第41話 ヒナとダンジョン探索 5
同時に賭けるヒナさんとサクラさんに続く形で僕も前に出る。
「火球」
ヒナさんが宝石ゴーレムの一歩手前の地面に向かってスキルを行使した。
…なるほど、そういうことか!
火球が当たった地面からは砂煙が上がり宝石ゴーレムを包み込む。
「氷槍」
そこにすかさずサクラさんが魔法を叩き込む。
ガキンッ!!!
今度は跳ね返されることもなく宝石ゴーレムに命中する。
やっぱり見えないものは反射できないみたいだ。
そして、今の氷槍で核に小さいが割れ目が生まれた。
そこだっ!
「はぁっ!」
僕はそのまま宝石ゴーレムの胸元に飛び込み核と思われる宝石の割れ目にナイフを根本まで力強く差し込み時計回しに回転させる。
宝石の核に亀裂が広がる。
パキッ
パキパキパキッ――
胸部全体へ蜘蛛の巣のような罅が走っていく。
「やった――」
そう思った瞬間だった。
僕はナイフがゴーレムから外れてしまいその場で尻餅をついてしまう。
その時、尻餅をついている僕に向かって宝石ゴーレムの腕が僕に振り上げられていた。
避けられない…っ!
「アルト君っ!」
ヒナさんの声が聞こえ僕は咄嗟に後ろに後転するように回った。
「炎球!!」
火球よりも更に大きい炎の球が生み出される。
ヒナさんの炎球がバラバラに亀裂が入った核へ叩き込まれた。
ドゴォォォォン!!!
核が完全に砕け散り今度こそ完全にガラガラガラッと音を立てて宝石ゴーレムが崩れ落ちた。
◇
今のは本当に危なかった…っ!
あんな重量の腕に押しつぶされたら地面のシミになってしまうところだった…。
バフご飯食べてて本当によかった…っ!
「た、倒せましたね…。」
正直、達成感より疲労感の方が勝ってしまう…。
「…間に合ってよかったぁ…。でも、よくあそこに飛び込んだね、核に突っ込むなんて思わなかったよ!」
本当にギリギリの戦いだった…。
ヒナさんがいなかったら、サクラさんがいなかったらと考えると寒気がする。
気付けば手は汗でびっしょりで、呼吸も少し乱れていた。
「…この先にセーフエリアがあるそうなのでそこで少し休憩をしてもいいでしょうか?」
「そうだね!アルト君、煤だらけになっちゃってるし、最後の炎球、結構近かったよね…ごめんね?」
「い、いえ、助けてもらえましたから!」
僕たちはそのまま先へ進み、500mほど先にあったセーフエリアへ辿り着いた。
セーフエリアの中央には巨大な宝石の泉があった。
水の代わりに光の粒子が湧き出していて、まるで噴水のように宙へ舞い上がっている。
ダンジョンの中とは思えない幻想的な景色だった。
泉の周囲には既に数組のパーティーが腰を下ろして休憩している。
周りの冒険者を見渡すと、腕に包帯を巻いている人、頭から血を流している人、防具が大きくへこんでいる人、どのパーティーも怪我をしておりここで休憩をしているようだった。
…宝石ゴーレムにやられたのかな…?
セーフエリアの存在自体は本で読んでいたけど、実際に見るのは初めてだ。
魔物の気配もなく、多くの冒険者が武器を置いて休んでいる。
…本当に安全なんだろうか…?
いや、気にしても仕方ないか。
ヒナさんも靴を脱ぎ足を休めているようだった。
「本当に綺麗な場所ですね…ダンジョンの中とは思えないくらい。」
思わず宝石の泉を見上げる。
光の粒子が天井近くまで舞い上がり、まるで星空みたいだった。
「新宿ダンジョン名物だからね~。」
ヒナさんが得意げに笑う。
「初めて来た人は大体写真撮りたがるよ。」
「写真?」
「SNS映えするらしいわ。」
「へぇ…。」
言われてみれば、泉の前で写真を撮っているパーティーも何組かいた。
…ダンジョンの中なのにまるで観光地みたいだ。
「…ちなみにここ、本当に魔物が入って来ないんですか?」
少し気になっていたことを聞いてみる。
するとヒナさんが頷いた。
「今まで侵入例はないよ。」
「なるほど…。」
「だから冒険者同士の待ち合わせ場所にもなってるみたい。」
なるほど、だからこんなに人が多いんだ。
「でも。」
サクラさんが静かに言う。
「安全なのは魔物だけよ。」
「え?」
「人間は別よ。」
前にヒナさんが言っていたことを思い出す。
ダンジョン賊…。
「…それってダンジョン賊でしょうか?」
「あら?知っていたの?」
やっぱりか…。
宝石や魔石にはそれだけの価値がある、それはカーバングルの時に感じてはいた。
それでも――
人を襲ってまで欲しいと思うものなのだろうか?
魔物より人間の方が怖いなんて、なんだか嫌な話だ。
「人を襲えば宝石も装備も全部手に入る。」
サクラさんは感情を交えずに言った。
「だから毎年捕まる人もいるし、毎年被害者も出るわ。」
「…。」
「宝石も魔石も高く売れるから、だから欲をかいた人が道を踏み外すこともあるわ。」
「…。」
「…嫌な話をしたわね、今はしっかり休みましょ?」
そう言ってサクラさんもヒナさんの隣に腰を下ろし靴を脱ぎ始めた。
人を襲ってまで手に入れたいもの、僕にはまだ理解できなかった。
でも、理解できないからといって存在しないわけじゃない、か。
◇
本当に綺麗な泉だなぁ。
でも、さっきの話が頭から消えない…。
宝石ゴーレムの核だけでもかなりの価値があるらしい。
もし僕たちが倒したことを知ったら、ダンジョン賊なんて人たちはどうするんだろう。
…いや。
そんなこと考えても仕方ないか。
「アルト君?」
「あ、いえ、なんでもありません。」
ヒナさんに声を掛けられ慌てて首を振る。
考えすぎだ。
そもそも僕たちは宝石ゴーレムの素材を回収したわけじゃない。
それに、こんなに人がいる場所で何か起こるはずもない。
そう自分に言い聞かせながら周囲へ視線を向ける。
その時だった。
「…。」
一人の男と目が合った。
黒い軽鎧を着た冒険者で年齢は三十代くらいだろうか。
宝石の泉から少し離れた場所で壁に背を預けながらこちらを見ていた。
…気のせいかな?
目が合うと男は興味を失ったように視線を逸らした。
なんだ…?
ただ見ていただけか?僕の気にしすぎかな?
そう思って視線を戻した時だった。
「ねぇ。」
サクラさんが小さな声で言った。
「アルト君。」
「はい?」
「あの男。」
サクラさんの視線の先には、先程の黒い軽鎧の冒険者。
「さっきから何度かこっちを見ているわ。」
「…え?」
思わずそちらを見る。
すると男は泉の方へ視線を向けていた。
…本当に見ていたんだろうか?
「別にそれだけなら珍しくもないけど。」
サクラさんはそう前置きした。
「アルト君は目立つもの。」
「ぼ、僕がですか?」
「特殊個体の宝石ゴーレムを倒したでしょう?」
「あっ…。」
そうだった。
あの戦闘は通路で起きていた。
逃げていった冒険者たちもいたし、見ていた人がいてもおかしくない…。
「…まぁ、気にしすぎる必要はないわ。」
サクラさんは肩を竦める。
「ただ、ダンジョンでは周囲を見る癖だけは付けておきなさい。」
「…はい。」
サクラさんはそう言うが、僕は途轍もない不安に襲われてしまう。
「…そんな顔しなくても大丈夫よ。」
サクラさんが苦笑した。
「本当に危険な人間なら、こんな人の多い場所では動かないわ。」
「そ、そうですよね…。」
少しだけ安心する。
確かに周囲には何十人もの冒険者がいる。
もし問題を起こせばすぐに騒ぎになるはずだ。
「それに。」
ヒナさんが泉を眺めながら言った。
「ダンジョン賊ってそんなに多くないからね。」
「そうなんですか?」
「うん。噂は大きいけど実際に遭遇する人は少ないかな。」
そう言われると少しだけ肩の力が抜けた。
やっぱり考えすぎだったのかもしれない。
その時だった。
黒い軽鎧の男が立ち上がる。
そして――
僕たちを見ることもなく、そのまま奥の通路へ消えていった。
「ほらね?」
ヒナさんが笑う。
「ただの冒険者だったでしょ?」
「みたいですね。」
僕も苦笑する。
やっぱり考えすぎだった。
そう思った。
だけど、通路へ消える直前、男は誰かに小さく手を振っていた。
その先には――
別の通路にもたれ掛かる二人の冒険者。
…僕は気付かなかった。
サクラさんだけが、その光景を見て小さく眉をひそめていたことに。
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