど僕は肝が据わっていなかった。
願い…願い…願い…。
考えれば考えるほど分からなくなっていく。
それになんとかパリィしているけど、『僕』の猛攻のせいで考える時間が保てない。
一旦距離を…。
「はぁぁぁっ!」
さっきパリィした時と同じ構図だ。
すると予想通り――
「ぐぇっ!」
腹部に強烈な蹴りが炸裂した。
…やっぱりだ、この『僕』ある程度の自由はあるようだけど基本的には決まった動きがみられる。
来ると分かっていれば耐えられる。
「氷、壁…。」
ゴォッ!
氷壁が出現し、僕と『僕』間に距離を作り出す。
しかし――
バキィッ!!
『僕』は躊躇なく氷壁を蹴り砕いた。
氷壁は砕け散り僕は闘技場の壁まで吹き飛ばされてしまう。
まったく予想通りに行っていないことに笑えてくる。
『僕』がゆっくりと僕のもとに歩いて来る。
このままじゃ、普通に死んじゃいそうだなぁ…。
『僕』の歩みは止まらずもう目前にまで迫ってきている。
ハハハ…強いなぁ、僕の可能性は。
こんな化け物みたいな動きが、本当に僕にできるのかは分からないけど、僕にもこんな風に強くなれる可能性はあるんだよね?
僕は負けたくない…。
ここ最近負けっぱなしで自信なんてあったもんじゃないけど…。
それでも、自分自身に負けるのはもっと嫌だ…!
誰かに守られる側じゃ終わりたくない。
僕は――
小さな僕に女性は言った。
『アルトは大きくなったら何になりたい?』
『え~、う~ん。この絵本の英雄みたいになりたい!お姫様を悪いドラゴンから助けたい!』
『ふふふ、なれるわよ!アルトには無限の可能性があるんだから!』
僕は――
昔お母さんに読んでもらった絵本の出てくるような英雄になりたかったんだ…。
小さな子供のような夢…。
それでも僕は…勝ちたい!僕は――
英雄になりたい!
それに僕には、大事な約束があるんだ…!
その瞬間だった。
胸の奥で何かが噛み合う。
足りなかった最後の一欠片が埋まる感覚。
これが、心威なのか。
そして――
「…え?」
世界が青白く染まる。
魔力の流れに身体の巡り、そして、『僕』の体内を駆ける力。
封印されていたはずの魔力視が戻っていた。
「も、戻ってきた、魔力視がっ!」
「おぉ!自力で封印が解けたんだね!とてもすごいことだ!でも、悠長にしていていいのかい?敵は待ってくれないぜ?」
先生は多少驚き観客席から拍手をしてくる。
そうだ、放心している場合ではない…!
『僕』は相も変わらずこちらを睨んでいる。
「…ごめんね『僕』。僕には約束があるんだ。」
そう約束が僕にはある。
4人の両親と交わした約束が。
『『絶対に生きて』』
『『家に絶対に帰ってくること』』
その約束だけは、どんな理由があっても破れない。
それに例え偽物だとしても『僕』にその約束を破らせるわけにもいかない。
僕は英雄になりたい。
でも、その前に――
生きて帰らなきゃいけないんだ。
「…『僕』…勝負だっ!」
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