第43話 心威《しんい》とは
今日は、いつもと違う授業風景だった。
教卓には武田さ…先生が立っていて教鞭を取っていた。
…試験の時以来初めて学校で見たけど、ちゃんと授業出来るんだ…。
周りのクラスメートも、隣のエミリさんもキラキラと目を輝かせて授業を聞いている。
「…エミリさん。」
「…なんですか?」
エミリさんは不機嫌そうに僕の方を向き返事をする。
…なんでこんな顔されるんだろうか。
「…その、なんで皆この授業を楽しそうにしているんですか?」
「はぁ?…そんなことも分からないんですか?」
エミリさんは大きくため息を吐き呆れたような視線を僕に突き刺さす。
…だからなんでそんな顔をするんだろうか?
「武田先生はとても忙しくて、1ヵ月に1回くらいしか授業をしないんです。」
「へぇ…。」
「それに先生は日本でもトップクラスの冒険者です。現役で最前線にいる人から直接教わる機会なんて滅多にありません。」
「あぁ…。」
「だから皆さん楽しみにしているんですよ。分かりましたか?」
「なるほど……。」
確かに武田先生は恐ろしく強かった。だから、こうなることも無理はないのかな…。
試験の後もすぐにいなくなっていたし。
「しかも、武田先生は数少ない加護持ち冒険者なんですから!」
加護持ち…。
試験の際に先生と僕が使用したあの力は一体何だったんだろう…。
あの日以来、人目に付かないように同じことをしようとしたけど試験日以降発動しなかった。
おそらく何かの機会があるのだろう。
その時武田先生が僕の方をチラリと見て口を開く。
「皆は心威についてどう思う?」
神威?いや、なんかイントネーションが違う気がする…。
何のことを言っているのかわからず僕は首を傾げた。
「…田中君は入学したてだから分からないか。じゃあ、隣の佐藤さん、説明してあげて?」
「は、はい!」
エミリさんは珍しくとても緊張しているようだった。
こんなエミリさん初めて見た…。
エミリさんは僕に「…ちゃんと聞いてくださいね?」と言いたげな視線を向けてから先生に言われた通り心威についてぽつぽつと説明を始めた。
「心威とは、強い想いによって本来の限界を超える現象のことです。」
エミリさんは教科書に書いてある内容をそのまま読み上げるように淀みなく説明する。
「スキルには本来、威力や魔力などの限界があります。ですが、心威が発現すると、その限界を一時的に超えることがあります。」
…よくわからない。
想いの力で限界を超える?そんなことが果たして可能なのだろうか?
「…例えば、本来よりもスキルの威力が大きくなったり、限界を超えているはずなのに魔法スキルが使えたりすることがあります。」
「ただし――」
エミリさんはそこで一度言葉を切った。
「並大抵の気持ちでは発現しません。絶対に守りたい、大切な人を助けたい、負けたくない。そういった極限の感情が引き金になると言われています。」
そう簡単には出来るわけないか…。
そんなほいほい限界を超えられたら、超人だらけになっちゃうし。
「だから確認されている人も少なく、発現条件も完全には解明されていません。現在確認されている加護持ち冒険者の多くも、心威を扱えると言われています。」
「うん!実に優秀だね。とても良い説明だったよ、ありがとう。」
武田先生がそこまで言うとエミリさんは僕を見た。
「…分かりましたか?」
「な、なんとなく?」
「勉強が足りませんね…まったく。」
…ただ、あの日の僕の状態に少し似ている気もする。
……いや、まさかね。
◇
授業が終わりお手洗いに行こうと席を立ちあがると武田先生に呼び止められた。
「田中君ちょっといいかい?」
正直僕はこの人が怖い…。
試験の時に僕をボロボロになるまで攻撃してきたし、何よりも試験に関係ないはずのヒナさんに攻撃を加えた。
…ただ、この人は僕が見てきた人の中で1番強い。
それも他の追随を許さないレベルで。
だから、その強さの一端を見た僕は怖くくもあったけど、それ以上にその強さに憧れててしまったんだ。
でも、ヒナさんを攻撃したことは許せない。
そんな心境なせいで微妙な態度を取ってしまう。
しかし、今は先生と生徒角が立たないようにしないと…。
「…なんですか?」
しまった…思ったよりも硬い声が出てしまった。
武田先生はそんな僕の態度を気にした様子もなく、いつものようににこやかな笑みを浮かべた。
「さっきの授業の心威についてどう思った?」
「…正直よく分かりませんでした。想いの力でそんな簡単に限界を超えられるものなんですか?」
「まぁ、普通は無理だよね。」
武田先生はあっけらかんと言った。
えっ、さっきはエミリさんの説明で褒めていたのに?
「だからこそ心威は特別なんだけど、ん~、よく理解していないようだね。…よし、この後時間あるかい?」
さっきの授業が4限目で今日最後の授業だった。
その後の予定はまだ決めてはいないけど、何かあるのかな…。
「…いえ、特には。」
「じゃあ、特別授業として僕とダンジョンに行こうか!」
えっ
「えっ。」
◇
半ば強制的に連れられてきたのは、ずっと前から閉鎖されている旧東京駅地下ダンジョンだった。
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